狙われた楽園~20〷年日本国滅亡への序章~

44年の童貞地獄

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沈む日本と新たに台頭するもの

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2040年、日本はもはや「先進国」と呼ばれるには程遠い存在となっていた。
人口減少と急激な高齢化は社会の隅々まで影響を及ぼし、活力を完全に失ってしまったのだ。

年金制度はとうに破綻し、支給開始年齢は75歳に引き上げられているが、その額ではとても生活を維持できない。
高齢者の多くはコンビニやスーパーのレジ、物流倉庫で働く姿を見せていた。
彼らは元気に働いているわけではない。
生き延びるために労働を続けているのだ。

一方で、若者たちの間にも絶望が広がっていた。
物価は高騰し、賃金は一向に上がらず、多くの者にとって結婚や子育ては夢のまた夢となって久しい。
就職してもまともな暮らしができない現実に多くの若者が未来への希望を失い、「社会のために生きる」という意識すら薄れていた。

地方はさらに深刻な状況だ。
過疎化が進んだ地域では集落が完全に消滅し、無人の土地が増え続けている。
空き家が目立つ中、中国資本がその土地を次々と買い占め、新たな施設や工場を建設。
だが、そこで働くのはほとんどが外国人労働者だった。
日本人は「地元の産業」を失ったまま、都市部へと流出を続けている。


このような危機的状況にもかかわらず、長年与党を務めている自民党は完全に機能不全に陥っていた。
保守派とリベラル派の対立は激化し、党内で政策を一本化することもできない。
総裁選も泥仕合となり、支持率は歴史的な低水準にまで落ち込んでいた。

「この国を支えるべき政党がこれでは、国が持つはずがない」

そう国民が口にするようになり、選挙への関心も急速に薄れていた。
ただでさえ低かった投票率もより低くなり、投票所はほとんど人が来ない状態となる。


だが、この政治的空白を埋める存在として台頭してきた野党があった。
「新栄同盟」である。
かつては与党自民党のリベラル派のトップであり、離党して「新栄同盟」立ち上げた党首の西川優也は「若者こそ未来を担うべきだ」というスローガンを掲げ、従来の政治とは一線を画す政策を次々と打ち出していたのだ。

新栄同盟は若者をターゲットにした政策を中心に据え、高齢者への配慮をあえて薄くすることで注目を浴びた。
たとえば、年金支給額のさらなる削減や、高齢者向け医療補助の見直しを掲げる一方、若者向けの住宅支援や教育費の全額免除など大胆な政策を提案。

「未来をつくるのは、これからの世代だ」

その言葉に多くの若者が賛同し、新栄同盟はかつての自民党では取り込めなかった層を確実に支持基盤としていった。


そして、この新栄同盟の急成長を支えたのが共栄教会である。
救世真皇イ・リキョンの指導のもと、教会は新栄同盟に多額の資金を提供し、全国規模で信者を動員して選挙運動を展開。
信者たちは各地で選挙活動を手伝い、SNSを駆使した情報拡散も行う。

「新栄同盟を支援することは、理想郷を実現する第一歩だ」

この教えを信じる信者たちは献身的に働き、選挙区ごとの票固めに尽力する。

教会は若者への接触を特に重視し、職業訓練や住居支援、生活費の貸与など、現実的な援助を通じて信者を増やしていた。

「私たちと共に、新しい未来をつくりましょう」

この言葉に救いを見出す若者たちが増える一方で、少なからぬ者が教会への依存度を高めていく。
世代間での分断が決定的になりつつあった日本で、共栄教会の存在は彼らの中では光明ですらあったのだ。

しかし、日本に本拠を移しているイ・リキョンは、ますます増え続ける日本人信者に対しても厳しい態度を取り続けた。

「日本人には全アジアに対する原罪がある。過去の過ちを償う覚悟を持たなければ、理想郷を築く資格はない」

その言葉は信者たちの心に冷たい刃を突き刺すかのようだったが、彼らはむしろその厳しさを「導き」と捉え、熱心に従う。
教団の献金額は過去最高を記録し、労働力を提供する信者たちは公共事業や社会支援活動の場で教会の名を掲げることを誇りすら感じていたのだ。

イリキョンは日本支部の幹部たちにも厳しい要求を突きつけた。
特に池田や水上ら日本人幹部はイリキョンから「日本人の信者たちを徹底的に鍛え上げろ」と命じられ、信者たちへのさらなる献身を強いる体制を作り上げたのだ。

一方で、教会は日本の政治への影響力をさらに拡大するための活動も精力的に進める。
新栄同盟をはじめとする政治勢力への資金提供や支援活動はますます強化され、次の選挙では教会の後押しを受けた候補者が多数当選するばかりか与党になることも夢ではない見込みすら立っていた。

日本国内のメディアや学者の一部からは共栄教会の活動が社会に浸透しすぎているとの警鐘が鳴らされていたが、すでに教会の影響を受けた政治家たちによって言論の自由が巧妙に制限されており、批判の声が広く共有されることもなくなっている。
公安警察の内部でも教会の監視はタブーとされる空気が強まり、少数の反対者が声を上げるたびに異動や辞職に追い込まれる事態が相次いでいた。

イ・リキョンは、かつて高麗連邦に尽くしながらもいつか裏切られる危険を察知して日本に拠点を移したのだが、彼は日本が共栄教会の「理想郷」建設において最も重要な拠点となると確信しており、その目論見は着実に現実のものとなりつつある。

「日本はもはや我が教団の手の中だ」

イ・リキョンは麻布の豪邸で冷ややかに微笑みながら、信者たちの忠誠を確認するように窓の外を見つめていた。
教会の旗の下、政治、経済、社会のあらゆる分野で共栄教会の影響力はすでに揺るぎないものとなっている。

日本支配の基礎は完全に固まった。
だが、その先に待っている闇を日本国民も、日本人信者もまだ知らない。
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