キツネと龍と天神様

物語りの龍曰く

　あくせく働くあなたはみてられない。

　小さな紙に簡単に書かれた文字に男は立ち尽くした。台所に残った小さな机、最低限の食器。
　残業を終え帰ると、部屋は真っ暗だった。

　何かあったのかと慌てて電気をつけると、家具と妻の姿がない。
　理解が追いつかないが、台所の机の上に紙切れに書かれた文字を読んで、納得した。


　男は冷静に、まずはバスタオルが残っているか確認。
　コンビニに諸々を買いに行くことにした。

　風呂を終え、コンビニ飯を摘まみながら晩酌。
　テレビもない棚もない部屋の広さを感じながら、この家には自分の物がなかったんだなと思った。
　呑みながら家賃とか光熱費と、生活に必要なものが頭に浮かんでいく。
　部屋隅の自分の机の引き出しをあけると、通帳と印鑑はあった。残高もある。
　慰謝料とか払わないといけないのかな、と思いながらその日は眠ってしまった。


　次の日、郵便受けに部屋の鍵が入ってあった。
　ポケットに鍵が二つという変な感覚に酔ったのだろうか、それとも昨日の深酒のせいだろうか、人生で初めて宝籤を買ったみた。






　数か月後、男は部屋を出ることにした。
　会社も辞めて、高級マンションに住むことになったからだ。