キツネと龍と天神様

霧間愁

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加虐的な感覚に浸る龍曰く

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 こんな男がおったよ。

 誰もいないビル谷間の横断歩道、車も通らない。
 朝、律儀に信号を待ちながら、自販機で買った缶珈琲コーヒーを一口。
 しかめっ面で、黒い缶側面を睨む。
 苦さが口の中に広がって、朝の空気と一緒に入ってくる。
 青に変わったが、男は動かない。

 男が勤める会社が倒産した。知ったのは昨日のこと。
 出社すると机も椅子すらもなくなっていた。代わりに債権者と名乗る自称金融マンの男が数人。
 混凝土コンクリートの単語が、男の脳裏に過る。
 社長の電話番号を教える代わりに、逃げ帰った。

 独り暮らし襤褸アパートに、社長から手紙が届いていた。
 事情の書かれた手紙。
 他には退職金、には到底足りない額の札束と、宝くじが十枚。
 思わず、男は怒鳴った。隣の住人が壁を殴る音。

 その日は、眠らず歩いた。眠れるわけがなかった。

 歩行者信号機が点滅している。
 男は珈琲コーヒーの苦さで、あぁ、生きていると実感した。




 缶珈琲コーヒーを買う前に何気に調べた宝くじは、一等だった。
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