キツネと龍と天神様

歩むよりも遅い速度で龍曰く

　もう店じまいなんだよと、店主が店内の少女に声をかけた。

　ぼんやりと何か考えていたのか、少女は驚いている様だった。
「買われませんか？」
　店主が少女の前に掛けられた絵画を指さす。
「えぇ、私なんかじゃ釣り合わないし」
　大きな家に住んでないですし置くところもないですよ、と自虐的な笑みを浮かべた。
　「そうですか」と店主は、悲しそうな顔をした。
「度々、居座ってしまってすいません。今日で最後にしますから」
　時より絵を見に来る少女は謝った。
「いえいえ、構いませんよ。どうせ閑古鳥が鳴いてますしね。……、少し言わせていただいても宜しいですか？」
　はい、と少女。
「ご自身のことをこの絵と釣り合わないと仰られたが、それは違う。釣り合おうとしていないだけですよ、釣り合う努力をされればいい、大きな家に住めるようになればいい、置くところを作れるようになればいい。努力されてから、無理な時に弱音を吐かれればいいと思いますよ」
　店主は笑顔だ。
「そう、ですね」
　少女は悔しそうにして、頭を下げて帰っていく。

　店主は絵画の下の商品名「見たいものを見せる絵画」に予約済みと書いた。