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たすける
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リウの喉奥に落とした命のボールの行方を、固唾を呑んで見守った。
やがて体内からプチンっと膜が勢いよく弾ける音がし、そこからじわじわと狼の毛が逆立ち……喉が震え、心臓が規則正しく脈打ち出した。
ドクドクドク……
生命の音が聴こえて来た!
息絶える寸前の所で……狼は息を吹き返した。
つまり……命は繋がったのか。
「トカプチ、心臓が動き出したぞ。ほらっこんなにも規則正しく!」
「本当だ!傷はどうなった?」
「驚いた……傷も癒えている」
不思議な光景だった。腹部の抉れた傷がジュワッと音を立てて癒えていったのだから。
「これは一体……」
トカプチもオレも唖然として見守った。兄狼も目の前で繰り広げられる出来事に目を剥いていた。
「ナンデ? オマエハ……マホウガ……ツカエルノカ」
「違うよ。これは魔法なんかじゃない! 皆の願う気持ちが一つになったんだ! あっ……君も傷ついているな、おいで」
「オッ、オレハ……イイ、コンナノスグナオル」
兄は頑なに拒否していた。だがトカプチが歩みより、兄狼を優しく抱きしめた。
スウは戸惑いを隠せない様子だった。
「ナ、ナニヲスル?」
「君も治そう! 君も俺にとって大事な……ロウのお兄さんだから」
あぁそうだ、いつだってそうだ。
オレはトカプチのこういう所が好きなのだ。
分け隔てなく愛を与えられる人なのだ!
「ヨセ! オレハイイ」
「いいから、さぁおいで、今あげるから」
トカプチは自らの乳を自分の手でギュッと揉み込んだ。
「うっ……」
少しだけ顔を歪め、規則正しく手を動かして絞り出していく。
「……まだ残っているみたいだ」
黄色い乳の名残りが小さな水滴となり、トカプチの白い手の上にぽたぽたと落ちて来た。
「うっ」
「トカプチ、無理するな! 大丈夫か」
「ほら、ちゃんとあったよ。お前のもう一人のお兄さんの分だよ」
トカプチは額に汗を浮かべていた。その横顔は……色気よりも母性の方が勝っていた。いやらしさは微塵もない……まるで神聖な儀式のようにも見える光景だった。
濃厚なミルキィな香りが岩穴に立ち込める中、トカプチがそれを兄狼の傷ついた足にそっと塗り込めると、同じように一瞬毛が一瞬浮き立ち、その後ジュワッと傷が癒える音がした。
「グルル……グゥ」
「ほら、治っていく──神様が助けてくれたんだよ。ロウ、お前の大事な肉親を。お前は見放されていない。ちゃんと出会た!」
「トカプチ……」
気が付くと膝立ちで天を仰ぐトカプチに、二匹の大型の狼が寄り添っていた。
森で見かけた時は、ただの獰猛な狼だと思ったが今は違う。
心を持っている……心が凪いでいる。
彼らは俺の兄なのだ。父さんと母さんの血を受けついだ血族と出逢えるとは、夢にも思っていなかった。すっとおれは天涯孤独だと思っていたから。
トカプチが床に座り、二匹の狼を抱き寄せた。
「うわっお前たちの毛はロウと同じ色だな。ふさふさだ」
狼達は照れくさそうに、それでもしっかりと礼を言った。
「アリガトウ……ロウノ……ヨメ」
「アリガトウ……シンジラレナイ。シンデシマウトコロダッタノニタスケテモラッタ……」
トカプチは恥ずかしそうに頬を染めた。
「嫁っ?それは照れるな。えっと俺はロウの番のトカプチだ。縁あってお前たちの末の弟ロウと出逢い番になった。それからロウは変身し人間の顔になったんだ。お前たちと同じ姿のロウも知っているいるし、半獣の時も知っている。つまり……俺はどんな姿のロウでも愛する覚悟なんだ」
「ワカッタカラ。モウ……ソノムネヲシマエ! メノヤリバニコマル……」
「マッタクダ」
狼二匹は、きまり悪そうにボソッと呟いた。
「え? わっ……いつの間に!」
トカプチのまだ剥き出しになっていた胸元からは、今度は白い乳が垂れていたので、慌ててトカプチを背中に隠した。
「兄さん……オレがロウです」
緊張が走る。
言わないといけない事、侘びないといけない事があるから。
やがて体内からプチンっと膜が勢いよく弾ける音がし、そこからじわじわと狼の毛が逆立ち……喉が震え、心臓が規則正しく脈打ち出した。
ドクドクドク……
生命の音が聴こえて来た!
息絶える寸前の所で……狼は息を吹き返した。
つまり……命は繋がったのか。
「トカプチ、心臓が動き出したぞ。ほらっこんなにも規則正しく!」
「本当だ!傷はどうなった?」
「驚いた……傷も癒えている」
不思議な光景だった。腹部の抉れた傷がジュワッと音を立てて癒えていったのだから。
「これは一体……」
トカプチもオレも唖然として見守った。兄狼も目の前で繰り広げられる出来事に目を剥いていた。
「ナンデ? オマエハ……マホウガ……ツカエルノカ」
「違うよ。これは魔法なんかじゃない! 皆の願う気持ちが一つになったんだ! あっ……君も傷ついているな、おいで」
「オッ、オレハ……イイ、コンナノスグナオル」
兄は頑なに拒否していた。だがトカプチが歩みより、兄狼を優しく抱きしめた。
スウは戸惑いを隠せない様子だった。
「ナ、ナニヲスル?」
「君も治そう! 君も俺にとって大事な……ロウのお兄さんだから」
あぁそうだ、いつだってそうだ。
オレはトカプチのこういう所が好きなのだ。
分け隔てなく愛を与えられる人なのだ!
「ヨセ! オレハイイ」
「いいから、さぁおいで、今あげるから」
トカプチは自らの乳を自分の手でギュッと揉み込んだ。
「うっ……」
少しだけ顔を歪め、規則正しく手を動かして絞り出していく。
「……まだ残っているみたいだ」
黄色い乳の名残りが小さな水滴となり、トカプチの白い手の上にぽたぽたと落ちて来た。
「うっ」
「トカプチ、無理するな! 大丈夫か」
「ほら、ちゃんとあったよ。お前のもう一人のお兄さんの分だよ」
トカプチは額に汗を浮かべていた。その横顔は……色気よりも母性の方が勝っていた。いやらしさは微塵もない……まるで神聖な儀式のようにも見える光景だった。
濃厚なミルキィな香りが岩穴に立ち込める中、トカプチがそれを兄狼の傷ついた足にそっと塗り込めると、同じように一瞬毛が一瞬浮き立ち、その後ジュワッと傷が癒える音がした。
「グルル……グゥ」
「ほら、治っていく──神様が助けてくれたんだよ。ロウ、お前の大事な肉親を。お前は見放されていない。ちゃんと出会た!」
「トカプチ……」
気が付くと膝立ちで天を仰ぐトカプチに、二匹の大型の狼が寄り添っていた。
森で見かけた時は、ただの獰猛な狼だと思ったが今は違う。
心を持っている……心が凪いでいる。
彼らは俺の兄なのだ。父さんと母さんの血を受けついだ血族と出逢えるとは、夢にも思っていなかった。すっとおれは天涯孤独だと思っていたから。
トカプチが床に座り、二匹の狼を抱き寄せた。
「うわっお前たちの毛はロウと同じ色だな。ふさふさだ」
狼達は照れくさそうに、それでもしっかりと礼を言った。
「アリガトウ……ロウノ……ヨメ」
「アリガトウ……シンジラレナイ。シンデシマウトコロダッタノニタスケテモラッタ……」
トカプチは恥ずかしそうに頬を染めた。
「嫁っ?それは照れるな。えっと俺はロウの番のトカプチだ。縁あってお前たちの末の弟ロウと出逢い番になった。それからロウは変身し人間の顔になったんだ。お前たちと同じ姿のロウも知っているいるし、半獣の時も知っている。つまり……俺はどんな姿のロウでも愛する覚悟なんだ」
「ワカッタカラ。モウ……ソノムネヲシマエ! メノヤリバニコマル……」
「マッタクダ」
狼二匹は、きまり悪そうにボソッと呟いた。
「え? わっ……いつの間に!」
トカプチのまだ剥き出しになっていた胸元からは、今度は白い乳が垂れていたので、慌ててトカプチを背中に隠した。
「兄さん……オレがロウです」
緊張が走る。
言わないといけない事、侘びないといけない事があるから。
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