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統一の代償
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2038年、高麗連邦の成立が公式に発表された。
南北の統一は平和と繁栄をもたらすと謳われ、北朝鮮と韓国が一国二制度を堅持しながら連邦制を導入するという建前が掲げられる。
故キム・ジョンウンの娘キム・ジュノが初代連邦主席に就任し、「統一の象徴」として君臨。
実権は旧大韓民国と旧北朝鮮の指導者たちが掌握し合うという建前で新国家の運営が始まった。
「統一は民族の夢。これを妨げる者がいてはならない」
キム・ジュノが統一議会が置かれることになった旧大韓民国国会で宣言したこの言葉が連邦のスローガンとなり、「統一第一」がすべてに優先される連邦の基盤となる。
しかしそれは体のいい旧大韓民国地域の北朝鮮化推進の方便となった。
旧韓国には、北朝鮮との融和を推進する勢力が統一前からすでに存在しており、それらが「統一」の名の下に行われる北朝鮮化の先兵となる。
その中核を担ったのは左派政党「共に民主党」の一部議員たちで、北朝鮮の提案を積極的に支持する者も少なくなかった。
さらに、韓国労働組合総連盟(KCTU)や全国教職員労働組合(KTU)など、従北的と批判されてきた一部の団体も統一を推進する旗振り役となる。
「統一が第一ではないか。自由や民主主義を守ると言っても、それは分裂を助長するだけだ」
かつて韓国の教育界で影響力を持っていた全国教職員労働組合の幹部は北朝鮮式教育の導入を支持する声明を発表。
「子どもたちは統一のための新たな価値観を学ぶ必要がある」と語り、北朝鮮型の統一愛国主義教育を推進する。
政治の場でも親北派議員たちは統一を正当化する論陣を張ったのである。
「北も南も、同じ民族だ。この分断を終わらせることが最優先である」
共に民主党のイ・ジェミョンらが北朝鮮との合同政策を次々と提案し、連邦政府の支持を取り付けた。
北朝鮮との融和を進める影には、共栄教会も暗躍する。
教会の最高指導者イ・リキョンは表向きには「統一の精神的支柱」を自称し、教会の信者ネットワークを通じて統一運動を支援。
教会主導のイベントが韓国各地で開催され、「分裂を乗り越える信仰の力」を強調した。
しかし、その裏では共栄教会が実質的に北朝鮮の連邦政府との密接な連携を強化しており、教会を通じた統一支援資金が北朝鮮のプロパガンダ活動に使われていたのだ。
「我々は統一に向けた精神的革命を成し遂げる」
イ・リキョンの言葉に感化された信者たちは教会の名の下に統一支持デモを組織し、親北派の政治運動に加わった。
もっとも、高麗連邦成立直後は北側も慎重なアプローチを取ってはいた。
韓国社会に一気に北朝鮮式の統治を押し付けるのではなく、連邦政府として「統一の恩恵」を強調した政策を打ち出していたのである。
旧韓国地域へのインフラ投資が優先され、ソウルや釜山など主要都市で北朝鮮主導の開発プロジェクトが進行。
「統一の利益を享受しよう」と掲げられたプロジェクトには韓国の大企業も巻き込まれ、北朝鮮式の中央統制経済が徐々に浸透してゆく。
教育改革も当初は穏やかであった。
新しい教科書には「祖国統一の英雄」として北朝鮮指導部を讃える内容が加えられたが、民主主義の歴史は当初こそ完全には消されていなかった。
しかしほどなくしてそれも変わることになる。
ソウルの学校で新しい教科書を手にした教師は戸惑いの表情を見せながらも、生徒たちは次第に新しい価値観を受け入れるようになってゆく。
統一防衛軍として再編された軍では、北朝鮮の指導者たちが真っ先に指揮権を掌握。
韓国側の将校は次々と更迭されるようになる。
「反統一的思想を持つ者は許されない」
連邦軍の内部監査で反発の兆候を見せた韓国側の将校は、反逆罪の名の下に処罰された。
軍内部での反発を封じ込めるため、北朝鮮側は政治将校を置いて秘密警察を動員、韓国出身の兵士たちを監視下に置く。
これにより、韓国側の軍人たちも次第に沈黙を余儀なくされるようになる。
文化政策も一気に北朝鮮化が進む。
K-POPや韓国映画といった旧韓国の文化は「資本主義的堕落」として禁止され、北朝鮮式のプロパガンダ作品が代わりに普及。
メディアも年内には完全に政府の管理下に置かれ、自由な言論は消滅。
韓国系メディアは「連邦の価値観」を称える記事しか掲載できず、違反した記者は二度と出社することはなかった。
これらの変化にこれまである程度の自由を謳歌していた旧大韓民国の国民が我慢できるはずがない。
かといって反発して集会やデモをしようものなら韓国の機動隊である戦闘警察とは比べものにならないほどの弾圧を加えてくる連邦政府の治安組織「社会安全省」の前に沈黙。
北朝鮮化に反発した韓国市民の中には、国外脱出を試みる者が増加するようになる。
特に、日本は地理的な近さから多くの韓国人が目指す渡航先となり、観光ビザを利用した移民が急増した。
「自由を求めるためには、ここを出るしかない」
釜山港からフェリーに乗り込む30代のヒュンダイの元社員は、家族を連れて日本への渡航を決意した。
まだ日本には自由があるし、韓国系住民のコミュニティもある。
一方の日本国内では韓国人移民の急増が社会問題化し、一部では排外的な声も上がり始めてはいたが、韓国からの脱出者たちは自由を求めて新しい生活を模索していた。
高麗連邦の「統一第一」というスローガンは完全に北朝鮮そのものであり、2040年代までには早くも自由や民主主義は「統一の障害」として排除され、北朝鮮主導の体制が強固なものとなる。
北には数多くあった政治犯収容所も、今では南の方それを上回る数が新設されてゆく。
南北の統一という夢は実現したがその代償はあまりにも大きく、旧韓国地域の自由や民主主義は完全に失われ、かつては輝いていた半島の南側もやがて北側同様の暗黒に包まれる。
朝鮮半島におけるこの新たな体制は、東アジア全体にも不安定な影響を及ぼし始めたが、それが間もなく日本にも波及しようとは誰も思わなかった。
南北の統一は平和と繁栄をもたらすと謳われ、北朝鮮と韓国が一国二制度を堅持しながら連邦制を導入するという建前が掲げられる。
故キム・ジョンウンの娘キム・ジュノが初代連邦主席に就任し、「統一の象徴」として君臨。
実権は旧大韓民国と旧北朝鮮の指導者たちが掌握し合うという建前で新国家の運営が始まった。
「統一は民族の夢。これを妨げる者がいてはならない」
キム・ジュノが統一議会が置かれることになった旧大韓民国国会で宣言したこの言葉が連邦のスローガンとなり、「統一第一」がすべてに優先される連邦の基盤となる。
しかしそれは体のいい旧大韓民国地域の北朝鮮化推進の方便となった。
旧韓国には、北朝鮮との融和を推進する勢力が統一前からすでに存在しており、それらが「統一」の名の下に行われる北朝鮮化の先兵となる。
その中核を担ったのは左派政党「共に民主党」の一部議員たちで、北朝鮮の提案を積極的に支持する者も少なくなかった。
さらに、韓国労働組合総連盟(KCTU)や全国教職員労働組合(KTU)など、従北的と批判されてきた一部の団体も統一を推進する旗振り役となる。
「統一が第一ではないか。自由や民主主義を守ると言っても、それは分裂を助長するだけだ」
かつて韓国の教育界で影響力を持っていた全国教職員労働組合の幹部は北朝鮮式教育の導入を支持する声明を発表。
「子どもたちは統一のための新たな価値観を学ぶ必要がある」と語り、北朝鮮型の統一愛国主義教育を推進する。
政治の場でも親北派議員たちは統一を正当化する論陣を張ったのである。
「北も南も、同じ民族だ。この分断を終わらせることが最優先である」
共に民主党のイ・ジェミョンらが北朝鮮との合同政策を次々と提案し、連邦政府の支持を取り付けた。
北朝鮮との融和を進める影には、共栄教会も暗躍する。
教会の最高指導者イ・リキョンは表向きには「統一の精神的支柱」を自称し、教会の信者ネットワークを通じて統一運動を支援。
教会主導のイベントが韓国各地で開催され、「分裂を乗り越える信仰の力」を強調した。
しかし、その裏では共栄教会が実質的に北朝鮮の連邦政府との密接な連携を強化しており、教会を通じた統一支援資金が北朝鮮のプロパガンダ活動に使われていたのだ。
「我々は統一に向けた精神的革命を成し遂げる」
イ・リキョンの言葉に感化された信者たちは教会の名の下に統一支持デモを組織し、親北派の政治運動に加わった。
もっとも、高麗連邦成立直後は北側も慎重なアプローチを取ってはいた。
韓国社会に一気に北朝鮮式の統治を押し付けるのではなく、連邦政府として「統一の恩恵」を強調した政策を打ち出していたのである。
旧韓国地域へのインフラ投資が優先され、ソウルや釜山など主要都市で北朝鮮主導の開発プロジェクトが進行。
「統一の利益を享受しよう」と掲げられたプロジェクトには韓国の大企業も巻き込まれ、北朝鮮式の中央統制経済が徐々に浸透してゆく。
教育改革も当初は穏やかであった。
新しい教科書には「祖国統一の英雄」として北朝鮮指導部を讃える内容が加えられたが、民主主義の歴史は当初こそ完全には消されていなかった。
しかしほどなくしてそれも変わることになる。
ソウルの学校で新しい教科書を手にした教師は戸惑いの表情を見せながらも、生徒たちは次第に新しい価値観を受け入れるようになってゆく。
統一防衛軍として再編された軍では、北朝鮮の指導者たちが真っ先に指揮権を掌握。
韓国側の将校は次々と更迭されるようになる。
「反統一的思想を持つ者は許されない」
連邦軍の内部監査で反発の兆候を見せた韓国側の将校は、反逆罪の名の下に処罰された。
軍内部での反発を封じ込めるため、北朝鮮側は政治将校を置いて秘密警察を動員、韓国出身の兵士たちを監視下に置く。
これにより、韓国側の軍人たちも次第に沈黙を余儀なくされるようになる。
文化政策も一気に北朝鮮化が進む。
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メディアも年内には完全に政府の管理下に置かれ、自由な言論は消滅。
韓国系メディアは「連邦の価値観」を称える記事しか掲載できず、違反した記者は二度と出社することはなかった。
これらの変化にこれまである程度の自由を謳歌していた旧大韓民国の国民が我慢できるはずがない。
かといって反発して集会やデモをしようものなら韓国の機動隊である戦闘警察とは比べものにならないほどの弾圧を加えてくる連邦政府の治安組織「社会安全省」の前に沈黙。
北朝鮮化に反発した韓国市民の中には、国外脱出を試みる者が増加するようになる。
特に、日本は地理的な近さから多くの韓国人が目指す渡航先となり、観光ビザを利用した移民が急増した。
「自由を求めるためには、ここを出るしかない」
釜山港からフェリーに乗り込む30代のヒュンダイの元社員は、家族を連れて日本への渡航を決意した。
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北には数多くあった政治犯収容所も、今では南の方それを上回る数が新設されてゆく。
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