上 下
48 / 79
Side Story

#41

しおりを挟む
 目が覚めると知らない男が2人。久々の夢は、非常に理解の難しい状況から始まった。

 片方は、もはや前時代感のある派手な衣装に身を包み、ピアスと化粧をしたチャラ男。外見へのこだわりは伝わってくるが、その姿に弱々しい顔が追いつかず、ただダサいだけの人間になっている。

 もう片方はネクタイの曲がったスーツを着ており、寝癖が跳ね、薄く髭の生えた不潔そうなサラリーマン。しかし何より目を惹くのは、社会人らしい服装なのに捲られた腕と足である。

 ヤンキーっぽい奴に囲まれ、襲われていたとかいう展開の方がまだ納得出来た。彼らが誰であるかという問題より、どうして2人は一緒にいるのかという疑問の方が先に生じる。

   「あのー、寝起きドッキリなら失敗してますよ。1人30万ずつ置いて退出して下さい」

   「おっと、そいつは無理な相談だぜ」

   「相談じゃなくて命令だから。早く出せピアスマン」

 チャラ男は僕の嘆願に耳を貸さず動かない。次の言葉を考えていると、突然、自己紹介をし始める。

   「俺は27歳の新色伊折。ちょうど君ぐらいの歳の頃に、人生の路線を変更してイケ男になったんだ」

   「僕も27歳の新色伊折。僕は逆に路線の深化を決断して、何にも縛られない社畜になったんだ」

   「縛られてるじゃん」

 どうやら未来の僕らしい。人生の路線とか訳の分からない事を言っているが、かえって僕である事を実感させられ悲しくなる。

   「高2の俺よ、今すぐ歯を黒くして流行に乗るんだ。俺は数十年以内に美人上司のヒモになる予定だから安心しろ」
 
   「ツッコミ所が多すぎて困ってんだけど、とりあえずお前年下好き捨てたの?」

   「俺は出世出来ねぇから年下も大体上司だ」

   「自分を捨てちゃ駄目だ。このまま捻くれ腐れ少年でいろ。そのうち、ゲリラ戦で共闘した少女と結婚出来る」

   「絶対僕じゃないよね。いつゲリラに行く程の積極性が生まれるんだよ」

   「多分明日だ」

 こいつらは楽しそうだが、話を聞いている限り、どちらの道を選んでも幸せになれなさそうである。

   「さぁ、今すぐ新たな新色伊折に生まれ変わるんだ」

   「いいや、新色伊折としての伝統を守るんだ」

   「伝統って何だよ」

 何かの勧誘並みにうざったい2人に抵抗する。すると、急に扉が開き、誰かが入ってくる。

   「...黒、瀬?」

 顔は大人びているが、間違いなく黒瀬のもの。だが、彼女はサイズの大きい緑のジャージを着ており、黒のズボンもブカブカである。

 手足が完全に隠れてダウナーっぽさが増している、なんて事はどうでも良い。それより、確かめなければいけない事がある。
 
   「えっと、その服とかズボンとかって、もしかして僕の?」

   「...先輩、よく気づいたね」

 そう言うと、彼女は男2人を蹴りで吹っ飛ばす。勢いそのままに、彼女は僕を押し倒す。

   「...私は26歳の黒瀬楓、路線を切り替えて、欲しいものは強引に奪っちゃう事にしたの」

   「ま、待て。この物語、年下の女に襲われる展開が多すぎやしないか」

   「...先輩、私今は年上だから、ネタは被ってないよ」

   「いや黒瀬に食われる話自体にど...ぐふっ!?」

 彼女の押さえつける力が強まった瞬間、目が覚める。当然、この部屋には誰もいない。

 確かに夢は滅茶苦茶なものだったりするが、こうも狂った内容だったのは初めてだった。ここまで謎だと、神からのメッセージとか、何らかの意味があるのではないかと推測してしまう。

 朝なのに疲れの溜まった身体を起こし、立ち上がる。

   「結構な年上に先輩って呼ばれるのって...まぁ、黒瀬だからな」

 変わったり、変わらなかったりして生きていくのだろう。子供らしい妄想に、寝起きの頭でそう結論を下したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯

あさかん
ライト文芸
~以後不定期更新となります~ 両親が他界して引き取られた先で受けた神海恭子の絶望的な半年間。 「……おじさん」 主人公、独身男の会社員(32歳)渡辺純一は、血の繋がりこそはないものの、家族同然に接してきた恭子の惨状をみて、無意識に言葉を発する。 「俺の所に来ないか?」 会社の同僚や学校の先生、親友とか友達などをみんな巻き込んで物語が大きく動く2人のハートフル・コメディ。 2人に訪れる結末は如何に!?

処理中です...