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第2章
赤い髪の女 4
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任務を終え夜も更けた頃、そっとジョウがいる医局へ足を運んだ。
「入っていいか」
「あぁヨウか……待っていたよ」
ジョウは山のような文献を引っ張り出し、何やら必死に調べている。
「王様は少し足を痛がっていたが、俺が寝るまで手を繋いでいたら、すやすやとお休みになったよ」
ジョウは暗い表情をしたまま、書物に目を落としながら呟く。
「そうか……落ち着いて聞け」
「……あぁ」
ジョウの声はどこまでも暗い。覚悟を決めないと……
「……残念ながら王様の病気はとても進行が速い」
やはりそうなのか。昨日まで飛び跳ねて犬と遊んでいた無邪気なお方なのに。まだ12歳になられたばかりの幼い幼い王様なのに……
「教えてくれ! 王様は一体何の病気なのだ?」
ため息をつきながらジョウが答えるのは、希望のない内容だった。
「ふぅ……それがな……残念ながら今は治療法がない。私が過去に診た事例だと、そのうち足だけでなく全身が痛み出し、今足に出来ている腫瘍が躰中に増殖し、それが肺に到達して腫瘤を作り、そのまま息が出来なくなり、亡くなってしまう」
「まさか……そんな!」
半年……そんな!王様はやっと王座に付かれたばかりで、俺が近衛隊になって初めてお護りしたいと心から思える方なのに信じられない。
王様がいなくなる? 父上や母上のおられる黄泉の国へ旅立ってしまうのか。
「助かる方法はないのか。何でもする!」
「残念ながら……今のこの国の医術では無理だ」
「そんなの信じない!助かるためなら何でもする。どんなまじないでも!」
「……まじない?ヨウがそんなこと言うなんて珍しいな」
「王様は俺のこと、兄の様に慕ってくれてるんだ。俺にはもう父も母もいないから、せめて王様だけは守りたい。大切な人なんだよ。肉親のように」
「だが今の医学では手の施しようがない。残念だが……」
「ジョウがそんなこと言うなんて酷いじゃないか!俺は諦めない!」
「落ち着け。もう少し私も調べてみる」
****
俯いて肩を震わすヨウは傷ついてあの告白をした夜のように儚げで、その震える肩を抱きしめてやりたくなった。
「ヨウ……ここへ坐れ」
すがるような眼差しと、心細そうな表情。
近衛隊の隊長の面影は今はない。
私の想い人が酷く怯えている。
なんとしてでも手助けしたい!
本心からそう強く思う!
「ヨウ……おいで」
「ジョウっ!うっ……うっ」
ヨウはその言葉に背中を押されたように、私の机の上に置いた手の上に自らの手を重ね、そこに額を付け祈る如く肩を震わせた。私はその肩にそっと手を置いて、背中をゆっくりと撫でてやる。
「ヨウ……これは言おうか言うまいか迷っていたのだが、この書簡を見てもらえないか。ここに気になることが書いてあるのだ。役に立つか確信はないことだが……」
私は先ほど届いたばかりの地方の役人からの書簡を、机に広げた。
「入っていいか」
「あぁヨウか……待っていたよ」
ジョウは山のような文献を引っ張り出し、何やら必死に調べている。
「王様は少し足を痛がっていたが、俺が寝るまで手を繋いでいたら、すやすやとお休みになったよ」
ジョウは暗い表情をしたまま、書物に目を落としながら呟く。
「そうか……落ち着いて聞け」
「……あぁ」
ジョウの声はどこまでも暗い。覚悟を決めないと……
「……残念ながら王様の病気はとても進行が速い」
やはりそうなのか。昨日まで飛び跳ねて犬と遊んでいた無邪気なお方なのに。まだ12歳になられたばかりの幼い幼い王様なのに……
「教えてくれ! 王様は一体何の病気なのだ?」
ため息をつきながらジョウが答えるのは、希望のない内容だった。
「ふぅ……それがな……残念ながら今は治療法がない。私が過去に診た事例だと、そのうち足だけでなく全身が痛み出し、今足に出来ている腫瘍が躰中に増殖し、それが肺に到達して腫瘤を作り、そのまま息が出来なくなり、亡くなってしまう」
「まさか……そんな!」
半年……そんな!王様はやっと王座に付かれたばかりで、俺が近衛隊になって初めてお護りしたいと心から思える方なのに信じられない。
王様がいなくなる? 父上や母上のおられる黄泉の国へ旅立ってしまうのか。
「助かる方法はないのか。何でもする!」
「残念ながら……今のこの国の医術では無理だ」
「そんなの信じない!助かるためなら何でもする。どんなまじないでも!」
「……まじない?ヨウがそんなこと言うなんて珍しいな」
「王様は俺のこと、兄の様に慕ってくれてるんだ。俺にはもう父も母もいないから、せめて王様だけは守りたい。大切な人なんだよ。肉親のように」
「だが今の医学では手の施しようがない。残念だが……」
「ジョウがそんなこと言うなんて酷いじゃないか!俺は諦めない!」
「落ち着け。もう少し私も調べてみる」
****
俯いて肩を震わすヨウは傷ついてあの告白をした夜のように儚げで、その震える肩を抱きしめてやりたくなった。
「ヨウ……ここへ坐れ」
すがるような眼差しと、心細そうな表情。
近衛隊の隊長の面影は今はない。
私の想い人が酷く怯えている。
なんとしてでも手助けしたい!
本心からそう強く思う!
「ヨウ……おいで」
「ジョウっ!うっ……うっ」
ヨウはその言葉に背中を押されたように、私の机の上に置いた手の上に自らの手を重ね、そこに額を付け祈る如く肩を震わせた。私はその肩にそっと手を置いて、背中をゆっくりと撫でてやる。
「ヨウ……これは言おうか言うまいか迷っていたのだが、この書簡を見てもらえないか。ここに気になることが書いてあるのだ。役に立つか確信はないことだが……」
私は先ほど届いたばかりの地方の役人からの書簡を、机に広げた。
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