狙われた楽園~20〷年日本国滅亡への序章~

44年の童貞地獄

文字の大きさ
上 下
29 / 50

業火に包まれる女性専用車両~非モテ男の復讐~

しおりを挟む
ラッシュアワーのピークになりつつある朝7時半の代々木上原駅。
三番乗り場の千代田線のホームの女性専用車両乗り口近くに立つ藤倉は、眼前に広がる女性たちの列をゆがんだ憎悪の目で見つめていた。

派手なワンピースを着て手鏡で化粧を直している若い女、髪をきっちりまとめてクールなまなざしでスマートフォンを眺める女性会社員、何かの専門書片手のリュック姿の女子大生、友達とおしゃべりして笑い合う制服姿の女子高生、他人の噂話でもしているような50代の二人組の女、これから病院でも行くのか、やや腰の曲がった白髪の老婆。

どいつもこいつも憎たらしかった。
老いも若きも藤倉にとって女というだけで敵なのだ。
それに自分を最初に敵に回したのは向こうである。
こちらには非がないばかりか好意すら持っていたのに、自分を蔑み見下した目で見て、いたずらに気味悪がり、隙あらばあの美咲のように罠にハメようとすらする。
女に愛されたことのない藤倉の人生ではそんなのしかいなかったし、きっとそうに違いないと思う。
そんな女ばかりではないことを確認しようとするにはもう藤倉は歳をとりすぎていたし、ゆがみきっていた。

今日こそ罰を与えてやる。

藤倉は憎しみに燃えながらも、反面驚くほど冷静でもあった。
このホームに着いてからもう二回も女性たちが車両に吸い込まれ、ドアが閉まって発車していくのを見送っている。

藤倉は「待っている」のだ。
ただ無闇に害を与えるつもりではなく、できるだけ多くの女を一気に奈落に送るための完璧な「時」を。
見送った車両には十分な数の生贄が乗っていないと考えたのだ。

そして「求める条件」はもうひとつ、若く美しい女が詰まった車両であること。
若く美しい女とは彼にとって絶対に手に入らない存在であるだけではなく、自分を見下したり気味悪がったりした時に自分に与えるダメージが最も大きい層でもあるのだ。
敵の中では最も自分に対する攻撃力の大きい層であるともいえる。

先ほど見送った列にも少しは条件に合う者がちらほらいたが、それでも十分ではない。
やがて隣の小田急線に急行が止まり、千代田線に乗り換える女性たちが列に新たに並ぼうと出てくる。
さっきのよりも少し長く、そして彼が「狙い」としていた条件に近い。

若く、華やかな出で立ちの女性たちが列に加わり始め、彼の中の緊張が高まっていく。
だが、「まだ」だと彼は感じていた。
ラッシュアワーのピークはこれから。
この憎悪が形となり、やがて狂気の行動に変わる「完璧な時」はもうちょっと待とう。
そう思った時だった。

すぐ後ろから「ちっ」という舌打ちが聞こえたので後ろを振りむくと、小田急線から降りてきたやや染めたロングヘア―の黒っぽいスーツの若い女。
ホームのど真ん中で突っ立っていた藤倉の横を通って女性専用車両を待つ列に向かいながら聞かせるようにつぶやいた。

「女性専用車両だろが」

それはいかにも気が強そうな目のやや吊り上がったややけばいメイクの若い女。
朝というのもあるのだろうが不機嫌そうな顔で眉間にしわを寄せている。
彼女の目には、藤倉が自分たちの聖域である女性専用車両に乗り込もうとしている男と映ったようだ。

「この車両をやろう」

罰を与える標的は決まった。
いつもならグジグジと不愉快になりながらも何も言い返せない藤倉だったが、不敵な笑みがこぼれる。
ぶち壊す快感の予感に鳥肌すら立つ。

やがて代々木上原駅始発綾瀬行の電車がホームに滑り込むや、プラットフォームに列を成していた女性たちが慌ただしく乗り込む。
それを藤倉は目を細めて見ていた。
カバンの中で火炎瓶が握られ、冷ややかな目で車両の中に納まった女性たちを見つめている。

混雑する車内、まだドアが閉まるまで余裕が少しあるタイミングが狙い目だった。
彼は瓶をカバンから出してドア口に近寄り、力任せに女性たちの足元へ投げ込んだ。

「ガシャッ!」と瓶が割れると、「え?!」「きゃ!!」「わ!ナニナニ?」「痛っ!」とかの声が中から響く。
割れた瓶の破片が当たった者もいるらしい。
ガソリンが一気に車内へと広がってゆき、「うわ!なんか臭う!」「え!?これってガソリン!?」「なんで?ナニする気?」と口々に言いながらも女性たちは一瞬何が起こったのかわからずに立ち尽くしてこちらを見たりしていたが、そこから遠ざかった藤倉はすでに次の瓶を取り出し、車両に背を向けてライターで火を点けていた。

ずっと以前に京都アニメーションに火をつけた奴の二の轍は踏まない。
十分な距離をとったと思った藤倉は自分でも驚くほど冷静だった。
揺れる炎を目にしながら、彼は冷ややかにその瓶を割れた場所へと放り投げたその瞬間。

「ドンッ…!!!」

それは衝撃波すら感じるほどの爆発だった。
ガソリンに瞬く間に引火し、炎は窓ガラスを吹き飛ばして爆発するように車内の広範囲へと広がり、女性たちの足元から吹き上がるように体中を包んで燃え上がる。
車両の中は、一瞬で地獄と化した。

「ぎゃああああああああああああああっ!!」

足元に広がる火の渦が女性たちを包んでスカートや衣服を次々と燃やし、業火の音とともに凄まじい悲鳴が駅構内に響き渡る。


「あついあついあついあついいいいいいいい!!!!」

無数の凄まじい叫び声を発しながら火だるまになった女性たちが次々に車両の外のホームに出てくる。
服や髪を燃やし、肌を焼き続ける炎に包まれて倒れ込み、のたうち回る。

火元から離れた場所へも炎は容赦なく襲いかかる。
足元で燃え広がる火は、座席の下を舐め回し、車両の隅々まで広がっていく。
乗っていた女性たちは押し合いへし合いながらドアに殺到するが、火元に近い者は髪に火が付き、衣服から煙を発しながらホームに飛び出して隣の小田急線の線路に落ち込み、皮膚を焦がす極限の痛みのあまりにへたりこみ動かなくなる。

ごうごうと燃える女性専用車両によってホームは灼熱地獄と化し、他の車両に乗っていた客は電車を降りて遠ざかった。

彼らは恐怖に凍りついたまま立ち尽くしていたが、やがて我に返り、なんとか火を消そうと動き始めた。
何人かの男性が火だるまの女性たちに駆け寄り、背広で火を叩いて消そうとする。
別の者は近くの駅員を叫んで呼び、消火器を持ってくるように急かした。

「消火器!早く消火器を!」
「違う!電車じゃなくて人にかけろよ!」
「消防車!救急車も!」

業火から逃れ、体を包んでいた火を消された女性たちだったが、衣服がほとんど焼け落ちた体からは煙が細く立ち上り、焦げた衣服と焼けただれた肌が露わになり、おぞましい姿をさらしていた。
焼け爛れた皮膚からは液体が滴り落ち、ほぼ全身の火傷が赤黒く腫れ上がり、見る者の心を凍らせる。
助けようと駆け寄った人々も、彼女たちの悲惨な姿に怯え、次第に足を止め、ただ立ち尽くす者もいた。

別の女性は発火点から遠かったようだが髪が燃え、真っ黒に焦げた髪の毛がパリパリと音を立てて崩れ落ち、目元に焼け焦げたメイクが涙と混じり、顔全体が歪み苦痛に満ちた表情になっていた。
また別の女性は、煙が肺に入り込み、息も絶え絶えで、口から血混じりの咳をしながら地面に崩れ落ちている。

ホームはパニックと悲鳴の渦に飲み込まれ、消火器の噴射音、女性たちの泣き声、そして人々が逃げ惑う音が交錯していた。

その中で、藤倉は冷ややかな目で周囲を見渡しながら、ただ自分の「使命」を果たしたという満足感に浸っていた。
ホームを降り、脱出しようと線路を伝って下北沢・成城学園方面へと走る。
混乱の中、燃え盛る車両を迂回して少数ながら追いかけてきた者たちもいたが、火炎瓶はまだあるのだ。
それををかざして威嚇し、それでも追いかけてこようとする者がいたら投げつける。

その瓶が目の前で爆発したように燃え広がると、追いかけてきた者たちは一瞬ひるみ後退する。
また向かって来ようとするがまだ藤倉の手元にある火炎瓶を恐れてしり込みしていた。

藤倉はその隙をついて後方から聞こえる混乱と怒号を背に現場から消え去った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)

あおっち
SF
  脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。  その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。  その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。  そして紛争の火種は地球へ。  その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。  近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。  第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。  ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。  第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。  ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...