狙われた楽園~20〷年日本国滅亡への序章~

44年の童貞地獄

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操り人形

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2030年代、日本の政治と社会は混迷の度を深めていた。
経済の停滞と社会の分断が進む中、与党自民党でも内部分裂が深刻化していたのだ。
まだ保守派が党内をかろうじて牛耳る中、リベラルな政策を掲げる西川優也は党内左派の象徴的存在として活躍していたが、その影には韓国発祥の宗教団体・共栄教会が存在していた。


西川が共栄教会と関わりを持つようになったのは十年前の衆議院選挙。
地盤も資金も乏しかった彼に接触してきたのが、共栄教会のフロント組織「IBSL(インターナショナル・ビジネス・サポート・リンク)」だった。

当時、IBSLのシニアディレクターであった水上智靖は西川を支援するための多額の献金や選挙運動を取り仕切った。
選挙後、支援の代償として教会の政策的要求を受け入れることを余儀なくされた西川は次第に教会の意向に従うようになってゆく。

そして2035年、水上は教会内でさらに昇進を果たして共栄教会の日本支部で最高幹部の一人となり、西川との接触も直接的なものとなり、彼の政治活動に対してより積極的に指示を出す立場となっていた。


その年、国会では「外国人宗教団体の資金取引規制強化法案」が審議に上がっていた。
この法案は外国からの資金流入を制限し、宗教団体が国内で資金を自由に運用することを抑えるものだったが、日本国内で勢力を伸ばす共栄教会に危機感を覚え始めた与党保守派による起死回生の法案である。
もし可決されれば共栄教会にとっては致命的な打撃となり得る内容だった。

「西川先生、この法案を通すわけにはいきません」

水上は、かつての選挙支援を引き合いに出すことなく、冷静に言い放った。

西川は既に教会の指示を受け入れることにもう慣れており、一切の迷いを見せることがなくなっている。

「分かりました。党内で反対の旗を振ります」

こうして国会では教会の指令を受けた西川が先頭に立って反対運動を展開、「法案は移民排斥の意図を含む危険なものだ」と主張。
その結果、法案は廃案となり、共栄教会はその影響力を保持することに成功した。


その直後、共栄教会の指導者である救世真皇イ・リキョンから日本支部に新たな指令が下る。
それは、西川を旗頭に自民党から新たな政治勢力を立ち上げさせるというものだった。

日本支部の幹部会で、水上は冷静にその内容を説明した。

「救世真皇様のご意向は明確です。西川先生を中心に新党を結成し、日本政治における我々の影響力を一層強化することが目標です」

水上からその意向を伝えられた西川も、驚きや葛藤を見せることはもうない。

「分かりました。準備を進めます」

以前のように教会との関係に悩むことはなく、指示に従うことが彼の日常となっていた。


数か月後、西川は自民党本部で記者会見を開き、離党と新党の結成を発表。

「私はこれまで自民党の中で日本再生のために尽力してきました。しかし、党内の保守的な勢力によって、本当に必要な改革が実現できない状況が続いています。私は新たな政治勢力『新栄同盟』を立ち上げ、日本を再び輝かせるために全力を尽くします」

新栄同盟の名前には、「新しい栄光を共に築く」という共栄教会の教義が象徴的に込められている。
西川の新党には同じく共栄教会とつながりを持つ自民党左派や野党議員も合流し、党としての体裁を整えていった。新栄同盟の結成により、西川は表向きには理想を掲げた政治家として新たな支持を集めるようになる。

「我々の政策は、社会の最も弱い立場の人々を支援するものです」

記者会見で語る西川の言葉は、国民の耳には魅力的に聞こえたが、それが教会の影響力を拡大するためのものであることを彼自身が一番理解している。
だが、西川はもうすでにそれに対して疑問を感じたり葛藤を覚えたりすることはもうなかった。
自らの意思で教会の影響から逃れられる状況ではなくなっていたし、自身もすっかり救世真皇イ・リキョンに心酔して信者同然だったからだ。


新栄同盟の政策は、表向きは社会福祉の拡充や移民政策の推進などリベラルなものだったが、裏には共栄教会の戦略があった。
移民支援は教会が国外から信者を増やすための手段であり、社会福祉政策は弱者を取り込むための罠である。

日本支部の幹部会では、水上が冷静に計画を語っていた。

「新栄同盟は、共栄教会の理念を実現するための重要な手段です。西川先生には、政治の最前線で我々の道を切り開いてもらいます」

幹部たちは水上の言葉に静かに頷き、次なる計画の実行に向けて動き出した。


新栄同盟の勢力は次第に拡大し、西川は日本の政治における中心的な存在へと押し上げられてゆく。
しかし、その背後には共栄教会の影があり、西川の意志はもはやそこには存在しなかった。

「共栄教会のために歩む道こそが俺の選んだ道だ」

救世真皇イ・リキョンへの帰依は、彼にとって信念と呼べるものにまで昇華。
信仰に近いその忠誠心はもはや彼を政治家ではなく教団の手足として機能させるだけの存在へと変えつつあったのである。

新栄同盟の政策は社会福祉や移民支援を掲げていたが、それらが日本社会の利益のためでないことに気づく者は国民の中でごく少数だった。
国民の中にはその政策に熱狂的な支持を寄せる者もいたが、政策の恩恵を受けるほどに教団の影響下に取り込まれていく構図が着々と進行していたのだ。
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