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暗転する捜査
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2025年の春、東京・霞が関にある警視庁公安部の一角では捜査第二課の室内が静かに張り詰めていた。
窓から射し込む午後の光が、机に山積みされたファイルを淡く照らしている。
捜査二課課長の小峯仁警視は机の上の電話を置くと深くため息をついた。
「捜査中止だ。上からの指示だ」
目の前の若手捜査官、板橋将貴警部補が呆然とした表情で小峯を見つめる。
「どういうことですか、課長?今我々が追っている共栄教会は危険な団体です。暴力団との結託や、政治にまで食い込んでいる可能性が高いと報告してきたばかりじゃないですか」
小峯は無言でうなずきながら、再び机に視線を落とす。
公安部の捜査がここまで来て、突然の中止命令が下るとは思っていなかった。
だが、捜査中止の指令は上層部からの正式な決定であり、逆らうことはできない。
この捜査は、小峯や板橋だけで行っていたわけではない。
公安部全体が一丸となって動いていた。
共栄教会は、単なる宗教団体ではなく、裏では多くの違法行為や犯罪行為に手を染め、さらには政治にまで影響を与えようとしている。
小峯たちがそのことを察知してから、警視庁公安部は秘密裏に監視と捜査を進めていたのだ。
公安第三課が教団の動きを監視し、公安一課は国際的なネットワークを探り出し、組織犯罪対策部も教団が暴力団や半グレ組織と結託しているという疑惑に対して動いていた。
警察庁とも連携し、捜査は日本全国、そして国外にも広がっていた。
だが、突然の中止命令にすべてが無に帰そうとしている。
「これは、明らかに誰かが手を回したな…」
小峯は口の中でつぶやく。
共栄教会への捜査が進むにつれ、その背後にあるビジネス支援団体**IBSL(インターナショナル・ビジネス・サポート・リンク)**の存在が浮かび上がってきていた。
IBSLはその莫大な資金力と広範なネットワークを使って、政財界に影響を及ぼしている。
だが、教団の正体が共栄教会であるという確証をつかんだ瞬間に、捜査がストップさせられたのだ。
捜査の進行をまとめていた第二課次長の福村有輔警視正が無表情で近づいてきた。
「小峯、どうにかならないのか?捜査中止なんて…このまま引き下がれる話じゃないだろう」
「上からの決定です。内閣府の方まで絡んでると聞きました」
福村は唇を噛んで机を叩いた。
「西川が動いたか…」
捜査に関わっていた公安警察の中でも、疑惑の中心にあったのが与党自民党の左派トップ、西川優也議員だ。
彼は、党内で「環境・福祉改革推進本部」の本部長を務めており、表向きは環境問題や社会福祉を重視するリーダーとして知られている。
しかし、その裏にはIBSLからの莫大な選挙支援があり、それが彼の選挙活動を支え、政界での地位を確立するための大きな要因となっていた。
福村も小峯も気づいてはいた。
西川が公安の動きを封じるために方々で手を回していたことを。
板橋が無言で小峯たちの言葉に耳を傾けていた。だがその表情は憤りで満ちていた。
「公安一課や第三課まで動いて、ようやく教団の実態が見えてきたというのに、捜査を止めるなんてありえない!このままでは共栄教会が日本の政治に食い込んでいくのをただ見過ごすだけじゃないですか!」
「上層部は、この問題を静かに片付けたいんだろう。IBSLにどれほどの力があるのか、まだ掴みきれていない。それに、西川も教団と手を切ろうとしているようだが…」
小峯は天井を見上げ、声を落とした。
「西川にとっても、もはや抜け出せない関係になっている。共栄教会の支援なしに彼はここまで来られなかったんだ。だからこそ、手を切ることができない。だが、公安に動くのをやめさせたことで、恩に着せるつもりだろう」
板橋が眉をひそめた。
「恩に着せる?しかし、教団はそんなことで満足するんですか?」
「いや、あの水上って男を見てみろ。あいつは西川が手を貸したぐらいじゃ満足しないだろう。むしろ、『それが当然だ』という態度を取るに決まっている」
IBSLの幹部であり、共栄教会の影を色濃く反映する人物、水上智靖。
彼は選挙戦を通じて西川の派閥に大きな影響力を与え、捜査関係者の目からも、今やその関係は主従関係さえ逆転しているように見えた。
小峯が再び書類に目を通していると、部屋にふらりと石黒勉警部補が入ってくる。
かつてオウム真理教の捜査に携わり、今は定年を目前にしている彼は、今回の共栄教会の捜査にも深く関わっていた。
「これで終わりですか?」と石黒が低い声で呟く。
「上からの決定ですよ、どうにもならん」
石黒は苦々しく顔を歪めた。
「…日本の終わりが始まったかもしれん」
その一言に、小峯も板橋も沈黙したまま、ただ頷くしかなかった。
そしてその言葉が室内に響くや、静かな重みを持って捜査官たちの胸に突き刺さった。
窓から射し込む午後の光が、机に山積みされたファイルを淡く照らしている。
捜査二課課長の小峯仁警視は机の上の電話を置くと深くため息をついた。
「捜査中止だ。上からの指示だ」
目の前の若手捜査官、板橋将貴警部補が呆然とした表情で小峯を見つめる。
「どういうことですか、課長?今我々が追っている共栄教会は危険な団体です。暴力団との結託や、政治にまで食い込んでいる可能性が高いと報告してきたばかりじゃないですか」
小峯は無言でうなずきながら、再び机に視線を落とす。
公安部の捜査がここまで来て、突然の中止命令が下るとは思っていなかった。
だが、捜査中止の指令は上層部からの正式な決定であり、逆らうことはできない。
この捜査は、小峯や板橋だけで行っていたわけではない。
公安部全体が一丸となって動いていた。
共栄教会は、単なる宗教団体ではなく、裏では多くの違法行為や犯罪行為に手を染め、さらには政治にまで影響を与えようとしている。
小峯たちがそのことを察知してから、警視庁公安部は秘密裏に監視と捜査を進めていたのだ。
公安第三課が教団の動きを監視し、公安一課は国際的なネットワークを探り出し、組織犯罪対策部も教団が暴力団や半グレ組織と結託しているという疑惑に対して動いていた。
警察庁とも連携し、捜査は日本全国、そして国外にも広がっていた。
だが、突然の中止命令にすべてが無に帰そうとしている。
「これは、明らかに誰かが手を回したな…」
小峯は口の中でつぶやく。
共栄教会への捜査が進むにつれ、その背後にあるビジネス支援団体**IBSL(インターナショナル・ビジネス・サポート・リンク)**の存在が浮かび上がってきていた。
IBSLはその莫大な資金力と広範なネットワークを使って、政財界に影響を及ぼしている。
だが、教団の正体が共栄教会であるという確証をつかんだ瞬間に、捜査がストップさせられたのだ。
捜査の進行をまとめていた第二課次長の福村有輔警視正が無表情で近づいてきた。
「小峯、どうにかならないのか?捜査中止なんて…このまま引き下がれる話じゃないだろう」
「上からの決定です。内閣府の方まで絡んでると聞きました」
福村は唇を噛んで机を叩いた。
「西川が動いたか…」
捜査に関わっていた公安警察の中でも、疑惑の中心にあったのが与党自民党の左派トップ、西川優也議員だ。
彼は、党内で「環境・福祉改革推進本部」の本部長を務めており、表向きは環境問題や社会福祉を重視するリーダーとして知られている。
しかし、その裏にはIBSLからの莫大な選挙支援があり、それが彼の選挙活動を支え、政界での地位を確立するための大きな要因となっていた。
福村も小峯も気づいてはいた。
西川が公安の動きを封じるために方々で手を回していたことを。
板橋が無言で小峯たちの言葉に耳を傾けていた。だがその表情は憤りで満ちていた。
「公安一課や第三課まで動いて、ようやく教団の実態が見えてきたというのに、捜査を止めるなんてありえない!このままでは共栄教会が日本の政治に食い込んでいくのをただ見過ごすだけじゃないですか!」
「上層部は、この問題を静かに片付けたいんだろう。IBSLにどれほどの力があるのか、まだ掴みきれていない。それに、西川も教団と手を切ろうとしているようだが…」
小峯は天井を見上げ、声を落とした。
「西川にとっても、もはや抜け出せない関係になっている。共栄教会の支援なしに彼はここまで来られなかったんだ。だからこそ、手を切ることができない。だが、公安に動くのをやめさせたことで、恩に着せるつもりだろう」
板橋が眉をひそめた。
「恩に着せる?しかし、教団はそんなことで満足するんですか?」
「いや、あの水上って男を見てみろ。あいつは西川が手を貸したぐらいじゃ満足しないだろう。むしろ、『それが当然だ』という態度を取るに決まっている」
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