キツネと龍と天神様

嗤う天神曰く

　その男は、遊女に化けた妖に惚れていた。
　変わらぬ美しさと幾年も蓄えられた知性に魅力があったのだろう。
　その遊女は誑かしに厭きていた。そろそろこの姿も棄てて、別の土地、別の姿をと、考えていた。

「結婚してくれ」
「へ？」
「身請け金は払えるから」
「は？」

　妖は男の言葉に戸惑った。が、退屈しのぎにはなると思った。
　一緒に暮らし始めることになった。

　十数年後、年をとらぬ自分の妻を男は訝しんだ。
　妖は別れを覚悟して、己が男との生活を惜しんでいることを知った。

「そうさ、妖だよ、私は」
「なんで黙ってた？」
「それは……」
「なんで、早く言ってくれなかった？」
「すまない、とは思う…」
「若作りが間に合わんだろう」
「は？」
「若いままのお前をずっと見れるから、ヨシとしよう」
「へ？」

　男は嗤う。
　幾年後、男が死床についたとき、妖は泣いて懇願した。

「置いていくな、置いていくな頼む」
「それは…駄目だなぁ。達者でなぁ」

　遺言はそれだけだった。
　妖は、すぐに自ら命を絶った。