11 / 50
中国で勢力を拡大する共栄教会
しおりを挟む
さかのぼること二十年以上前の2000年代初頭、共栄教会は中国への進出を果たしていた。
その背景には、この国の急激な経済成長と、それに伴う貧富の格差の拡大がある。
中国は教会にとって「金城湯池」、つまり豊かな資源と機会に満ちた場所として見えていたのだ。
特に農村部から都市へ移住した出稼ぎ労働者や、就職難に苦しむ「蚂蚁族(アリ族)」と呼ばれる若者たちにとって共栄教会の教義は心の拠り所となり得た。
教会の掲げる神の下の平等や成功者を妬むことを正当化する思想は、将来への不安や目の前の現実に打ちのめされてゆがみつつあった彼らの心に心地よく刺さったのが大きい。
都市に流入する大量の労働者たちが抱える疎外感や将来への不安、生活の不安定さ——それらは教会の理想郷建設という教義と合致する。
共栄教会は「神の下での平等」「持たざる者の楽園」といったメッセージを巧みに使い、社会から疎外され、精神的な支えを求めている彼らを取り込んでいった。
教会は「持てる者から奪え、それはあなたから奪ったものだ」「感受性を殺せ、感受性はあなたの敵だ」「神のためにすべてを捧げよ」「自己を犠牲にして理想郷を建設せよ」といった教義を掲げ、これに共鳴した多くの若者や出稼ぎ労働者たちが次々と加入していった。
ただし共栄教会の中国での戦略は、韓国でのやり方とは異なっていた。
教義を思想統制の厳しい中国に合わせてローカライズし、あまり露骨に憎悪を煽ることなく、「聖約者」イ・リキョンの肖像とともに中国国旗やより大きな毛沢東の肖像をかかげるなど中国共産党と親和的にふるまうことを心掛けていたのだ。
韓国では目立つ襲撃事件や暴力行為を行っていたが、中国では一切それを行わず、あくまで「社会奉仕」や「精神的成長」を掲げた穏健な活動に徹する。
彼らはまず、地方都市や農村部に「福利団体」や「相互扶助組織」として浸透。
これらの組織は一見、政府の政策に従う非営利団体のように見えたが、実際には共栄教会の影響力を拡大するための手段として機能していた。
彼らは地元の共産党幹部や政府官僚に接触し、「社会安定」に貢献する名目で、出稼ぎ労働者や貧困層のための支援活動を行った。
無料の食事提供、就労支援、医療相談などの活動を通じて、教会は徐々に信者を増やしてゆく。
また、地方政府としても、共栄教会の活動を利用して社会問題を解決する手段として見なすようになり、彼らの存在を黙認する傾向が強まっていったのも大きい。
共産党内部にも共栄教会に共感するシンパが存在した。
特に、地方の若手幹部たちの中には、教会の活動が社会の不満を和らげる手段として有効だと考える者が少なくなかった。
共栄教会が掲げる「持たざる者の救済」という教義は、共産主義の一部の理想と重なる部分もあったのだ。
これにより、共産党内部の一部勢力は教会の活動を黙認、あるいは支援する形となっていった。
もっとも、教会から幹部たちにキックバックがあったのは言うまでもない。
2012年、習近平が中国の最高指導者として台頭した時、宗教団体に対する監視と取り締まりは一層厳しくなる。
しかし、共栄教会は不思議なことに、その影響をほとんど受けることがなかった。
それどころか、彼らの勢力はますます拡大していったのだ。
習近平政権が教会に対して弾圧を加えなかった理由には、いくつかの要因があった。
まず、共栄教会はその活動を「宗教」としてではなく、「精神的な成長プログラム」として位置付け、宗教の枠組みから逃れるようにしていた。
彼らは公式には宗教団体としての登録をせず、むしろ教育プログラムや社会奉仕活動として活動を展開。
これにより、政府の監視から逃れ、自由に活動することができた。
さらに、習近平は共栄教会の勢力拡大が自らの政治的目的に役立つと考えていた節がある。
教会は中国国内だけでなく日本や台湾にも勢力を伸ばしていたが、習近平にとって、台湾統一は最大の政治課題の一つであり、共栄教会の信者ネットワークを利用することで、台湾社会に対する影響力を強め、統一に向けた動きを有利に進められるのではないかと考えたようなのだ。
彼らが韓国で何をしていたかをよく知っていたが、影響力のある北朝鮮とも密接な関係があり、利用価値を大いに見出していた。
共栄教会の側もまた、海外での活動を通じて中国政府にその情報を提供することで、黙認される条件を築く。
教会のリーダーたちは、台湾や日本での信者から集めた情報を中国政府に提供し、その見返りとして国内での活動を容認される形となった。
さらに、中国の国家安全保障部門とも密接な関係を築き、情報提供のパイプ役を担ったことで、弾圧を免れていたのだ。
共栄教会が中国政府と強固な関係を築くことができた理由のもう一つは、彼らが明確に反政府活動を避け、社会の安定に寄与する方向で活動していたこと。
習近平政権にとって、最大の懸念は社会不安の拡大と政権の安定であり、教会の活動がこの点でも役立つと考えられた。
そして2020年、湖北省の武漢市で始まったパンデミックが世界を襲う中、共栄教会はこれをチャンスと捉える。
パンデミックによって失業者や困窮者が増加する中、教会は積極的に「支援活動」を展開し、困窮する人々への支援を行った。
無料の医療用品配布、食糧支援、オンラインでの精神的サポート——教会は多くの信者を獲得し、影響力を急速に拡大させてゆく。
こうして、共栄教会は中国政府との協調と、社会奉仕活動を通じて勢力を拡大し続け、その「信者」は韓国と日本でのものを合計した数よりはるかに多い1000万人に迫る勢いになった。
かつて邪教とされて弾圧された法輪功と違い、その利用価値を見出した習近平政権の下で弾圧されることなく、その存在感を増し続ける教会の影響力は、やがて国際的な政治情勢にも影響を及ぼす可能性を秘めるようになる。
その背景には、この国の急激な経済成長と、それに伴う貧富の格差の拡大がある。
中国は教会にとって「金城湯池」、つまり豊かな資源と機会に満ちた場所として見えていたのだ。
特に農村部から都市へ移住した出稼ぎ労働者や、就職難に苦しむ「蚂蚁族(アリ族)」と呼ばれる若者たちにとって共栄教会の教義は心の拠り所となり得た。
教会の掲げる神の下の平等や成功者を妬むことを正当化する思想は、将来への不安や目の前の現実に打ちのめされてゆがみつつあった彼らの心に心地よく刺さったのが大きい。
都市に流入する大量の労働者たちが抱える疎外感や将来への不安、生活の不安定さ——それらは教会の理想郷建設という教義と合致する。
共栄教会は「神の下での平等」「持たざる者の楽園」といったメッセージを巧みに使い、社会から疎外され、精神的な支えを求めている彼らを取り込んでいった。
教会は「持てる者から奪え、それはあなたから奪ったものだ」「感受性を殺せ、感受性はあなたの敵だ」「神のためにすべてを捧げよ」「自己を犠牲にして理想郷を建設せよ」といった教義を掲げ、これに共鳴した多くの若者や出稼ぎ労働者たちが次々と加入していった。
ただし共栄教会の中国での戦略は、韓国でのやり方とは異なっていた。
教義を思想統制の厳しい中国に合わせてローカライズし、あまり露骨に憎悪を煽ることなく、「聖約者」イ・リキョンの肖像とともに中国国旗やより大きな毛沢東の肖像をかかげるなど中国共産党と親和的にふるまうことを心掛けていたのだ。
韓国では目立つ襲撃事件や暴力行為を行っていたが、中国では一切それを行わず、あくまで「社会奉仕」や「精神的成長」を掲げた穏健な活動に徹する。
彼らはまず、地方都市や農村部に「福利団体」や「相互扶助組織」として浸透。
これらの組織は一見、政府の政策に従う非営利団体のように見えたが、実際には共栄教会の影響力を拡大するための手段として機能していた。
彼らは地元の共産党幹部や政府官僚に接触し、「社会安定」に貢献する名目で、出稼ぎ労働者や貧困層のための支援活動を行った。
無料の食事提供、就労支援、医療相談などの活動を通じて、教会は徐々に信者を増やしてゆく。
また、地方政府としても、共栄教会の活動を利用して社会問題を解決する手段として見なすようになり、彼らの存在を黙認する傾向が強まっていったのも大きい。
共産党内部にも共栄教会に共感するシンパが存在した。
特に、地方の若手幹部たちの中には、教会の活動が社会の不満を和らげる手段として有効だと考える者が少なくなかった。
共栄教会が掲げる「持たざる者の救済」という教義は、共産主義の一部の理想と重なる部分もあったのだ。
これにより、共産党内部の一部勢力は教会の活動を黙認、あるいは支援する形となっていった。
もっとも、教会から幹部たちにキックバックがあったのは言うまでもない。
2012年、習近平が中国の最高指導者として台頭した時、宗教団体に対する監視と取り締まりは一層厳しくなる。
しかし、共栄教会は不思議なことに、その影響をほとんど受けることがなかった。
それどころか、彼らの勢力はますます拡大していったのだ。
習近平政権が教会に対して弾圧を加えなかった理由には、いくつかの要因があった。
まず、共栄教会はその活動を「宗教」としてではなく、「精神的な成長プログラム」として位置付け、宗教の枠組みから逃れるようにしていた。
彼らは公式には宗教団体としての登録をせず、むしろ教育プログラムや社会奉仕活動として活動を展開。
これにより、政府の監視から逃れ、自由に活動することができた。
さらに、習近平は共栄教会の勢力拡大が自らの政治的目的に役立つと考えていた節がある。
教会は中国国内だけでなく日本や台湾にも勢力を伸ばしていたが、習近平にとって、台湾統一は最大の政治課題の一つであり、共栄教会の信者ネットワークを利用することで、台湾社会に対する影響力を強め、統一に向けた動きを有利に進められるのではないかと考えたようなのだ。
彼らが韓国で何をしていたかをよく知っていたが、影響力のある北朝鮮とも密接な関係があり、利用価値を大いに見出していた。
共栄教会の側もまた、海外での活動を通じて中国政府にその情報を提供することで、黙認される条件を築く。
教会のリーダーたちは、台湾や日本での信者から集めた情報を中国政府に提供し、その見返りとして国内での活動を容認される形となった。
さらに、中国の国家安全保障部門とも密接な関係を築き、情報提供のパイプ役を担ったことで、弾圧を免れていたのだ。
共栄教会が中国政府と強固な関係を築くことができた理由のもう一つは、彼らが明確に反政府活動を避け、社会の安定に寄与する方向で活動していたこと。
習近平政権にとって、最大の懸念は社会不安の拡大と政権の安定であり、教会の活動がこの点でも役立つと考えられた。
そして2020年、湖北省の武漢市で始まったパンデミックが世界を襲う中、共栄教会はこれをチャンスと捉える。
パンデミックによって失業者や困窮者が増加する中、教会は積極的に「支援活動」を展開し、困窮する人々への支援を行った。
無料の医療用品配布、食糧支援、オンラインでの精神的サポート——教会は多くの信者を獲得し、影響力を急速に拡大させてゆく。
こうして、共栄教会は中国政府との協調と、社会奉仕活動を通じて勢力を拡大し続け、その「信者」は韓国と日本でのものを合計した数よりはるかに多い1000万人に迫る勢いになった。
かつて邪教とされて弾圧された法輪功と違い、その利用価値を見出した習近平政権の下で弾圧されることなく、その存在感を増し続ける教会の影響力は、やがて国際的な政治情勢にも影響を及ぼす可能性を秘めるようになる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


「メジャー・インフラトン」序章1/ 7(太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!)
あおっち
SF
脈々と続く宇宙の無数の文明。その中でより高度に発展した高高度文明があった。その文明の流通、移動を支え光速を超えて遥か彼方の銀河や銀河内を瞬時に移動できるジャンプ技術。それを可能にしたジャンプ血清。
その血清は生体(人間)へのダメージをコントロールする血清、ワクチンなのだ。そのジャンプ血清をめぐり遥か大昔、大銀河戦争が起こり多くの高高度文明が滅びた。
その生き残りの文明が新たに見つけた地、ネイジェア星域。私達、天の川銀河の反対の宙域だった。そこで再び高高度文明が栄えたが、再びジャンプ血清供給に陰りが。天の川銀河レベルで再び紛争が勃発しかけていた。
そして紛争の火種は地球へ。
その地球では強大な軍事組織、中華帝国連邦、通称「AXIS」とそれに対抗する為、日本を中心とした加盟国軍組織「シーラス」が対峙していたのだ。
近未来の地球と太古から続くネイジェア星域皇国との交流、天然ジャンプ血清保持者の椎葉清らが居る日本と、高高度文明異星人(シーラス皇国)の末裔、マズル家のポーランド家族を描いたSF大河小説「メジャー・インフラトン」の前章譚、7部作。
第1部「太陽の季節 DIVE!DIVE!DIVE!ダイブ!ダイブ!ダイブ!」。
ジャンプ血清は保持者の傷ついた体を異例のスピードで回復させた。また血清のオリジナル保持者(ゼロ・スターター)は、独自の能力を飛躍的に引き上げる事が出来たのだ。
第2次大戦時、無敵兵士と言われた舩坂弘氏をモデルに御舩大(ミフネヒロシ)の無敵ふりと、近代世界のジャンプ血清保持者、椎葉きよし(通称:お子ちゃまきよし)の現在と過去。
ジャンプ血清の力、そして人類の未来をかけた壮大な戦いが、いま、始まる――。
彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。
本格的な戦闘シーンもあり、面白い場面も増えます。
是非、ご覧あれ。
※加筆や修正が予告なしにあります。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる