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Grow

えがお

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 信じられない……ロウが俺の実家にいるなんて!

 あの日叶えられなかった夢が、目の前で叶っていく。

 ロウが皆に囲まれている光景が、眩しかった。

「ロウも何か食べる? 喉乾いていない?」

 母さんがロウのことを息子のように愛情を込めて見てくれる。それが嬉しいよ。俺の家族はお前にとっても家族なんだよ。

 母さんに母性を感じたのか、ロウは照れくさそうに俯いた。

 あ……顔、赤くなってる。ロウ……本当に感情豊かになったな。

「いや……今は腹がいっぱいなので、いいです」
「まぁそんなに何を?」
「森でトカプチの乳を沢山飲ませてもらったから」

 げっ! それ言う? 今、ここで……
 そんな男気のある顔で、しかも真顔で言うなぁぁ! 恥かしくなる!

 父さんも母さんもアペもギョッとした顔で、俺の胸元を凝視した。

 見つめられると、さっき空っぽになったはずの乳がまた大量生産されていく。乳が衣服を通して滲み出そうになったので、焦って前屈みの体勢になった。

 ヤバイっ、ヤバイって──

 吸ってもらいたくなるんだよ。お前のその熱視線を浴びると。

「み、見るなよ!」
「まぁ……本当にあなた達は相変わらずね。森からなかなか帰ってこないと思ったら、またそんなこと……」

 ううう、穴があったら入りたいよ。

「ト、トーチ、乳牛は元気か」

 アペが必死に俺の胸元から目を逸らして、引きつりながらも助け舟を出してくれた。感謝!

「あぁ、実は俺たちの土地でも牧草が育つようになったんだ。乳牛がこの前、交尾していたから、きっと赤ちゃんが生れるよ。そうしたら乳が出るようになるんだよな」
「そうだ。乳が出るようになれば、いろいろ作れるぞ」
「うん、それを期待している。チーズや牛乳などの乳製品が作れるようになるよな」
「その通りだ!」

 夢は膨らむ。未来へと大きく羽ばたく──

「そうしたらオレとロウはチーズを作るよ」
「いいな。そうしたら俺の店で売らせてくれよ」
「それ、いいな」
「よし、トーチが生産者になれ」
「あぁ!チーズ作りを教えてもらいたいよ」

 アペと建設的な話を出来るなんて……まるで学生時代に戻ったようだ。

「ロウ、その時はお前も一緒だぞ」
「あぁよろしく頼む」
「う……痺れるな。お前の声……人の声になったらますます聞き惚れるぜ。しかしこんなにカッコいい男だったなんて、トーチが惚れるのも分かる」

 アペがうっとりとロウを見つめるから、焦ってしまう。

「おいっそんなに見るなぁ! ロウは俺のもんだ!」
「はははっ、やっぱり妬いたな。トーチの元気そうな顔をまた見ることが出来て嬉しいよ」
「あっ……うん」

 本当にそうだ。歳を重ねるにつれ、己の躰の秘密が重く圧し掛かって、上手く笑えなくなっていた。

 アペにはもう何もかも知られてしまっている。目の前でオメガのフェロモンをまき散らして襲われそうにもなった事もあったが……それはもう過去だ。

 今、こうやってロウを受け入れ、俺の秘密も漏らさず乳牛を贈ってくれ、未来の話までしてくれる。

 やっぱりアペは俺にとって、大事な幼馴染で友人だ。

「それにしてもよく分かったな。ロウのこと……人の顔になったのに」
「あぁすぐ分かったよ。どんな外見でもトーチのことが好きなロウだからかな。印象は何故か変わらなかった。いや、ほんといい男だな。お前さぁ~」

 熱く見つめるもんだから、アペの頭をぺシッと叩いてやった。

「最後のは余計だ」
「ははっ、はははっ」
「もうっ」
「クスッ、ロウもてるのね。分かるわぁ……男前だものね」
「おいおいレタル、お前は俺だけを見ていろ。にしても……はははっアペ、お前も面食いか。ロウは皆にモテモテだな」
「モテモテとは?」

 みんなで笑いあっていると、トイがモゴモゴと何かしゃべった。

「んっトイどうした? あっもしかしてまた新しい言葉を覚えたのか。言ってごらん」
「ぷぷぷっ」

 トイが笑うので、つられて俺も笑った。
 
 今度はどんな言葉だろう。『ママすきー』とか?

 ワクワクと耳を澄ますと……

「パパぁ、モテモテ」

 えっ、それ? そこー?
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