悲しい月(改訂版)

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
38 / 73
第2章

時が満ちれば 7

しおりを挟む
「ヨウ! ヨウ! 何処だ?」

 隣室から俺を探すジョウの声がする。

「あっ……」
「ふっ……いいところで邪魔が入ったな。この続きはまたの機会にしよう、綺麗な近衛隊長さんよ」

 そう言って、キチは煙のように姿を消した。

「ヨウ? ここなのか」

 ジョウの足音がこの部屋に近づいてくるのが分かり、俺は慌てて乱れた着衣を直し、しつこく嘗め回され濡れた唇を※腕貫で急いで拭った。

※手首からひじのあたりまでをおおう筒状の布。皮膚を保護したり袖の汚れを防ぐもの。また腕袋のこと。 

「ジョウすまない。少し眩暈がして……ここにいた。悪かったな」
「大丈夫か? そういえば顔色が悪いぞ」

 部屋に入って来たジョウが、心配そうに俺の顔を覗き込む。その真剣な眼差しに罪悪感が芽生え胸がチクリと痛んだ。だが……ジョウには知られたくない。

「もう大丈夫だ」
「そうか?本当にそれならいいが……隠し事はするなよ」

 ジョウは俺の行動を訝しんでいるようだが、余計な心配を掛けたくない。大事なんだ。ジョウは俺にとって…ジョウが生きがいだと言っても過言でない。だから先程……キチから淫らな扱いを受けたことを気づかれたくない。

「それで王様の診察は終わったのか」
「あぁ……」

 途端にジョウの表情が曇っていく。あぁ……やはり手立てはないのか。王様に万が一のことがあれば、あのキチが次の王座につき、俺はその近衛隊にならざるえない。先ほど俺にしたことを考えても、俺の未来は暗く険しいだろう。今度また理不尽な目に遭ったら、きっともう生きてはいけぬだろうな。そう思うだけで胃がキリキリと痛む。

「あの……入ってもいい?」

 その時、部屋のドアの向こうから女の声がした。

「あぁどうぞ」

 ともかく赤い髪の女から話を聞かないと。どのような結果であれ出来ることに最善を尽くしたい。俺が今お護りしている……実の弟のように愛しい王様のために。

「包み隠さずに、診察結果を聞かせてくれ」

 緊張でゴクリと喉が鳴ってしまう。
 一縷の望みがあることを切に切に……願ってしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宰相様は抱き枕がほしい【完結】

うなきのこ
BL
イグニバイル国に仕える宰相のハイドラ•アルペンジオ。 国王や王子たちからの無茶振りを全てそつなく熟す手腕を持つ宰相ハイドラは、今までの無理が祟り倒れるがそれを支えたのはーー 抱き枕(癒し)が欲しい宰相様のお話 ※R指定 設定ざっくりですので、なんとなくの関係性だけで読めると思います。 小説はほぼ初めてですので拙い文章ですが、どうかお手柔らかに

偽物の僕。

れん
BL
偽物の僕。  この物語には性虐待などの虐待表現が多く使われております。 ご注意下さい。 優希(ゆうき) ある事きっかけで他人から嫌われるのが怖い 高校2年生 恋愛対象的に奏多が好き。 高校2年生 奏多(かなた) 優希の親友 いつも優希を心配している 高校2年生 柊叶(ひいらぎ かなえ) 優希の父親が登録している売春斡旋会社の社長 リアコ太客 ストーカー 登場人物は増えていく予定です。 増えたらまた紹介します。 かなり雑な書き方なので読みにくいと思います。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

エスポワールで会いましょう

茉莉花 香乃
BL
迷子癖がある主人公が、入学式の日に早速迷子になってしまった。それを助けてくれたのは背が高いイケメンさんだった。一目惚れしてしまったけれど、噂ではその人には好きな人がいるらしい。 じれじれ ハッピーエンド 1ページの文字数少ないです 初投稿作品になります 2015年に他サイトにて公開しています

【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない

りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

この恋は運命

大波小波
BL
 飛鳥 響也(あすか きょうや)は、大富豪の御曹司だ。  申し分のない家柄と財力に加え、頭脳明晰、華やかなルックスと、非の打ち所がない。  第二性はアルファということも手伝って、彼は30歳になるまで恋人に不自由したことがなかった。  しかし、あまたの令嬢と関係を持っても、世継ぎには恵まれない。  合理的な響也は、一年たっても相手が懐妊しなければ、婚約は破棄するのだ。  そんな非情な彼は、社交界で『青髭公』とささやかれていた。  海外の昔話にある、娶る妻を次々に殺害する『青髭公』になぞらえているのだ。  ある日、新しいパートナーを探そうと、響也はマッチング・パーティーを開く。  そこへ天使が舞い降りるように現れたのは、早乙女 麻衣(さおとめ まい)と名乗る18歳の少年だ。  麻衣は父に連れられて、経営難の早乙女家を救うべく、資産家とお近づきになろうとパーティーに参加していた。  響也は麻衣に、一目で惹かれてしまう。  明るく素直な性格も気に入り、プライベートルームに彼を誘ってみた。  第二性がオメガならば、男性でも出産が可能だ。  しかし麻衣は、恋愛経験のないウブな少年だった。  そして、その初めてを捧げる代わりに、響也と正式に婚約したいと望む。  彼は、早乙女家のもとで働く人々を救いたい一心なのだ。  そんな麻衣の熱意に打たれ、響也は自分の屋敷へ彼を婚約者として迎えることに決めた。  喜び勇んで響也の屋敷へと入った麻衣だったが、厳しい現実が待っていた。  一つ屋根の下に住んでいながら、響也に会うことすらままならないのだ。  ワーカホリックの響也は、これまで婚約した令嬢たちとは、妊娠しやすいタイミングでしか会わないような男だった。  子どもを授からなかったら、別れる運命にある響也と麻衣に、波乱万丈な一年間の幕が上がる。  二人の間に果たして、赤ちゃんはやって来るのか……。

処理中です...