狙われた楽園～20〷年日本国滅亡への序章～

非モテよ、君たちは悪くない

フジテレビ「直撃LIVE グッディ！」のスタジオは、空気がピリついていた。
記者会見に続き、テレビにも出演しようと教団の代表として登場したイ・リキョンは、視聴者も含めたすべての人々の注目を一身に集めている。
彼は氷のような威厳に満ち、スタジオの明かりを浴びながらその存在感を増していた。
視線は揺るがず、何を問われるのかと恐れる気配もない。

コメンテーターたちは、あの悲惨な放火事件を招いた宗教団体の指導者であるイに対して鋭く攻撃的な質問を浴びせる準備をしていたが、いざ本物を前にたじろいだ様子を見せる。
先日の共栄教会日本本部での記者会見で記者たちを黙らせたのは、理路整然とした反論だけでなく、この有無を言わさず面と向かった人間を従わせるようなオーラがあるからだとも思われた。

そのオーラに圧倒されたのか、ここでもコメンテーターたちの質問や非難は精彩を欠いて感情的なものとなり、前回同様イ・リキョンが堂々反論するという流れになりつつあり、「怒りや恨みは人間が抱える自然な感情です。私たちの教えは、それを暴力へと転じるのではなく、成長の糧にする方法を提供しています。社会に不満があるからといって、それを正当化するための暴力は絶対に容認しません」という主張を繰り返すパターンとなる。

流れを変えようとコメンテーターの一人が流れを変えようと、苛立ちを隠さずに問いかける。
「では、藤倉容疑者のように異性に相手にされず、孤独に苦しむ人たちに対して、あなたは何を提供できたというのですか？藤倉のように暴走する人間を出してしまっただけではないですか！！」

その質問に、イ・リキョンは一瞬、哀しげな目をして深く息をつくと、コメンテーターだけではなく視聴者へ向けるように問いかけ、続けた。

「皆さんに藤倉春樹の気持ちがわかるでしょうか？彼は努力をしても報われず、愛を求めても手を伸ばすたびに拒絶され、孤独に苛まれていたのです。この社会が、彼のような人たちに何を与えたのか。社会は彼らに冷たく、自己責任を押し付け、魅力がないと嘲笑しました。その結果、彼らは自分の存在を軽んじられ、価値を見失ってしまうのです」

イの言葉は非モテや孤独を抱える人々に向けられたものであるようで、イはまるで彼らの心の中を見透かすように続ける。

「何度も努力したのに、誰からも愛されることがなく、誰かに手を伸ばしても、触れることすら許されない現実。自分を変えようと頑張ってみたけれど、それでも報われなかったときの絶望感。何度も自分を責め、自分に魅力がないからだと自己嫌悪に陥り、鏡を見るたびに心が痛む。その痛みを、誰も理解してくれない現実に、あなたはどれだけ苦しんできたでしょう？」

彼の声は徐々に力強さを帯びていく。
「社会はあなたにこう言います。『魅力的になるための努力が足りない』『自信がないからだ』と。でも本当にそうでしょうか？私たちは皆、愛されることを望んでいる。愛されることで、自分が存在していいのだと実感できるから。でも、それが叶わなかった人たちはどうすればいいのでしょうか？無数の人々が、この社会で愛されることなく、無視され、軽んじられてきたのです。」

イ・リキョンは視線を伏せ、一瞬だけ苦しげに顔を歪めた。
「藤倉春樹も同じ苦しみを抱えていました。彼もまた、愛されることを望んでいたはずです」と語ってから再びカメラを見据える。

「しかし私たちの教団は愛を求めても得られなかった人々が、初めて愛される場所を提供し続けます。私たちは彼らの苦しみを理解し、共に生きる道を探しています。孤独な夜を一生過ごすことを運命付けられていると考える皆さん、あなたたちは何も悪くありません。あなたたちの苦しみは、あなたたちのせいではないのです。誰もが価値を持ち、愛されるべき存在です」

その言葉は、孤独に打ちひしがれていた多くの人々の心に響いた。
「私たちは、あなたが抱えてきたその痛みを尊重し、理解します。あなたの孤独は無意味ではなく、私たちと共に生きていくことで、温かい絆に変えていくことができます。愛されることを諦めないでください。あなたはこの世界に必要な存在です。そして、私たちはその価値を一緒に見つけていく仲間です」

イ・リキョンの言葉は、単なる励ましではなかった。
それは、彼氏や彼女いない歴＝実年齢の人々が心の中でずっと抱えていた叫びに共鳴し、自分たちが本当に求めていた言葉として響いていたことが後にSNS所のコメント欄に反映されることになる。
「そうだ、自分は何も悪くなかったんだ」「俺もそう思っていたんだ」と感じる人々が、彼の言葉に涙ぐむことさえあっただろう。

スタジオ内のコメンテーターたちも、そのカリスマ性と圧倒的な説得力に言葉を失っていた。
イ・リキョンの演説は、ただの言葉の羅列ではなく、長年愛を知らずに苦しんできた人々の心を深く揺さぶるメッセージだったのだ。
彼の言葉により、多くの人々が、初めて自分の存在が大切にされていると感じることができたのかもしれない。

「あなたがどれだけ努力しても、報われなかったことがあるでしょう。愛を求めても、手に入らなかった経験があるでしょう。その痛みは本物です。そして、その痛みを、私たちは共有し、受け入れる場を作ってきました」

スタジオは静まり返り、殺気立っていたコメンテーターたちも言葉を失っている。
リキョンはさらに深く語った。

「共栄教会は、愛を知らない人々に初めて愛される場所を提供します。彼らが自分の価値を見出し、温かい絆を感じられる場です。彼らの絶望は無意味ではありません。孤独に傷ついた心は、誰かに理解され、共感されることで癒されるのです」

「私たちは、藤倉のような人々にもっと手を差し伸べるべきでした」と彼は再び苦しげに顔を歪め、「私は彼を救えなかったことを後悔しています。彼が暴力に走ったことは、私たちの力不足の証です。しかし、それでも彼のような人々を見捨てることはしません。これからも、孤独に苦しむ者たちのために、共に生きる場所を提供し続けます」

その告白には深い悔恨と覚悟が込められ、言葉が単なる弁解ではなく、心の底からの思いであることが誰の目にも明らかに見えた。
少なからぬ視聴者が彼の姿に信頼と共感を感じ、非モテや孤独に悩む人々は「そうだ、俺もそう思っていたんだ」と心の中で叫び、初めて誰かに理解された気持ちになったかもしれない。

イ・リキョンはその後も、コメンテーターの批判をかわしながら冷静に答え続け、そのカリスマ性と圧倒的なディベート力は日本中の誰もが一目置くものとなる。
彼の言葉が終わるとスタジオには静寂が広がり、画面の向こうの少なからぬ日本人が彼の語る孤独と共感の物語に心を動かされていた。

そしてそれは、共栄教会の日本支配の橋頭保が固められた瞬間でもあった。