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こんな顔に生んだ両親が憎い!手塩にかけて育てた?それがどうした!!
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西宮繭は共栄教会の用意した江東区南砂の寮に移り住んでいた。
そこには合宿に来ていた坂尾真奈美はじめ他の信者たちも住んでおり、この狭い部屋での共同生活が始まってもう久しい。
寮の部屋は最低限の家具とベッドだけが揃っていて、生活に必要なものはすべて教会が管理していた。
教会から紹介された職場で働かされることになり、その給料は寮費や食費、光熱費といった名目で教団から差し引かれてしまうため、繭の手元にはほとんど残らない。
毎朝5時に目覚まし時計の音で起こされると、寮生たちは一列に並んで点呼を受け、教会の教えを復唱させられる。
その後、各自が配属された職場へと向かう。
繭の職場は江東区内の工場。
単調で退屈な流れ作業が続く中、彼女の心には合宿で叩き込まれた「親への恨み」が常に渦巻いていた。
職場の行き帰り途中で見かける美女や、カップルを目にするたびに感じる自分のみじめさを思い出してはムカムカしていたのだ。
あんな顔の親のもとに生まれたから私は…。
我慢できなくなった場合は寮に帰ったり、職場の休憩時間などに飛び出してきた実家に電話をかけてそのムシャクシャをぶちまけた。
「私は親ガチャでハズレを引いたんだよ。あんたたちの子供に生まれて、こんな人生になるなんて、まったく運が悪かった!どうしてもっとまともな顔の親のもとに生まれなかったんだろう?」
「どうせ産むなら、もっと考えてほしかった!あんたたちの自己満足で私を産んだんでしょ?勝手に産んで、勝手に育てて、全部あんたたちのエゴだよ!次生まれる時は、絶対に私を産まないで!」
「手塩にかけて育てたからって、それが何になるの?あんたたちは私をこんな醜い姿に生んで、私の人生を台無しにしただけじゃない!何不自由なく育ててやったとか、自分に都合のいいことばかり言って、何一つ解決してくれなかった!」
「老後は私に面倒見てもらおうなんて思うな!アンタたちなんか知るか!これはこんな顔に生んだアンタたちへの私の復讐だ!」
そのたびに向こうの年老いた父、あるいは母から「お前が辛かったのは分かった。本当に申し訳ないことをした」という弱々しい返事や「いっぺん帰ってこない?もう一回母さんと話し合おうよ。お願い、繭」という懇願、「どうしてひどいことばかり母さんに言うんだ!?父さんも母さんもどんな思いしているか分かるか!?何でもかんでも人のせいにするんじゃない!父さんも母さんもお前のために一生懸命やってきたんだ!」という反論もあったりしたが、どの場合でも繭は余計に激昂して時には涙まで流して両親をスマートフォン越しにののしった。
そして今晩も肩を怒らせて寮の部屋に帰って来て、スマートフォンを取り出す。
出勤する途中、朝っぱらからいちゃつく高校生カップルを見かけたのと、職場でちょっと気になっていた先輩の男性社員が自分より後に入った可愛い顔の派遣社員と良い仲になっているのを目の当たりにして、両親のどちらかにこの思いをぶつけなければおさまらないと思っていたのだ。
その時、「西宮さんちょっといい?」と真奈美と共同生活する部屋に入って来た女性がいた。
新藤香菜というこの共栄教徒寮の寮長だ。
彼女は30代になるかならないかだが落ち着いた風貌を持つ女性で、かなり古株の共栄教徒。
教会の教義に忠実で、厳格な態度で寮生たちを監視していた。
「あなたのスマートフォンを私に見せて!」
香菜は繭にスマートフォンを差し出させると手に取り、彼女の通話履歴やメッセージをチェックし始める。
繭が実家に頻繁に電話をかけていることが目に留まった。
履歴はほぼ実家だ。
香菜は眉をひそめてきつい調子で問いただした。
「西宮さん、あなたのスマートフォンの履歴、実家への発信が多いのはどういうこと?」
繭は顔を強張らせる。
彼女は香菜の前で目を伏せ、少しの間答えをためらったが、やがて口を開く。
「私は…両親に対して、まだ言いたいことがたくさんあって…」
「言いたいこと?あなたが親に電話しているのがこれまでもしょっちゅう聞こえてたけど、『あなたたちの遺伝子は私に終生続く罰を与えた』とか、『親ガチャでハズレを引いた』とか、そんな言葉を何度も何度も繰り返して、あなたは本当にそれで自分が解放されているとでも思っているの?」
香菜は冷静なような声で問いかけてきたが、その言葉には厳しい非難の響きがある。
繭は息を詰まらせた。
彼女は今までの鬱憤を晴らすように、両親に何度も電話をかけて罵詈雑言を吐き出していたのだ。
「あなたの行動は、親への依存を断ち切れていない証拠です。教会はあなたに新しい家族を与えたのに、あなたはまだ古い家族にしがみついている」
繭は言葉を失った。
香菜の言葉は、彼女の心の奥深くを突くようなものだった。
親への憎しみを吐き出すことが自分の解放だと信じていたのに、逆にそれが親への依存だと言われたことで、彼女の心は揺さぶられる。
「親のことを考えるのは、もうやめなさい!そして、親に電話をかけることも今後一切禁止します!あなたはまだ本当の意味で解放されていない!親への依存を断ち切り、新しい家族である私たちにすべてを捧げなさい!」
香菜の命令は冷酷だった。
繭は心の中で反発しようとしたが、教団での合宿で完全に支配されてしまった意識はそれを許さない。
繭の中には依然として親への憎しみが渦巻いていたが、その一方で、自分が新たな「家族」に完全に服従しなければならないという思いも芽生え始めていた。
「わかりました、寮長…」
繭は、少しの間を置いて答える。
香菜の厳しい目が彼女を見つめ続けている中で、繭は自分がこれからどうなるのか、どこへ向かうのかを知る由もなかった。
ただ、教団の支配の下での生活がますます彼女の自由を奪い、彼女を新しい道へと向かわせるのだということだけは、うっすらと理解し始めていた。
それが正しいことなのか、間違ったことなのかはまだ彼女自身分からなかったが。
そこには合宿に来ていた坂尾真奈美はじめ他の信者たちも住んでおり、この狭い部屋での共同生活が始まってもう久しい。
寮の部屋は最低限の家具とベッドだけが揃っていて、生活に必要なものはすべて教会が管理していた。
教会から紹介された職場で働かされることになり、その給料は寮費や食費、光熱費といった名目で教団から差し引かれてしまうため、繭の手元にはほとんど残らない。
毎朝5時に目覚まし時計の音で起こされると、寮生たちは一列に並んで点呼を受け、教会の教えを復唱させられる。
その後、各自が配属された職場へと向かう。
繭の職場は江東区内の工場。
単調で退屈な流れ作業が続く中、彼女の心には合宿で叩き込まれた「親への恨み」が常に渦巻いていた。
職場の行き帰り途中で見かける美女や、カップルを目にするたびに感じる自分のみじめさを思い出してはムカムカしていたのだ。
あんな顔の親のもとに生まれたから私は…。
我慢できなくなった場合は寮に帰ったり、職場の休憩時間などに飛び出してきた実家に電話をかけてそのムシャクシャをぶちまけた。
「私は親ガチャでハズレを引いたんだよ。あんたたちの子供に生まれて、こんな人生になるなんて、まったく運が悪かった!どうしてもっとまともな顔の親のもとに生まれなかったんだろう?」
「どうせ産むなら、もっと考えてほしかった!あんたたちの自己満足で私を産んだんでしょ?勝手に産んで、勝手に育てて、全部あんたたちのエゴだよ!次生まれる時は、絶対に私を産まないで!」
「手塩にかけて育てたからって、それが何になるの?あんたたちは私をこんな醜い姿に生んで、私の人生を台無しにしただけじゃない!何不自由なく育ててやったとか、自分に都合のいいことばかり言って、何一つ解決してくれなかった!」
「老後は私に面倒見てもらおうなんて思うな!アンタたちなんか知るか!これはこんな顔に生んだアンタたちへの私の復讐だ!」
そのたびに向こうの年老いた父、あるいは母から「お前が辛かったのは分かった。本当に申し訳ないことをした」という弱々しい返事や「いっぺん帰ってこない?もう一回母さんと話し合おうよ。お願い、繭」という懇願、「どうしてひどいことばかり母さんに言うんだ!?父さんも母さんもどんな思いしているか分かるか!?何でもかんでも人のせいにするんじゃない!父さんも母さんもお前のために一生懸命やってきたんだ!」という反論もあったりしたが、どの場合でも繭は余計に激昂して時には涙まで流して両親をスマートフォン越しにののしった。
そして今晩も肩を怒らせて寮の部屋に帰って来て、スマートフォンを取り出す。
出勤する途中、朝っぱらからいちゃつく高校生カップルを見かけたのと、職場でちょっと気になっていた先輩の男性社員が自分より後に入った可愛い顔の派遣社員と良い仲になっているのを目の当たりにして、両親のどちらかにこの思いをぶつけなければおさまらないと思っていたのだ。
その時、「西宮さんちょっといい?」と真奈美と共同生活する部屋に入って来た女性がいた。
新藤香菜というこの共栄教徒寮の寮長だ。
彼女は30代になるかならないかだが落ち着いた風貌を持つ女性で、かなり古株の共栄教徒。
教会の教義に忠実で、厳格な態度で寮生たちを監視していた。
「あなたのスマートフォンを私に見せて!」
香菜は繭にスマートフォンを差し出させると手に取り、彼女の通話履歴やメッセージをチェックし始める。
繭が実家に頻繁に電話をかけていることが目に留まった。
履歴はほぼ実家だ。
香菜は眉をひそめてきつい調子で問いただした。
「西宮さん、あなたのスマートフォンの履歴、実家への発信が多いのはどういうこと?」
繭は顔を強張らせる。
彼女は香菜の前で目を伏せ、少しの間答えをためらったが、やがて口を開く。
「私は…両親に対して、まだ言いたいことがたくさんあって…」
「言いたいこと?あなたが親に電話しているのがこれまでもしょっちゅう聞こえてたけど、『あなたたちの遺伝子は私に終生続く罰を与えた』とか、『親ガチャでハズレを引いた』とか、そんな言葉を何度も何度も繰り返して、あなたは本当にそれで自分が解放されているとでも思っているの?」
香菜は冷静なような声で問いかけてきたが、その言葉には厳しい非難の響きがある。
繭は息を詰まらせた。
彼女は今までの鬱憤を晴らすように、両親に何度も電話をかけて罵詈雑言を吐き出していたのだ。
「あなたの行動は、親への依存を断ち切れていない証拠です。教会はあなたに新しい家族を与えたのに、あなたはまだ古い家族にしがみついている」
繭は言葉を失った。
香菜の言葉は、彼女の心の奥深くを突くようなものだった。
親への憎しみを吐き出すことが自分の解放だと信じていたのに、逆にそれが親への依存だと言われたことで、彼女の心は揺さぶられる。
「親のことを考えるのは、もうやめなさい!そして、親に電話をかけることも今後一切禁止します!あなたはまだ本当の意味で解放されていない!親への依存を断ち切り、新しい家族である私たちにすべてを捧げなさい!」
香菜の命令は冷酷だった。
繭は心の中で反発しようとしたが、教団での合宿で完全に支配されてしまった意識はそれを許さない。
繭の中には依然として親への憎しみが渦巻いていたが、その一方で、自分が新たな「家族」に完全に服従しなければならないという思いも芽生え始めていた。
「わかりました、寮長…」
繭は、少しの間を置いて答える。
香菜の厳しい目が彼女を見つめ続けている中で、繭は自分がこれからどうなるのか、どこへ向かうのかを知る由もなかった。
ただ、教団の支配の下での生活がますます彼女の自由を奪い、彼女を新しい道へと向かわせるのだということだけは、うっすらと理解し始めていた。
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