キツネと龍と天神様

真昼に望むキツネ曰く

　僕らは、僕らにしか見えない。

　偶に見えちゃう人もいるけれど、それは稀だ。
　居酒屋の等間隔に座った人たちの中、僕を見つめる人がいた。あぁこの人は見える人かもしれないなと思った。
　それでどうこうするわけじゃない、どうもしない。人の世界で生きているんだ、ただ人の真似事をし続けるだけ。
　僕が人じゃないと騒がれても、普通の人にはわからない。
　だから、僕はあくまで人としているだけ。

　このご時世、会も早々にお開き、駅のホームに歩き出した僕は声をかけられた。

　彼は僕が昔の知人とよく似ていて、声をかけたのだという。
　他人の空似だね、と酔った風に言った。彼が呑みなおしませんか、と誘ってくれたが、丁寧に断って次の機会にと連絡先を教えた。

　駅で笑顔で手を振る。
　もしかしたら数十年前、子供の彼に出会っているのかもしれない。が、記憶にない。

　彼に会うのは、また数十年後かもしれないな、とへべれけ思考をしてから、いやいや勤め先か、と電車に乗った。