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第1章
春の虹 〜ジョウの想い〜
しおりを挟む私の方から、求め合っていた唇をそっと外した。
「えっ」
一瞬ヨウは「何故?」という表情を浮かべたが、すぐに顔を背け 「ジョウ……またな」と言い捨て、踵を返し去っていった。
いつもなら、もう一度振り返り微笑んでくれるのに、そのまま急ぎ足で去って行った。
果たしてあれで良かったのか。自問自答しながら先ほどまで二人で過ごしていた部屋に戻ると、共に読んだ異国の本が風に捲れ、パラパラと音を立てていた。
「ヨウ……」
ヨウの温もり、息づかいをまだそこに感じ、あのまま行かせてしまったことをやはり後悔した。
一人壁にもたれ、部屋に差し込む月明かりを頼りに夜空を見上げる。 ひんやりとした月光を浴びていると、すべては月にはお見通しかとさえ思えてくる。
そうなのだ。医師としての私が邪魔をして、ヨウを欲望のままに抱けないのだ。本当はヨウを今すぐにでも抱きたいのは、私の方だ。心から治療したいなんて言ってしまったから……なし崩し的にそのままヨウを抱いてはいけないような気がして、それが私の心を抑制してしまう。
お陰でこんなに苦しい夜を今宵も過ごさなくてはいけない。
眼を閉じて、想像する。
ヨウの着ている衣を、私の手で一枚一枚脱がし、身体を重ね温もりを分かち合い、秘めたる入り口に潜り込む。
君と一つに溶け合いたい。
ヨウの身体も心もすべて一緒に私の中に取り込んでしまいたい。そして、ヨウの抱えている恐れの全てを優しく包んであげたい。
ヨウが背負った暗く忌々しい過去も、今もこれから先の毎日も、すべて私と分かち合いたい。
想いを巡らせていると、下半身から熱いものがこみ上げ体の一部が熱く固くなっていることに気がついた。
「ふっ参ったな。私がこんなになるとは……」
私は少しばかり自嘲気味に微笑み、自らの手でそれを握り扱き始めた。精神を鍛錬している医官であるのというのに、ヨウのことを想うとこの有様だ。
先ほどの甘い吐息の交じったヨウの温かい唇の感触を思い出し、更にその先にしたかったことを思い描きながら、動かす手元に集中していく。
私に全てを委ね、私の中で悶えるヨウの姿が脳裏に浮かんでは消えていく。
「うっ……あぁ……はぁっ」
白い月光が射し込むこの部屋で、私は独り、ヨウの幻を抱いた。
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