キツネと龍と天神様

懐って切なくなるキツネ曰く

　僕、キツネの知るその人は、とても綺麗な人だった。

　「ね、──ちゃん、今日は何処に行こうか？」と嗤う。ドギマギして、吃音になる僕の手を掴んで駆け出す。
　数十年前、暑い夏の日。
　確か都会の隅にある公園、蝉の音が五月蠅かったのを覚えてる。
「君、名前は？」
　僕は小さなベンチに座って、空を見てた。
　えっと、え？誰？
　出会って、はじめから緊張してた。
「ボクかい？ボクはね、──」
　僕？あなたは女の子だよね？僕って、あれ？男の子なの？
　とても綺麗な人だった。
「あぁ、ボクはボクだよ。可笑しいかな？」
　日傘をさして、白いワンピースに麦わら帽子。そんなのが似合う人、そうそういない。
　僕は、慌てて首を横に振った。
「これは、コスプレだよ。似非コスプレ。クロードモネの絵のコスプレ」
　え？は？コスプレ？
「そう、コスプレ。そして今してるのは、ナンパ」
　ななな、ナンパ。
「そう、お茶しない？神様の言うには、君とお茶をしないといけないらしい」

　「でも、君だったらお願いされなくても声をかけたくなるね」と、眩しい笑顔。