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Birth
後日談『ロウの恋心』1
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トカプチの両親が外に出てくれている間に、急いで授乳しようとするトカプチ。
彼が胸元をパッと露わにすると、平らな胸につぶらな赤い果実がふたつ見えた。その粒からは、もううっすら白いミルクが滲み出ていて、甘い香りが漂ってオレを誘う。
その……オレが連れてきた当初よりもずっと色づいた美しい果実にそそられる。
「いい色をしている。そそられるな」
ストレートに褒めた後は、大人げないと思うがトイよりも先にそこに吸い付いてしまった。乳首を人間と同じ唇で挟み込んでちゅっちゅっと吸い上げると、喉奥にぴゅっと甘く芳醇な乳が届いたので、目を閉じて味わうように嚥下した。
「あっ……んっ、おい!トイにあげる乳なのに」
トカプチは両親が近くにいることもあり狼狽しいつもより少し暴れたが、乳首をかまわずギュッと吸いあげると、うっとりとした表情になり途端に大人しくなった。
「んっんっ……ロウ」
オレの肩に手を回し、必死にオレに乳を与えてくれるトカプチの姿を見ていると胸がカッと熱くなる。それに何故だか今日の乳は一段と美味しく感じる。トカプチが両親と再会できた喜びや安堵の気持ちがこもっているのか、優しい味わいだった。
もしも『母性』というものを味にしたら、こんな風になるのか。
とても懐かしい恋しい味だったので、堪らずにどんどん吸ってしまう。胸を吸えば連動するように、トカプチの小さな蕾みも潤うことを知っている。手を伸ばし確かめると、もう慈悲深い湖のように十分湿っていた。
「トカプチ、両親に会えて良かったな」
「ん……もう、よせよ。確かにホッとしたけど、今は冷や冷やしているよ。こんなシーン、何度も親に見せるもんじゃない」
「あぶぶ……」
足元を見下ろすと、トイがくっついて必死に這い上ってこようとしていた。お前も欲しいよな。独り占めはよくないか。
「トイにもやってくれ。たらふくにして眠らせないと、この続きが出来ないだろう」
「まったくロウは……さぁトイおいで」
「あぶぶぅ!」
トイに授乳するトカプチの姿を眺めていると、胸の奥が疼くような感じがした。
ずっとひとりで生きてきたオレにとって、最近は未知の感情ばかりで戸惑ってしまうよ。トカプチと生きることになってから、本当にオレは様々な感情を知ることになった。きっとこの先も……もっと、ずっと。
可愛くて少し強気で、でもとびきり優しいトカプチ。
あらためて客観的に見たトカプチは、まだか細い少年の躰だ。そんなほっそりと成熟しきれていない肢体でいつもオレを受け止めてくれていることに、感謝の気持ちも満ちてくる。
獰猛な狼だったオレのことを全身全霊で受け止め、トイを産み育ててくれて、ありがとう。
トカプチと出会うために、オレは生きてきたといっても過言でない。
授乳を終え胸元ですやすや眠ってしまった息子の躰を撫でながら、トカプチは少し不安そうに言った。
「なぁロウ……トイは将来どんな男になると思う?もしかして俺みたいにトイの胸からも乳が出たらどうしよう」
その不安は、トカプチの両親がずっと抱いてきた不安と同じだろう。
それに……乳が出る体質を受け継いだかもしれないトイは、半獣と人間のハーフでもあるから……未来はまだ未知数だ。きっと成長するにつれ、トイの躰には様々な変化が訪れることだろう。
まだ赤ん坊のトイだが成長すれば、自分の躰に違和感を持つことも疑問を持つこともあるだろう。そんな時はトカプチとオレとでしっかり支えてやりたい。
「さぁどうだろうな。でも……きっとなるようになるさ。どんな姿でもオレたちの大切な息子だから大丈夫だ」
オレがどんな姿でも愛してくれたトカプチ。
君とオレが傍にいるのだから、トイもきっと大丈夫だ。
オレたちはトイがどんな姿になろうとも……受け入れる。
それ君の両親と君から学んだことだ。
オレは変わる。
どんどん変わる。
姿はもうこれ以上変わらなくていいが、心はもっともっと変えていきたい。
トカプチと出逢ってから、今までのオレがどれだけ自分勝手に、自分の感情だけを優先させて生きてきたかを知った。
自分を見つめ直すことによって……
今度は自分以外の誰かと心を寄り添わせたり合わせたりすると、信頼や愛情というものが生まれることを……初めて知った。
トカプチとは更なる愛を
トカプチの両親とは更なる信頼を……
彼が胸元をパッと露わにすると、平らな胸につぶらな赤い果実がふたつ見えた。その粒からは、もううっすら白いミルクが滲み出ていて、甘い香りが漂ってオレを誘う。
その……オレが連れてきた当初よりもずっと色づいた美しい果実にそそられる。
「いい色をしている。そそられるな」
ストレートに褒めた後は、大人げないと思うがトイよりも先にそこに吸い付いてしまった。乳首を人間と同じ唇で挟み込んでちゅっちゅっと吸い上げると、喉奥にぴゅっと甘く芳醇な乳が届いたので、目を閉じて味わうように嚥下した。
「あっ……んっ、おい!トイにあげる乳なのに」
トカプチは両親が近くにいることもあり狼狽しいつもより少し暴れたが、乳首をかまわずギュッと吸いあげると、うっとりとした表情になり途端に大人しくなった。
「んっんっ……ロウ」
オレの肩に手を回し、必死にオレに乳を与えてくれるトカプチの姿を見ていると胸がカッと熱くなる。それに何故だか今日の乳は一段と美味しく感じる。トカプチが両親と再会できた喜びや安堵の気持ちがこもっているのか、優しい味わいだった。
もしも『母性』というものを味にしたら、こんな風になるのか。
とても懐かしい恋しい味だったので、堪らずにどんどん吸ってしまう。胸を吸えば連動するように、トカプチの小さな蕾みも潤うことを知っている。手を伸ばし確かめると、もう慈悲深い湖のように十分湿っていた。
「トカプチ、両親に会えて良かったな」
「ん……もう、よせよ。確かにホッとしたけど、今は冷や冷やしているよ。こんなシーン、何度も親に見せるもんじゃない」
「あぶぶ……」
足元を見下ろすと、トイがくっついて必死に這い上ってこようとしていた。お前も欲しいよな。独り占めはよくないか。
「トイにもやってくれ。たらふくにして眠らせないと、この続きが出来ないだろう」
「まったくロウは……さぁトイおいで」
「あぶぶぅ!」
トイに授乳するトカプチの姿を眺めていると、胸の奥が疼くような感じがした。
ずっとひとりで生きてきたオレにとって、最近は未知の感情ばかりで戸惑ってしまうよ。トカプチと生きることになってから、本当にオレは様々な感情を知ることになった。きっとこの先も……もっと、ずっと。
可愛くて少し強気で、でもとびきり優しいトカプチ。
あらためて客観的に見たトカプチは、まだか細い少年の躰だ。そんなほっそりと成熟しきれていない肢体でいつもオレを受け止めてくれていることに、感謝の気持ちも満ちてくる。
獰猛な狼だったオレのことを全身全霊で受け止め、トイを産み育ててくれて、ありがとう。
トカプチと出会うために、オレは生きてきたといっても過言でない。
授乳を終え胸元ですやすや眠ってしまった息子の躰を撫でながら、トカプチは少し不安そうに言った。
「なぁロウ……トイは将来どんな男になると思う?もしかして俺みたいにトイの胸からも乳が出たらどうしよう」
その不安は、トカプチの両親がずっと抱いてきた不安と同じだろう。
それに……乳が出る体質を受け継いだかもしれないトイは、半獣と人間のハーフでもあるから……未来はまだ未知数だ。きっと成長するにつれ、トイの躰には様々な変化が訪れることだろう。
まだ赤ん坊のトイだが成長すれば、自分の躰に違和感を持つことも疑問を持つこともあるだろう。そんな時はトカプチとオレとでしっかり支えてやりたい。
「さぁどうだろうな。でも……きっとなるようになるさ。どんな姿でもオレたちの大切な息子だから大丈夫だ」
オレがどんな姿でも愛してくれたトカプチ。
君とオレが傍にいるのだから、トイもきっと大丈夫だ。
オレたちはトイがどんな姿になろうとも……受け入れる。
それ君の両親と君から学んだことだ。
オレは変わる。
どんどん変わる。
姿はもうこれ以上変わらなくていいが、心はもっともっと変えていきたい。
トカプチと出逢ってから、今までのオレがどれだけ自分勝手に、自分の感情だけを優先させて生きてきたかを知った。
自分を見つめ直すことによって……
今度は自分以外の誰かと心を寄り添わせたり合わせたりすると、信頼や愛情というものが生まれることを……初めて知った。
トカプチとは更なる愛を
トカプチの両親とは更なる信頼を……
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