クラスに馴染めない少年はいつまで経っても初恋に囚われ続ける

Onfreound

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EP3

#45.5~65-2-4

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 演技をするのはいいのだが、この作品に関しては辞退すべきだった。

 主人公はとある村の少女、だったのだが、青年に変更された。魔王に沢山の人々が連れ去られる事件が発生した後、彼はくじ引きによって勇者に任命される。そして、魔王討伐の為の冒険に向かわされる。

 その道中で賊に襲われていた獣人を救い、共に戦うことになる。様々な苦難を乗り越えるうちに2人は恋仲となり、魔王城侵入の前夜、結婚の約束をする。しかし...という話。やる側としてはなかなかの内容だし、やたらとオーバーリアクションを強いられる為、しんどい。

 白渡の権限、というか監督の脆さによって、主人公は僕、獣人は黒瀬、魔王は白渡がやると決まった。僕が予想していた"他のメンバー"はそもそもおらず、白渡の勧誘で集めていた。あの監督の態度の大きさは何だったのか。

 ちなみに、監督には大きな問題があった。空き時間に練習が行われたのだが、彼は演技指導の経験が無く、文句が出るわ喧嘩が怒るわ大変だった。色々な指導法があるとはいえ、5分前に良いと言った部分を思い出してダメ出しするのは困る。

 しかも、台本が酷い。数日毎に彼が手書きで訂正を加えた冊子が配られるのを許したとしても、形式がバラバラで字も汚いのは耐えられない。特に最終版はただ文字が書いてあるだけの紙の束である。なんか色々書いてあるが、どれが誰のセリフなのか分からない。その頃にはもう気にしなくなっていたが。

 しかし、黒瀬の様子は奇妙だ。僕に対しては以前の様な態度をとれないのに、劇に参加、それも注目される役を務める積極性を見せた。よく分からない奴なのは知っているが、一時的に別人になる能力を持っていたようだ。

 で、本番。ステージ発表の序盤に突っ込まれているのは、多分期待されてないからである。

   「くらえ、スーパーウルトラミラクルソード!」

   「...やったね、勇者様」

 セリフは簡単で間違えてはいない筈だが、何故か共演者に対し申し訳ない気持ちになってくる。会場の反応も薄いし、切ない。

   「魔王はあそこの築72年で耐火性に不安のある何かしらで出来たお城にいます。どうか、私達を救って下さい!」

 決戦までの展開はそこまで奇抜ではない。流石に観客も、盛り上がるポイントは分かっているだろう。こちらの演技力の問題なのだろうか。席にいる監督は号泣してるが。

 そんなこんなで、終盤に至る。この劇の中で唯一、冷や汗以外の感覚を覚えるタイミングが訪れる。

   「魔王との戦いが終わったら、俺と...」

   「...うん、約束だよ」
  
 背中を向けあいながら、恒例のフラグを立てるシーン。正面にしなかった事だけは監督達に感謝している。流石に恥ずかしくて、顔は見せれない。

 しかし、僕はこんな約束をする主人公にはなれない。リスクを賭けて、相手の力量とか神とかに自分の運命を委ねる気は起きない。

 どうしても何かに任せなければならないなら、後から委ねた事にしてしまえば良いのに。そんな精神で生きてると、こんな状況すら訪れないのかもしれないが。
   
   「......約束とか、するもんじゃないしな」

 なんて呟いても、どうにもならない筈だし。


 最終決戦。勇者と獣人は全力で戦うも、魔王に呆気なくボコボコにされる。縛り付けられ、2人は死を覚悟する。

 こうなると、物語的には秘めたる力が出てきたり、仲間が駆けつけたりしそうなものである。だが、脚本家は最後だけ、特殊な展開を用意していた。

   「ふふふ、勇者君。ここで私に永遠の愛を誓えば、この剣は引き抜いてあげるよ」

   「...ぐ、ぐぁぁ...助け、て...」

   「わ、分かった!誓うから、もう止めてくれ!」
 
 魔王は獣人に刃を突き刺しながら、勇者に迫る。彼は已むを得ず求愛を受け入れるが、獣人は助からず命を落とす。これが、この物語の結末。
 
 僕の役割は、最後の台詞を残すのみとなった。観衆の空気が明らかに文化祭のものではないが、気にしてはいけない。とにかく練習の通り、はっきりと...

   「勇者になんて、ならなきゃ...」 

   「ところで伊折君。皆んなの前で永遠の愛を誓ってくれたのは良いけど、それっぽい行為をするのが君の責任だよね?」
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