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~舞鶴屋 椿 乱舞~四刻
❁⃘*.幻の中の式神
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廊下の軋む音とともに聞こえた声。
驚きを隠せない踊り子。
__ギッ…ギッ…
常闇広がる廊下から次第に近づいてくる足音と人影。
そして、複数の足音が加わり、現れたのは…
「…先程の笑みはなんです? この後何か、楽しい事でもおありで?」
フフッと笑みをこぼし、光陰が現れ、その後ろからは蘇芳と蒼全が姿を現した。
「貴様か」
持ち前の無表情に近い表情 かつ 落ち着いた口調で言い放つ蘇芳。
その二人の言葉に
「…あら、いい男が三人も。私にになにか用ですか?」
笑顔で言う、踊り子の椿。
「とぼけるな」
椿を睨む蒼全。
「なんの事ですか? …それにあなた方はどこの座敷のお客さま? 迷われたの?」
未だ笑顔の椿は平然とした様子でいた。
「いえ、わたし達はちょっと貴女にお話があって来たんです。それに、貴女はもう、お気付きのはずですよね? わたし達が昨日来た新入りである事を。__冥鬼…あるいはそれ以外の存在である…椿さん?」
笑顔で言い放つ。そして、その表情の裏に何か黒いものを感じさせる光陰。
光陰の眼光が鋭くなる。
その瞬間、椿の表情が一変し、
「…あーあ。 この生活も案外、楽しめたのに。…どうしてくれるの?」
「三人も殺しておいてよく言える」
すぐさま言い返す蘇芳。
「あらなに? あなた達は私をあの下等な奴らと一緒にするの? 案外酷いのね。傷ついちゃう」
少々色っぽい口調で、傷ついたとばかりに豊かな胸元を軽く押さえた。
その様子にしびれを感じたのか、小さくため息をついた後、蒼全は右人差し指を天上に向けた。
すると、一瞬、小さな水の集まりができたかと思うと、スッ…と消えた。
なにかの合図なのだろうか…?
***
この頃、御三家当主はというと
__…フッ…
「! 萩くん…!」
座敷内に置かれていた四つの、燭台のろうそくの内、一つの火が消え、東雲は小さな声で萩に知らせた。
その声に反応し、垂れる白い布の中で閉じていた目を開き
「蒼全からの知らせが来た。…犯人のお出ましのようだ」
その瞬間、優利と皐那斗の二人も目を開け、そして、三人は頭に巻いてあった家紋入り白布に貼っていた札を外し、囲み座っていた陣の描かれた巻き物の真上、空中へと投げ捨てた。
すると、上空からヒラヒラと舞っていた札にボゥ…と狐火のような青白い火がついたかと思うと、直ぐ様、灰と化す事もなく消滅した。
萩たちはその場で立ち上がり、
「行こう!」
早歩きでその場から立ち去り、蒼全たちが待つ場所へと向かった。
座敷を出る際に萩は小声で東雲に、ありがとうと言った。
五時間もの間、萩たちはずっと、座敷で何かに集中しており、東雲達もずっと片時も離れず、萩たちの体力回復を手伝っていた。
一方、蒼全たちのいる所ではある変化が起きていた。
それは…
まず、最初に気づいのは、椿だった。
「…急に静かになった」
___そう。蒼全が萩たちに合図をした後、今まで騒々していた店内が一瞬で静寂に包まれた。
唯一、聞こえるのは、外で降る小雨の音。
「!」
椿は自分がもたれかかっていた襖から瞬時に離れ、勢い良く、それを開いた。
__ガラッ…!
「!?」
…なんと、先程まで自分がいた座敷内は、客の姿もなく、もぬけの殻だった。
「どうして!? …まさか…!」
「幻…ですよ」
「!」
椿は声のした、左側廊下に顔を向けた。
明かりが灯された廊下のその先に
___ギッ…ギッ…
「…貴女だったんですね」
式陣服を身に纏った萩を先頭に、後方には同じく、式陣服を身に纏った皐那斗、優利、そして式神としての本来の姿と化した、女性群がいた。
その直後、椿の後方の光陰たちも、スゥ…と本来の姿と化し、皆、戦闘態勢へと入った瞬間だった。
「…あら、完全に挟まれた…ってとこね」
口角を上げ、怪しげな笑みを浮かべた状態で、前後、目を動かしながら言った。
「その格好といい、もしかして…ここいらの名のある式神師さん…と、式神かしら?」
こんな状況の中でも、まったく動揺していない、椿。
「だったらなんだ」
言葉をかえす蒼全。すると
「フフッ…だって私、初めてなんだもん。式神師さんも…式神も」
嬉しそうに語る椿。
「それにしても、よく分かったわね。私がしてたって事。尊敬しちゃうわ。__ねぇ、そこのところ、教えてくれない?」
目を細めながら、怪しげに見つめた先は萩だった。
「…」
軽く沈黙が続き、萩はゆっくりと口を開いた。
「僕たちはあなただと確信した上で、これを行っていた訳ではありませんよ。ある意味、予測の範囲内です。
…まず、最初に、予測のもととなったものは二つあります。
一つめは、…椿さん。貴女はここに来て、まだ新米の身でしたよね?
新米の身である貴女は仕事に慣れるため、他の踊り子の方たちより、沢山のお客さんのもとへ行かれました。それは周りからはなんの問題もないように見える。だから、彼女たちは気にはしなかった。
貴女は、昨晩、仕事を早めにあがられましたね? 閉店後、僕たちは踊り子の方に殺された方たちについての話を、桔梗から聞きだしてもらったんですが…その時、皆さんがまず、口にされたのが、今まで殺された客と必ず一度は接していたのが、あなただという数人の証言でした。
彼女たちは全くもって不信感を抱かない…いや、抱く必要がなかった。
あなたは沢山の客と接する事で効率良く、冥魂を探し出し、奪う事を実行した。
…まさか、男性客も自分が初対面の踊り子に殺されるとは思ってもいなかったでしょう。
二つめに、あなたは僕たちが桔梗や涼代さんから話を聞いていた際に一瞬でしたが、ふと外の景色を見られていましたよね。なにを見られていたのです? …それとも、誰とでも言いましょうか」
萩は口角をあげながら言った。
段々と自分たちの予測が確信に満ちていっている事への気持ちの表れだろうか。
「あなたの視線の先にはこの土地の神も含めた数人がいました。もちろん、普通の人間には見えざる存在。…だが、見える者がいるとすればそれは…僕らのように冥魂を持つ者、あるいは冥鬼か、それ意外の存在…冥魂を持つ人間だろうと、目の前に見慣れない数人の異様な存在がいるとなると、表情一つ変えずいるのは難しい。
だが、あなたはそれを何事もないかのように見つめていた。
今はごく普通のように話している僕も、最初はこの事に全く気付く事が出来なかった。
そのせいで、亡くなるはずのなかった命を亡くしてしまった…。
しかし、貴女の名前が出てきた時、もつれていた糸が解けたように、思い当たる節が次々と出てきた。
__以上、この二つの点を元に僕たちはこの、舞鶴屋全体に幻の結界を張っていたんです。あなたが来る少し前から。なので結界を解いた今、あなたが今まで感じ、聞いていたものすべてが消え、静かになったというわけです。
冥鬼には幻の結界は、普通の結界より感じ取りにくく、タチが悪い。
…それと、この店には今、僕らとあなたしかいませんよ。
なぜなら昨晩、女将さんに頼んで、今日は定休日にしていただいたので、他の踊り子の方や女将さんはおろか、お客さんもいらっしゃいません。
また、あなたがこの店に入られたのを確認してから…今頃、玄関先には蒼全に頼んでおいた貼り紙が貼ってあるでしょう。内装工事のため、などと言ったように」
萩は一通り、話し終えた。
「フフッ…ご丁寧に詳しく話してくれてありがと。優しいのね。…あの方までじゃないけど…」
最後にボソッと言葉を付け足しながらも椿は言った。
「皆の話や私の些細な行動だけで、こうもあっさり分かったなんて…少し甘く見すぎていたようね。
最初、あなたたちが入ってきた際にあまりにも大勢すぎるし、ましてや、三人が冥魂を持っている事には正直、疑念を持ったけれど、そこまで思わなかった。…この事が一番の失態かしら。でも、まさか、女装した男、…式神師だったなんて…さすがね。女装も何度か経験おあり?」
フッと、軽くあしらったような物言いと表情の椿。
最後の言葉に多少反応した様子の萩だが
「…いえ、今回ので貴重な経験になりました。…それにしても、この一件があなたの仕業だと分かった今、正直、血の気が引きましたよ。知らなかったとはいえ、まさか、犯人を目の前にした状態で、犯人についての話を聞き出していたとは…」
「そうね。あなた達は新入りとはいえ、あまりに詳しく、殺害状況を聞き出していた、その時点から私も注意して行動するべきだったわ」
未だ、怪しげに口角をあげたままの椿。
どこか不気味だ。
「一通りの説明を理解できて頂いたなら、今度は僕たちの質問に答えてもらいますよ?」
「…あら、なに?」
「僕たちはこの店に来てからというもの、全部屋の入り口に冥鬼に反応する札を張っていたんですが…あなたは見事にそれを避け、中に入られた。…という事はあなた自身、冥鬼ではなく、また別の存在、となりますが、…一体、何者なんですか、椿さん」
言葉と共に、一気に皆の視線が椿に向けられた。
「…」
静かに息を吐いた椿。そして
「だから、私をあんな下等な奴らと一緒にしないでほしいわね。私自身の価値が下がるじゃない」
軽く困った顔をしながらも口角をあげながら言う。
「でも、そんなに知りたいならさっきの話のお礼に教えてあげるわ。…そうね~…強いて言うなら、あなた達と同類かしら」
椿はある特定の人物を指差す。
「!?」
…なんと蘇芳だった。
「式神!?」
萩を含めた、その場にいた数人が驚き余った声を発した。
「んふふ…そうゆう事」
楽しそうに笑いながら答えた。
「我らの主、覚醒のために」
「!?」
萩と蒼全は椿のその言葉に反応を示した。
…我らの主…覚醒___
この二つの単語に以前、聞き覚えがあった。
それは…
___刹那。
「刹那…」
思わず口にした言葉。
刹那とは以前、一度だけ、萩と蒼全の前に姿を現した少女の名。
「…なに? 刹那…あの子の事を知ってるの?」
軽く驚いた様子の椿。
「…以前一度、お会いしたので」
「…そう。前に一度、ねえ。___初耳だわ」
私は、なんの報告も聞いてないわよ…?
ふと、疑問に思った彼女。
「あなたは彼女の言う、主のために冥魂を集められているのですか? あなたがたは仲間なんですか…?」
思い当たる節をまとめて尋ねてみる。
「___仲間…そうねー…わたしたちは仲間であり、…家族みたいなもんよ」
「…家族?」
萩は疑問に思った。
式神同士で家族…? 一体どういう意味なんだ。
「…ようするに、同じ穴のむじなってやつよ。ここまでが私の話。…と言っても、少々、口が滑り過ぎたかしら」
軽く笑みをこぼすと、椿は部屋の中にそそくさと入り、窓に片手と片足をかけ、
「今度は、あなたたちに見つからないように行動する事を心がけるわ」
一言、言い放つと、窓にかけた足を勢い良く踏みしめ、その場から外へと降りた。
その椿の行動を待っていたかのように、萩たちは少々驚きながらも、落ち着いた様子で各家 式神師と式神は互いに目で合図し合った後、御三家は皆、別々に分散し、自分たちの仕事パターンで椿の後を追いかけた。
別々の角度からの攻撃が有効であると考えたようで、初めから、椿を店の外に出すつもりだったようだ。
店中だと、むやみに闘うことがこちら側では不利だと判断した。
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