クラスに馴染めない少年はいつまで経っても初恋に囚われ続ける

Onfreound

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EP2

#E-3

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   「沢山書いてくれてありがとう!だけど、しまった、大切な事を忘れていた!」

 先生はまた、私達に紙を配り始めた。慣れてきたのか、そのまま説明も続けていた。

   「いい?今度は紙にかいてある事をよく見て、いおりだいまおうの倒し方を教えて欲しい。奴の弱点を見つけ出すんだよ。じゃあ、スタート!」

 そう言うと、先生は黒板の方を向いて、軽く下を見た。手をぎゅっと握りしめ、緊張している感じだった。さっきまでの明るそうな様子との変わり具合を、ちょっと不思議に思った。

 授業は、つまらなくはなかった。別に楽しいって程でも無いけど、たまには勉強以外の事をするのも良いかもしれない。

 そんな事より、私が気になっていたのは、先生の昨日の言葉だった。

   『そこまで悩むんなら、理由をつくってやるよ。明日』

 既に昼休みは終わっていた。放課後があるとはいえ、体験最終日の挨拶とかで今日は時間が無いらしい。

 まぁ、そもそも他人に私の目標を作ってもらおうとしているのが間違いなんだけど、私は縋ろうとしていた。

 帰る前に教えてくれるのかな、それともやっぱり無理なのかな、色々考えながら、目の前にある紙を見た。

   「え...何これ...」


 書き終わると、先生は皆んなに、いおりだいまおうの紹介をさせ始めた。

   「いおりだいまおうはじぶんのほっぺのパンをたべて、しょっちゅうトイレにいきます。だから、トイレをこしょうさせれば、ながせなくてしにます」

   「やつのたいようこうせんは、あつさでいろんなものをとかしちゃうんだ。でも、はんしゃばんでいおりだいまおうののうみそにあてれば、すぐにいっちゃうよ」

 1人1人、それぞれのいおりだいまおうを紹介していた。でも、皆んなの声はあまり耳に届かない。

 思いつかなかった。こいつの倒し方が。

   「最後、お願いしていい?」

 気付くと、先生が私の前にいた。

 仕方なく、ふらふらと立ち上がり、紙をクラスメートの方へ向けた。汚い絵の隣に、こう書いてある。

   『強制的に人に勉強させ、遊ぶ事も話をする事も出来なくし、皆んなをぼっちにする」

   『勉強ばかりしていて、近づき辛い雰囲気を纏っている。友達が出来ない為、皆んなも自分と同じ状況にしようとしている』

 大魔王の癖に地味過ぎる。目的のしょうもなさに加え、手段のダサさが大魔王らしくなさを加速させている。

 で、どう倒せばいいの?

  「いおりだいまおうは、勉強ばかりして...」

 勉強しなければいい?勉強用具を燃やせばいい?頭の中は迷走していた。

  「それで、倒し方は...」

 言葉が詰まり、先生の方を見てしまう。

 先生もこっちを見ていた。目元は少し暗かった。"彼"とは違う、自信無さ気な姿だった。

 その時、先生が小さく呟いた。

   「お前は何を"する"んだ。奴を倒す為に」

   「......」

 一瞬戸惑う。でも、彼の言葉を信じて、言った。

   「勉強させられる前に、私が勉強するんです」

 周りは困惑した様子。でも、彼は満足そうに頷いた。

   「自分から勉強すれば、いおりだいまおうが力を使う事はありません。というか、沢山勉強して、逆に友達を作ってしまえばいいんです。皆んなから頼りにしてもらえる存在になればいい。そうすれば、いおりだいまおうは自分の力が無力だと気付き、きっと、逃げていきます」

 思いつく事を並べて、何とか理由の形にする。クラスメートの受けは微妙だったけど、どうにか言い切れた。

   「良いじゃん、それで」

 先生の声がする。

   「納得してくれないかもしれないけど、今はそれで良くないか?お前が勉強する理由は、"伊折大魔王"を倒す為、って事で」

 お前が見つけた理由だしな、そう言った後、彼は先生らしく、締めの話を始めた。


 職員室へ向かおうとする先生を掴んで、引き止める。

   「...何?これから用事なんだが」

   「先生」

 真剣な声で呼ぶ。先生は困惑した様子だったけど、無視して告げる。

   「4日間、ありがとうございました。私、いおりだいまおうを倒して、人気者になりますから」

 先生は笑った。笑いながら、答えた。

   「おう、絶対に伊折大魔王を倒せよ。その為にも、頑張って勉強するんだな」

 意味の分からない、めちゃくちゃな理由ではあった。

 けれども結局、それは大切な、私が勉強する理由になった。やはり、あの彼の言葉だったからからなのだろうか。
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