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高麗連邦成立への激動
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2036年、アメリカ軍が極東から完全撤退を完了、その影響は瞬時に朝鮮半島を直撃する。
韓国国内ではアメリカ軍の撤退を「韓国防衛の終焉」と見なす声が広がり、国民の間にパニックが走ったのだ。
「北朝鮮と一対一で向き合う準備が整っているのか?」
保守派の元大統領ユン・ソギョルは記者会見で声を荒げる。
「核武装を急ぐべきだ。もう時間がない!」
これに対し、進歩派のイ・ジェミョン大統領は冷静を装いながらも窮地に立たされていた。
「戦争ではなく平和が唯一の解決策だ。北との交渉を急がなければならない」
一方、韓国軍内部も揺れ動く。
アメリカ軍の撤退後、韓国軍は戦力の自主強化を急務としたが、予算不足と技術的な限界が明らかだったからだ。
「防衛線が危うい。アメリカの空母がいなくなったら、北のミサイルを防ぐ術がない」と、参謀本部の幹部たちは悲鳴を上げる。
韓国独力では防衛力に限界があることはかねてより指摘されていたが、アメリカが極東からの撤退を正式に発表してから実際に撤退するまでの期間は克服するにはあまりにも短かったのだ。
その頃、北朝鮮では最高指導者キム・ジョンウンが病床に伏していた。
肝疾患と心疾患に苦しみ余命いくばくもない状態だったが、彼は最後の「大きな勝負」を計画していた。
「統一は私の使命だ。これを成し遂げて、金正日の息子としての役目を果たす」
彼は側近たちに語り、南への提案をかねてより準備させていたのだ。
その内容は驚くべきものだった。
北朝鮮は「一国二制度を堅持する条件」での連邦国家「高麗連邦」の設立を提案。
南北間の独立性を保ちながら、軍事的・経済的な統一を進めるとされるものである。
「表向きは対等な連邦を装い、実際には南を北の影響下に置く計画ですね」
側近のリ・ヨンホが静かに述べる。
ジョンウンは頷き、平壌でこの提案を発表する準備を進めた。
北朝鮮からの提案がソウルに届くと、韓国国内は文字通り大混乱に陥った。
「こんな無理難題を受け入れる理由がない!」
国会では保守派が激しく反発。
元国防長官のウォン・ユチョルは、「北朝鮮は一国二制度を守るなどと言いながら、実際には韓国を乗っ取るつもりだ」と非難した。
一方、進歩派の議員は「平和のための最後のチャンスだ」「我が国は香港のようにはならない」として提案の検討を主張。
「連邦成立を拒否すれば、北は全面戦争を仕掛けてくる可能性がある」と、イ・ジェミョン大統領は政府高官たちに説得を続けた。
韓国国民の間でも意見は二分される。
街頭では「統一反対派」と「平和支持派」が激突し、大規模なデモが相次ぐ。
「北朝鮮の下僕になるくらいなら戦争の方がマシだ!」と叫ぶ保守派の若者たちに対し、進歩派は「未来のために犠牲を払う時が来た」と訴えた。
混乱の中、北朝鮮との交渉を支援する名目で共栄教会が水面下で動き始める。
もともと北の指示を受けていた教会なのだ。
共栄教会の救世真皇イ・リキョンは韓国支部を通じて進歩派の議員や知識人に接触。
「統一は韓民族の悲願であり、これを支援するのが我々の使命だ」と説得を続けた。
さらに、教会は統一支持派の市民団体に資金を提供して街頭デモを活性化させ、反対派の市民団体の代表を拉致したり、反対デモを屈強な信者に襲わせる。
「平和的統一を拒否する者は民族の敵だ」というスローガンが掲げられ、共栄教会の影響力は一層拡大した。
一方で、教会は保守派の主要な政治家やメディアにも秘密裏に圧力をかけ、統一反対運動を弱体化させる工作を行う。
韓国政府内では共栄教会が背後で暗躍していることを疑う声も上がったが、証拠は見つからなかった。
混乱が続く中、中国とロシアも動き始める。
中国国家主席リ・チャン(李強)は「朝鮮半島の安定は東アジア全体の利益に直結する」と声明を発表し、統一交渉の仲介役を買って出たのだ。
一方、ロシアではウラジーミル・プーチンの後継者とかねてより目されていたアレクサンドル・ベリヤコフが新たな大統領として権力を握って久しく、北朝鮮との軍事協力を強化する方針を打ち出す。
「統一は朝鮮半島全体の軍事的安定をもたらす。我々は北の提案を全面的に支持する」とベリヤコフは語った。
これにより、北朝鮮は中国とロシアの後ろ盾を得て、韓国への圧力を強めてゆく。
2037年末、板門店で南北首脳会談が行われた。
北朝鮮からは病床を押して出席したキム・ジョンウンが、韓国からはイ・ジェミョン大統領が出席。
ジョンウンは車椅子に座りながらも強い意志を見せ、「統一の時が来た」と語った。
「一国二制度を堅持することを約束する。この連邦の設立は、我々朝鮮民族の未来のためだ」
イ・ジェミョンは冷静を装いながらも、北の軍事的圧力に屈せざるを得ない状況を痛感。
「我々は平和を望む。しかし、国民の懸念を払拭するため、強固な条件を求める」
交渉は数週間にわたり続いたが、中国とロシアが裏で調停に乗り出し、最終的に合意が成立。
一国二制度の堅持を前提に南北が対等な形で連邦を組むことが決まった。
2038年春、板門店で高麗連邦の成立が正式に調印される。
式典には病を押して出席したキム・ジョンウンが「これが私の最後の使命だ」と語り、統一を宣言。
そのわずか数週間後、平壌で息を引き取った。
ジョンウンの死後、娘のキム・ジュノが北朝鮮の指導者に就任。
一国二制度の堅持が約束されていたが、韓国国内では北の影響力が徐々に強まる恐怖が広がり始める。
高麗連邦は、表向きは平等な連邦国家として出発したが、その未来には多くの不安が残されていた。
中国とロシアの影響力が増し、韓国国内の分断は完全には解消されなかった。
「平和の名の下に、どれだけの犠牲を払うことになるのか」
高麗連邦となった旧韓国の首都ソウルの街角では、そんな言葉が交わされていた。
そしてその懸念は当たることになる。
韓国国民の悲願であり夢であった統一は実現するや、新たな悪夢の幕開けとなったからだ。
韓国国内ではアメリカ軍の撤退を「韓国防衛の終焉」と見なす声が広がり、国民の間にパニックが走ったのだ。
「北朝鮮と一対一で向き合う準備が整っているのか?」
保守派の元大統領ユン・ソギョルは記者会見で声を荒げる。
「核武装を急ぐべきだ。もう時間がない!」
これに対し、進歩派のイ・ジェミョン大統領は冷静を装いながらも窮地に立たされていた。
「戦争ではなく平和が唯一の解決策だ。北との交渉を急がなければならない」
一方、韓国軍内部も揺れ動く。
アメリカ軍の撤退後、韓国軍は戦力の自主強化を急務としたが、予算不足と技術的な限界が明らかだったからだ。
「防衛線が危うい。アメリカの空母がいなくなったら、北のミサイルを防ぐ術がない」と、参謀本部の幹部たちは悲鳴を上げる。
韓国独力では防衛力に限界があることはかねてより指摘されていたが、アメリカが極東からの撤退を正式に発表してから実際に撤退するまでの期間は克服するにはあまりにも短かったのだ。
その頃、北朝鮮では最高指導者キム・ジョンウンが病床に伏していた。
肝疾患と心疾患に苦しみ余命いくばくもない状態だったが、彼は最後の「大きな勝負」を計画していた。
「統一は私の使命だ。これを成し遂げて、金正日の息子としての役目を果たす」
彼は側近たちに語り、南への提案をかねてより準備させていたのだ。
その内容は驚くべきものだった。
北朝鮮は「一国二制度を堅持する条件」での連邦国家「高麗連邦」の設立を提案。
南北間の独立性を保ちながら、軍事的・経済的な統一を進めるとされるものである。
「表向きは対等な連邦を装い、実際には南を北の影響下に置く計画ですね」
側近のリ・ヨンホが静かに述べる。
ジョンウンは頷き、平壌でこの提案を発表する準備を進めた。
北朝鮮からの提案がソウルに届くと、韓国国内は文字通り大混乱に陥った。
「こんな無理難題を受け入れる理由がない!」
国会では保守派が激しく反発。
元国防長官のウォン・ユチョルは、「北朝鮮は一国二制度を守るなどと言いながら、実際には韓国を乗っ取るつもりだ」と非難した。
一方、進歩派の議員は「平和のための最後のチャンスだ」「我が国は香港のようにはならない」として提案の検討を主張。
「連邦成立を拒否すれば、北は全面戦争を仕掛けてくる可能性がある」と、イ・ジェミョン大統領は政府高官たちに説得を続けた。
韓国国民の間でも意見は二分される。
街頭では「統一反対派」と「平和支持派」が激突し、大規模なデモが相次ぐ。
「北朝鮮の下僕になるくらいなら戦争の方がマシだ!」と叫ぶ保守派の若者たちに対し、進歩派は「未来のために犠牲を払う時が来た」と訴えた。
混乱の中、北朝鮮との交渉を支援する名目で共栄教会が水面下で動き始める。
もともと北の指示を受けていた教会なのだ。
共栄教会の救世真皇イ・リキョンは韓国支部を通じて進歩派の議員や知識人に接触。
「統一は韓民族の悲願であり、これを支援するのが我々の使命だ」と説得を続けた。
さらに、教会は統一支持派の市民団体に資金を提供して街頭デモを活性化させ、反対派の市民団体の代表を拉致したり、反対デモを屈強な信者に襲わせる。
「平和的統一を拒否する者は民族の敵だ」というスローガンが掲げられ、共栄教会の影響力は一層拡大した。
一方で、教会は保守派の主要な政治家やメディアにも秘密裏に圧力をかけ、統一反対運動を弱体化させる工作を行う。
韓国政府内では共栄教会が背後で暗躍していることを疑う声も上がったが、証拠は見つからなかった。
混乱が続く中、中国とロシアも動き始める。
中国国家主席リ・チャン(李強)は「朝鮮半島の安定は東アジア全体の利益に直結する」と声明を発表し、統一交渉の仲介役を買って出たのだ。
一方、ロシアではウラジーミル・プーチンの後継者とかねてより目されていたアレクサンドル・ベリヤコフが新たな大統領として権力を握って久しく、北朝鮮との軍事協力を強化する方針を打ち出す。
「統一は朝鮮半島全体の軍事的安定をもたらす。我々は北の提案を全面的に支持する」とベリヤコフは語った。
これにより、北朝鮮は中国とロシアの後ろ盾を得て、韓国への圧力を強めてゆく。
2037年末、板門店で南北首脳会談が行われた。
北朝鮮からは病床を押して出席したキム・ジョンウンが、韓国からはイ・ジェミョン大統領が出席。
ジョンウンは車椅子に座りながらも強い意志を見せ、「統一の時が来た」と語った。
「一国二制度を堅持することを約束する。この連邦の設立は、我々朝鮮民族の未来のためだ」
イ・ジェミョンは冷静を装いながらも、北の軍事的圧力に屈せざるを得ない状況を痛感。
「我々は平和を望む。しかし、国民の懸念を払拭するため、強固な条件を求める」
交渉は数週間にわたり続いたが、中国とロシアが裏で調停に乗り出し、最終的に合意が成立。
一国二制度の堅持を前提に南北が対等な形で連邦を組むことが決まった。
2038年春、板門店で高麗連邦の成立が正式に調印される。
式典には病を押して出席したキム・ジョンウンが「これが私の最後の使命だ」と語り、統一を宣言。
そのわずか数週間後、平壌で息を引き取った。
ジョンウンの死後、娘のキム・ジュノが北朝鮮の指導者に就任。
一国二制度の堅持が約束されていたが、韓国国内では北の影響力が徐々に強まる恐怖が広がり始める。
高麗連邦は、表向きは平等な連邦国家として出発したが、その未来には多くの不安が残されていた。
中国とロシアの影響力が増し、韓国国内の分断は完全には解消されなかった。
「平和の名の下に、どれだけの犠牲を払うことになるのか」
高麗連邦となった旧韓国の首都ソウルの街角では、そんな言葉が交わされていた。
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