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14.少女(偽)とゴーレム(偽)たどり着く

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「あった!」
 目印となる場所を見つけ、リンの声が弾むが、同時に後ろから声が聞こえてくる。
「やっべ」
 リンは慌てて、背中のザックからハーディの手を取り出す。ハーディ曰く、器を切り離しても魂は切れないので、一部だけでも魂がつながっている部分を当てればいいとのことだった。
 リンはハーディの手を切り離すことを嫌がったが、最終的にそれしかないということになり渋々承知するしかなく。最も、こういうことを一番いやがりそうなハーディから提案されたということも大きかった。
「うまくいってくれ!」
 リンがハーディの手を体ごとぶつかるように壁に当てると同時に男たちが姿を現した。
「見つけたぞ!」
 だがその声を上げた男たちの前からリンの姿が消える。正確には壁に吸い込まれるように消えたのだ。
「な…なんだ?!」
 男たちは何が起こったのかわからず、呆然とした後、慌ててリンを消えた辺りをたたくがそこにはかわらず壁があるだけだった。
 一方リンは。
「ぎゃあああ!」
 身構える暇もなくポッカリとあいた穴へ落ちたかと思うと、そのままゴロゴロとなすすべなく転がり落ちてしまう。どうやら坂になっていたようだ。
「こんなん聞いてへんぞハーディのバカ!」
 ようやっと転がり落ちるのが終わり、リンはイテテと言いながら、注意深く周りを見渡すが真っ暗だ。
「えーっと、明かり、明かり…」
『おねえちゃんだぁれ?』
「?!」
 すぐそばに聞こえてきた声にリンはハッと身構える。だが、声はあどけなく幼い。
『だぁれ?』
「……ハーディから頼まれたんや」
『おにいちゃんから?』
「おにいちゃん?」
『うん。ハーディおにいちゃんはだれにもあそんでもらえなかったぼくとあそんでくれたんだ』
 それを聞いて、リンはヒクリと顔を引きつらせた。今話している相手は間違いなく幽霊だ。どうしようと冷や汗をかくリンの手に、何かが触れてくる。手を引くよりも先にその感触に覚えがあり、踏みとどまった。
 ハーディと同じ砂の感触。つまり。
「ハーディに体を作ってもらったんか?」
『そうだよ』
 嬉しそうな子どもの声にリンは深呼吸をする。大丈夫。
「ハーディの体がどこにあるか知ってる?」
『しっているよ。みんなでまもっているの。どうして?』
「ハーディの魂をつれてきた」
『たましい? それっておにいちゃんがもとにもどるってこと?』
「そうや」
 リンが頷くと、リンの手をキュッとつかまれる。ハーディと同じ感触だけど、それよりもずいぶんと小さい手。
『ほんとうだ。おにいちゃんがいるね』
「体のところまで連れて行って。急ぎで」
『わかった』
 手に引かれてリンは走る。しばらくして暗闇に目が慣れてくるが、目の前の幽霊…ゴーレムの形はボンヤリとしかわからない。
「まだ?」
『もう少しだよ…ほらついた』
 言われて目を凝らすとそれなりに広い場所のようだ。
「ここ?」
『うん。そこのもりあがっているところにおにいちゃんが…え?』
「なに?」
『みんながおねえちゃんはだれだって』
「皆?」
『うん。みんな』
 途端にヒヤリとした空気が周りに流れる。身に覚えのある空気にリンは涙目になった。苦手な幽霊に囲まれている…それだけで腰が抜けそうになるが、ハーディの手を縋るようにギュッと胸に抱きしめながらなんとか踏ん張った。
「ハ…ハーディをつれてきてるんや」
 だが、声の震えは止まらない。子供の声がうんうんと何かを聞いている。
『おねえちゃん、みんながはやくおにいちゃんのたましいをもどしてあげてほしいって』
「わ…わかった…どうすれば」
『そのもりあがっているところにおにいちゃんのてをおいて』
「よ、よし」
 カクカクとした動きで、リンは右手を置くとモゾリと土が動く音がして、目の前の盛り上がっているところがどんどん崩れていき、ヌッと何かが起き上がってくるのがわかる。息を殺して見つめていると…。
「うわぁぁ…誰ですかぁこんなところにワタクシを埋めたのはぁ」
 聞き慣れた呑気な声が聞こえた途端、リンは現れた人物に飛びついた。
「ハーディ!」
「リンさん」
 受け止める腕は柔らかで。リンは不覚にも泣きそうになる。
「よかった…よかった…」
「はい…リンさんのおかげでございます」
「感謝しろ」
 しばらくそのままだったが、ハーディが不思議そうに首を傾げた。
「ところで」
「何?」
「なんで真っ暗なままなのでございますか?」
「あ」
 幽霊に出会ってしまい、動転して明かりをつけるのを忘れていたのだ。リンはハーディから体を離すと、ザックのなかから照明を取り出し明かりをつける。
 明かりの中から浮かび上がってきたのは。
「リンさん?」
「ハーディ…やんな?」
「はい」
 穏やかに笑う青年は予想よりもガッシリとした体格で、それなりに凛々しい顔立ちをしていた。リンは何となく気恥ずかしくなって辺りを見渡して、ある一点で目を止め…その異様な姿に目を丸くして固まってしまう。
 次の瞬間。
「ぎゃあああ!」
「リンさん?!」
 思わず叫ぶなり目の前のハーディにガッツリと抱きつく。恥も外聞も関係ない。
「あれなんやぁ!」
 真っ青な顔でリンが指差す先にはかろうじて人かな?とわかる程度の人形がたたずんでいた。その姿形はかなり独特というか…前衛芸術というか…な造形である。
『おねえちゃん?』
 それが顔らしきものを傾け、声を発してリンはようやく悟った。
「も…もしかしてお前、アタシを案内してくれた子?」
『そうだよ?』
 ふと周りを見渡すと、多少、大きさが違うだけの似たり寄ったりの造形の土でできた人型が壁際にズラリと並んでいる。
「リンさん?」
「……ハーディ」
「はい?」
「お前、これ特定のモデルがいるんか?」
「特定のモデルじゃなくて、それぞれの幽霊さんたちがモデルですけど」
 不思議そうに首を傾げるハーディにリンはガクリと地面に手をつく。
「……そりゃ悲鳴もあげるわ」
 こんな姿を見たらそら誰でも悪人の仕業に見えるわ!とリンはものすごく納得した。同時にいくら何でもこんなんには入りたくないよなとも。ハーディ本人に悪気がない分、幽霊たちも文句が言えなかったのだろう。
「え? え?」
 わけがわからず首をひねるハーディに、リンは頭を抱える。まさか単なる美的センスが理由だけでこんな大事になるなんて!
 しかし、ハーディの美的センスは破壊的ではあるので、仕方ないかとちょっと思ったりもしたり。だが、とにかくこれをなんとかしなければいけないことだけはわかる。リンは難しい顔で人型を見つめた。
「この人型ってさ、アタシが手直ししても大丈夫なんか?」
「はい。母が以前手直ししたことがございますが、中に入ることができておりました」
「そうか…なんとか姿形がわからんかな…」
 リンが呟くと、ハーディが聞き返す。
「それは幽霊さんたちの生前のお姿のことですか?」
「うん。わかったらなんとかなるんやけど」
 ハーディはふんふんとうなずきながら幽霊たちと話しだした。
「なんとかなるかもしれないそうですが」
「が?」
「……部屋を暗くしないと見られないかもとのことでございまして」
「……」
 つまり真っ暗な中、幽霊たちに囲まれるということになる訳で…。リンは顔が引きつるが背に腹は代えられない。
「かまいませんか?」
「かまわんわ! やったる!」
 ちょっぴり声が震えてしまったのはご愛嬌。
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