キツネと龍と天神様

せせら哂う龍曰く

　友人の鬼が言うには、深夜のふぁみれすは面白いらしい。

「なんとか言えよ」
　男は声を抑えていたが強い調子だとわかった。
　気にしたのか店員の様子を見たが、店員はスマホいじりながら店内を見渡している。
「なんとかって、何？」
　男の向かいに座る女が、鬱陶しそうに男に訊ねた。
「は？浮気しておいて、なんだよその態度」
「だから、浮気じゃないって言ってるでしょ、何度も何度も」
「説明しろよ」
「幼馴染と旅行に行っただけって説明してるでしょ」
「男だろ？」
「男よ」
「二人っきりだろ？」
「二人っきりよ」
「泊まったよな？」
「泊まったわよ、三泊四日」
「それが浮気じゃないって何で言えるんだよ」
　女がため息をついた。
「はぁ、幼馴染なのよ、わかる？」
「幼馴染だろうが男だろうが」
「……もういい」
「……、わかった。別れよう」
　そう言って、男が立ち上がろうとする。
「は？何言ってるの？」
　女の口調に怒気が混じる。
「もういいんだだろ？」
「そういう意味じゃないんだけど」
「じゃあ、どういう意味なんだよ」
　押し黙る女。男が女の前に座る。

「なんとか言えよ」