【完結】愛されたがりの俳優は憧れのボディガードに愛される

犬束だいず

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6話

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 タクシーがマンションに着いた時、流石に部屋までついて行くのはまずいのではと頭をよぎったが、レオは将生のシャツをしっかりと握りしめて放さなかった。

「……手当て……してくれるんですよね……?」

 見捨てられるのを恐れているかのように怖々と発せられた言葉に、将生はもちろんだと頷いた。  

 マンションの自室に入ってから、レオはようやく将生の服から手を放した。

 公園からここまでずっと握られていた将生のTシャツには、レオの必死さを物語る握りじわがついている。ふらふらと廊下に上がった途端、レオはその場にへたり込んだ。

「レオ君……!」

「……ちょっと、気が抜けただけ……シャワー、してきます。……あ、の……」

 怯えた子犬のような顔で、レオが将生の顔を見上げてくる。

「まだ、帰らないで……待っててくれますか……?」

「……ああ。黙って帰ったりしないから、安心して。シャワーが終わったら、傷の手当てをしよう」

 そう言って将生が手に下げたビニール袋を示すと、レオはほっとしたように頷いた。

「それと……着ていた服は、洗わずにそのまま全部袋に入れておいたほうがいい。……嫌かもしれないけど、犯人につながる証拠が残っているかもしれないから」

「! ……っはい。そうします……」

 レオはハッとした顔でそう答え、脱衣所へと姿を消した。しばらくして、シャワーの水音が聞こえてくるのを確認し、将生はそろりと廊下に座り込んだ。虚空を見上げ、ゆっくりと息を吐く。

 ――なんで、こんなことになったんだ……? 

 懐中電灯に照らされ、白く浮かび上がったレオの姿が脳裏に焼き付いている。様子から見て未遂だとは思うが……レオの感じた恐怖を思うと、思わず拳に力が入った。
 


 

 その日、将生がランニングのコースを変えたのは偶然だった。

 いつもより長い距離を走ろうと、少しコースを変えたのだ。

 この判断をしなかったらと思うと、ぞっとする。

 まさか……斎藤レオが襲われている現場に遭遇するなんて。

 前方の路上で、外灯の光を受けて何かが光っていた。何だろうと思いながら近づくと、眼鏡だった。

 ――なんで、こんなところに眼鏡が……。

 不思議に思って足を止めた時、公園の茂みから争うような物音が聞こえた。直後に悲鳴が聞こえ、将生はとっさに声を上げたのだ。

 逃げていく男を追いかけようか迷った時、茂みに横たわる姿を見て身体が硬直した。

 目を疑い、嘘だと思った。

 だが、とっさに出た名前への反応で、本人だと確信した。

 はらわたが煮えくり返るとは、あの時のことを言うのだろう。

 怒りで震える手で、なんとか自分の上着を肩に着せかけた。安心させようと笑顔を作ったが、上手く笑えていたか自信がない。

 レオは大丈夫だと言っていたが、気が動転していたからだろう。手に怪我をしていたし、明るいところで見ると頬が赤く腫れていた。

 近くのコンビニへ避難し、タクシーを待つ間に気付いたのだ。

 傷薬などを買う間も、レオはフードをかぶってじっとうつむき、将生の背に隠れて、将生の服を掴んでいた。

 震える手が痛ましくて、悔しさと怒りで何度か泣きそうになった。

 幸い店内には他に客の姿は無く、フードの人物が斎藤レオだとは誰にも気付かれなかった。

「マネージャーさんに、連絡できる……?」

「そう、ですね……」

 買い物を終えてタクシーを待ちながら将生が尋ねると、レオはスマホを取り出した。

 だが、画面をじっと見つめたまま動かない。しばらくしてスマホを持つ手が震えだすと、レオはゆっくりと首を横に振りながら、涙をポロポロとこぼし始めた。

「…………ごめん、なさい……ちょっと、今は……すみません……」

「――無理しないで。大丈夫……大丈夫ですから、泣かないで」

 先程の恐怖を思い出したのか、将生の服を握る力が強くなった。暗い夜道を見つめる瞳が、不安げに揺れる。

「……ま、また……あいつが来たら、どうしよう……っ」

「俺が一緒にいますよ。それに、もしあいつが戻ってきたら、俺が捕まえます。……ほら、俺警備員ですから。仕事でボディーガードをすることもあるんですよ。……だから、安心して」 

 落ち着かせようと将生がなだめている内に、タクシーが到着した。

 二人でレオのマンションへ入り――そして、現在に至る。

 将生が斎藤レオのマンションにいる理由は、レオの希望によるものだ。 

 力になれることなら何でもするつもりではあったが、何より、恐怖に震えながら涙を流すレオを、ひとりにできなかった。

 それに、頼ろうと思ってくれるほど、信頼されていた事が嬉しい。

 ――本当は、いますぐにでも警察とマネージャーに連絡したほうが良いんだろうが……。

 何があったか、今の混乱している状態でマネージャーに説明させるのは酷だ。

 シャワーを浴びれば、少し落ち着くだろう。それから連絡すればいい。レオが良いと言えば、将生が代わりに連絡しても構わない。

 そんなことを考えていると、浴室から悲鳴が上がった。

「――あぁああああッ!」

「……ッ、レオ君!?」

 同時にガツン、ガツンと何かを殴りつけるような音も聞こえ、将生はぎょっとして浴室へ駆け出した。
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