上 下
37 / 94
Birth

後日談『ロウの恋心』1

しおりを挟む
 トカプチの両親が外に出てくれている間に、急いで授乳しようとするトカプチ。

 彼が胸元をパッと露わにすると、平らな胸につぶらな赤い果実がふたつ見えた。その粒からは、もううっすら白いミルクが滲み出ていて、甘い香りが漂ってオレを誘う。

 その……オレが連れてきた当初よりもずっと色づいた美しい果実にそそられる。

「いい色をしている。そそられるな」

 ストレートに褒めた後は、大人げないと思うがトイよりも先にそこに吸い付いてしまった。乳首を人間と同じ唇で挟み込んでちゅっちゅっと吸い上げると、喉奥にぴゅっと甘く芳醇な乳が届いたので、目を閉じて味わうように嚥下した。

「あっ……んっ、おい!トイにあげる乳なのに」

 トカプチは両親が近くにいることもあり狼狽しいつもより少し暴れたが、乳首をかまわずギュッと吸いあげると、うっとりとした表情になり途端に大人しくなった。

 「んっんっ……ロウ」

 オレの肩に手を回し、必死にオレに乳を与えてくれるトカプチの姿を見ていると胸がカッと熱くなる。それに何故だか今日の乳は一段と美味しく感じる。トカプチが両親と再会できた喜びや安堵の気持ちがこもっているのか、優しい味わいだった。

 

 もしも『母性』というものを味にしたら、こんな風になるのか。

 とても懐かしい恋しい味だったので、堪らずにどんどん吸ってしまう。胸を吸えば連動するように、トカプチの小さな蕾みも潤うことを知っている。手を伸ばし確かめると、もう慈悲深い湖のように十分湿っていた。

「トカプチ、両親に会えて良かったな」

「ん……もう、よせよ。確かにホッとしたけど、今は冷や冷やしているよ。こんなシーン、何度も親に見せるもんじゃない」

「あぶぶ……」

 

 足元を見下ろすと、トイがくっついて必死に這い上ってこようとしていた。お前も欲しいよな。独り占めはよくないか。

「トイにもやってくれ。たらふくにして眠らせないと、この続きが出来ないだろう」

「まったくロウは……さぁトイおいで」

「あぶぶぅ!」

 トイに授乳するトカプチの姿を眺めていると、胸の奥が疼くような感じがした。

 ずっとひとりで生きてきたオレにとって、最近は未知の感情ばかりで戸惑ってしまうよ。トカプチと生きることになってから、本当にオレは様々な感情を知ることになった。きっとこの先も……もっと、ずっと。

 可愛くて少し強気で、でもとびきり優しいトカプチ。

 

 あらためて客観的に見たトカプチは、まだか細い少年の躰だ。そんなほっそりと成熟しきれていない肢体でいつもオレを受け止めてくれていることに、感謝の気持ちも満ちてくる。

 獰猛な狼だったオレのことを全身全霊で受け止め、トイを産み育ててくれて、ありがとう。

 トカプチと出会うために、オレは生きてきたといっても過言でない。

 授乳を終え胸元ですやすや眠ってしまった息子の躰を撫でながら、トカプチは少し不安そうに言った。

「なぁロウ……トイは将来どんな男になると思う?もしかして俺みたいにトイの胸からも乳が出たらどうしよう」

 その不安は、トカプチの両親がずっと抱いてきた不安と同じだろう。

 それに……乳が出る体質を受け継いだかもしれないトイは、半獣と人間のハーフでもあるから……未来はまだ未知数だ。きっと成長するにつれ、トイの躰には様々な変化が訪れることだろう。

 まだ赤ん坊のトイだが成長すれば、自分の躰に違和感を持つことも疑問を持つこともあるだろう。そんな時はトカプチとオレとでしっかり支えてやりたい。

「さぁどうだろうな。でも……きっとなるようになるさ。どんな姿でもオレたちの大切な息子だから大丈夫だ」

 オレがどんな姿でも愛してくれたトカプチ。

 君とオレが傍にいるのだから、トイもきっと大丈夫だ。

 オレたちはトイがどんな姿になろうとも……受け入れる。

 それ君の両親と君から学んだことだ。

 

 オレは変わる。

 どんどん変わる。

 

 姿はもうこれ以上変わらなくていいが、心はもっともっと変えていきたい。

 トカプチと出逢ってから、今までのオレがどれだけ自分勝手に、自分の感情だけを優先させて生きてきたかを知った。

 自分を見つめ直すことによって……

 

 今度は自分以外の誰かと心を寄り添わせたり合わせたりすると、信頼や愛情というものが生まれることを……初めて知った。

 トカプチとは更なる愛を

 トカプチの両親とは更なる信頼を……


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさんでも掲載中。

【完結】ただの狼です?神の使いです??

野々宮なつの
BL
気が付いたら高い山の上にいた白狼のディン。気ままに狼暮らしを満喫かと思いきや、どうやら白い生き物は神の使いらしい? 司祭×白狼(人間の姿になります) 神の使いなんて壮大な話と思いきや、好きな人を救いに来ただけのお話です。 全15話+おまけ+番外編 !地震と津波表現がさらっとですがあります。ご注意ください! 番外編更新中です。土日に更新します。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

あの日の記憶の隅で、君は笑う。

15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。 その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。 唐突に始まります。 身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません! 幸せになってくれな!

処理中です...