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6話
しおりを挟むタクシーがマンションに着いた時、流石に部屋までついて行くのはまずいのではと頭をよぎったが、レオは将生のシャツをしっかりと握りしめて放さなかった。
「……手当て……してくれるんですよね……?」
見捨てられるのを恐れているかのように怖々と発せられた言葉に、将生はもちろんだと頷いた。
マンションの自室に入ってから、レオはようやく将生の服から手を放した。
公園からここまでずっと握られていた将生のTシャツには、レオの必死さを物語る握りじわがついている。ふらふらと廊下に上がった途端、レオはその場にへたり込んだ。
「レオ君……!」
「……ちょっと、気が抜けただけ……シャワー、してきます。……あ、の……」
怯えた子犬のような顔で、レオが将生の顔を見上げてくる。
「まだ、帰らないで……待っててくれますか……?」
「……ああ。黙って帰ったりしないから、安心して。シャワーが終わったら、傷の手当てをしよう」
そう言って将生が手に下げたビニール袋を示すと、レオはほっとしたように頷いた。
「それと……着ていた服は、洗わずにそのまま全部袋に入れておいたほうがいい。……嫌かもしれないけど、犯人につながる証拠が残っているかもしれないから」
「! ……っはい。そうします……」
レオはハッとした顔でそう答え、脱衣所へと姿を消した。しばらくして、シャワーの水音が聞こえてくるのを確認し、将生はそろりと廊下に座り込んだ。虚空を見上げ、ゆっくりと息を吐く。
――なんで、こんなことになったんだ……?
懐中電灯に照らされ、白く浮かび上がったレオの姿が脳裏に焼き付いている。様子から見て未遂だとは思うが……レオの感じた恐怖を思うと、思わず拳に力が入った。
*
その日、将生がランニングのコースを変えたのは偶然だった。
いつもより長い距離を走ろうと、少しコースを変えたのだ。
この判断をしなかったらと思うと、ぞっとする。
まさか……斎藤レオが襲われている現場に遭遇するなんて。
前方の路上で、外灯の光を受けて何かが光っていた。何だろうと思いながら近づくと、眼鏡だった。
――なんで、こんなところに眼鏡が……。
不思議に思って足を止めた時、公園の茂みから争うような物音が聞こえた。直後に悲鳴が聞こえ、将生はとっさに声を上げたのだ。
逃げていく男を追いかけようか迷った時、茂みに横たわる姿を見て身体が硬直した。
目を疑い、嘘だと思った。
だが、とっさに出た名前への反応で、本人だと確信した。
はらわたが煮えくり返るとは、あの時のことを言うのだろう。
怒りで震える手で、なんとか自分の上着を肩に着せかけた。安心させようと笑顔を作ったが、上手く笑えていたか自信がない。
レオは大丈夫だと言っていたが、気が動転していたからだろう。手に怪我をしていたし、明るいところで見ると頬が赤く腫れていた。
近くのコンビニへ避難し、タクシーを待つ間に気付いたのだ。
傷薬などを買う間も、レオはフードをかぶってじっとうつむき、将生の背に隠れて、将生の服を掴んでいた。
震える手が痛ましくて、悔しさと怒りで何度か泣きそうになった。
幸い店内には他に客の姿は無く、フードの人物が斎藤レオだとは誰にも気付かれなかった。
「マネージャーさんに、連絡できる……?」
「そう、ですね……」
買い物を終えてタクシーを待ちながら将生が尋ねると、レオはスマホを取り出した。
だが、画面をじっと見つめたまま動かない。しばらくしてスマホを持つ手が震えだすと、レオはゆっくりと首を横に振りながら、涙をポロポロとこぼし始めた。
「…………ごめん、なさい……ちょっと、今は……すみません……」
「――無理しないで。大丈夫……大丈夫ですから、泣かないで」
先程の恐怖を思い出したのか、将生の服を握る力が強くなった。暗い夜道を見つめる瞳が、不安げに揺れる。
「……ま、また……あいつが来たら、どうしよう……っ」
「俺が一緒にいますよ。それに、もしあいつが戻ってきたら、俺が捕まえます。……ほら、俺警備員ですから。仕事でボディーガードをすることもあるんですよ。……だから、安心して」
落ち着かせようと将生がなだめている内に、タクシーが到着した。
二人でレオのマンションへ入り――そして、現在に至る。
将生が斎藤レオのマンションにいる理由は、レオの希望によるものだ。
力になれることなら何でもするつもりではあったが、何より、恐怖に震えながら涙を流すレオを、ひとりにできなかった。
それに、頼ろうと思ってくれるほど、信頼されていた事が嬉しい。
――本当は、いますぐにでも警察とマネージャーに連絡したほうが良いんだろうが……。
何があったか、今の混乱している状態でマネージャーに説明させるのは酷だ。
シャワーを浴びれば、少し落ち着くだろう。それから連絡すればいい。レオが良いと言えば、将生が代わりに連絡しても構わない。
そんなことを考えていると、浴室から悲鳴が上がった。
「――あぁああああッ!」
「……ッ、レオ君!?」
同時にガツン、ガツンと何かを殴りつけるような音も聞こえ、将生はぎょっとして浴室へ駆け出した。
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