悲しい月(改訂版)

志生帆 海

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第1章

春の虹 ~重なる月・5~

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 私は横たわるヨウの日焼けしていない白い躰を、後ろから優しく包み込んだ。その表情を見ようと顔をこちらに向かせると目元に涙が滲んでいた。

「ヨウすまなかった。痛かったか……辛かったか。私は我慢できず君を傷つけてしまったのだな」

 焦ってそう尋ねると、ヨウは小さく首を横に振った。

「……違うのだ。お前は暖かかった。優しかった。俺は心地良かった。幸せだった。ただ……その幸せを素直に喜べない自分がいることに気がついてしまったのだ。」

「一体なぜそんな風に思う?」

「ジョウ……やはりお前とは、何も起こる前に出逢いたかったよ。俺が汚れる前に穢れなき俺の躰を見て、抱いて欲しかった。ただそれだけが悔しくて……悔しくて。俺は飼いならされていただろう? 汚かったろう…… こんな俺をあんなにも優しく抱いてくれて悪かったな」

 そう言い終えると、ヨウの目から頬へ涙が一筋流れ落ちた。私はその涙を追いかけるようにそっと口で吸い取り、耳元で囁いてやった。

「ヨウ、首にかけた指輪を見てくれ。これをかけた時ヨウは一度綺麗に浄化されたのだ。私を迎え入れる初めての躰になったのだよ。だからこれからも、ずっと身に付け、私とヨウが共に行きていく証にしよう」

 私が胸にそっと抱きしめると、ヨウは躊躇いがちに私の背中に手を回し、まるで縋るように肌を寄せてきた。

「あぁ……やはりお前は温かいな」
「安心して休め、ずっと傍にいるから」

 私はすぐにでもヨウをまた抱きたいという逸る気持ちを心の奥に隠し、眠りにつく大切な想い人の姿を見守った。

****

「ジョウ、外を見てくれ」

 ヨウの静かな落ち着いた声で目覚めた。窓の外に目をやると、春なのに珍しく大きな虹が空に弧を描いていた。

「珍しいな。春の虹なんて」

「あぁ滅多に見れないそうだ。お前と共に迎えた朝、こんなものを見れるとはな」

 その穏やかな微笑みにつられて、私も微笑んだ。

「次にふたりで見られるのはいつだろうか。流れ星のように何か願いごとをしたくなるな」

 何気なく返答すると、ヨウは少し寂しげな表情を浮かべた。

「俺は今度生まれ変わったら、またお前と一緒にこんな風に虹を見たい。その時の俺は、お前が初めての相手でありたい。そう願っていたのだ。」

「ヨウ……」

 いつまでも消せない辛い過去を引きずっている君から、すべてを消し去ってあげたい。必死に生きてきた君の心を、今日からは私の想いで満たしていけるよう、ずっと一緒にいたい。

 いつかこの人生が果てても、生まれ変わり、いつの世でも君を癒し、結びつく存在になりたい。

 春の虹のもと、私はそう切に願った。



『悲しい月』第1章・了



****

 こんにちは!この物語を書いている志生帆 海です。いつも読んで下さって、ありがとうございます。過去のジョウとヨウもやっと結ばれ穏やかな朝を迎えました。ここで第一部は終了です。

『重なる月 』 虹の彼方 2で、洋がいつか見たような気がすると言った虹はこのシーンでした。

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