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月の章
永遠の契り 2
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「聞いてくれ。俺は今上帝と月夜の更衣との間に生まれた皇子で、三歳の時に母が病で亡くなった後、実家の後援がないことと、俺が帝位につけば国は乱れると高麗人に予言されたこともあり、臣籍降下させられた。これは……皆が知っている事実だ」
「あぁ知っている。それでも尚、帝の寵愛を一身に浴びているとも」
「そうだな……だが俺は、帝を父に持ちながら、幼い頃からどこか寂しく哀しい気持ちを抱いて生きてきた。~光る君~ 幼少の頃はそう呼ばれ、それなりに幸せで輝かしい日々も送っていたが、十五歳の春、父である帝と久しぶりに対面してから、人生が一転してしまった。そんな俺の暗く恐ろしい過去を、君に話してもいいか……」
「あぁ……何を聴いても私は洋月、君の傍にいるから怖がらずに話してくれ」
「……」
君と契りを交わすために、触れたくない思い出したくもない過去を告白する決意をした。
言わないで隠し通せるのなら、そうしたかった。だがその反面……どこかで俺が受けた仕打ちをすべて話せる、頼れる相手が欲しかったのかもしれない。
「俺は父である帝に……十五歳で抱かれた。女のように無理矢理犯された」
「何だと!」
苦虫を噛み潰したような苦渋の表情で、丈の中将が俺を見つめている。告白の重さに躰が震えるが、歯を食いしばり話を続けた。
「それから呼び出される度に抱かれ続けた、逆らえなかった。帝の命令は絶対だろう」
「信じられない。だって……実の親だろう」
「ふっ……俺も昨日まではそう思っていたよ。どこかで拒み切れなかったのは、母を失ったやり場のない喪失感と愛情を俺にぶつけていると思っていたから。母に瓜二つの顔でこの世に生を受けた息子として、これが唯一父の空虚な心を慰める術なのかもしれない。そんな歪んだ判断が……俺の心をいつも鈍らせていた」
「そんな」
「驚いただろう?ところが俺は帝の息子ではないそうだ。母が帝のもとへ入内した時には、すでにお腹に宿っていた他の男との子だそうだ」
「なんと……」
「だから俺は帝の血縁でもない、縁もゆかりもない、どこの馬の骨かもわからぬ父を持つ人間だ。丈の中将……君は俺が汚れていない。穢れていないといってくれるが、俺は最初から穢れた血を持ってこの世に生を宿したのだよ。だから君に想ってもらう資格なんて欠片もないつまらない人間だったのだ」
投げやりに言い放つと……
パシッ──
突然、丈の中将に頬を叩かれた。
「そんなことは、もう二度と言うな! そんなに自分を卑下するな! 洋月は私にとって、大切な人だ。代わりなんていない! 今、私の腕の中で震え、言いたくない過去を話してくれた洋月のことだけを想っている! 君はとても綺麗なんだ、心も躰も……ずっと探していた。君のことを」
「うっ……」
そんなに優しくしないでくれ。汚れきった躰なのに、疼き出してしまうじゃないか。俺と関わってはいけない。突き放さないといけないと思うのに、俺は君に縋りつくように抱かれたくなってしまうよ。
「……君を想っても許されるのだろうか。こんな俺でも……」
「当たり前だ! ありのままの君を想ってる! もう一人で苦しむな、いつもいつも心配だった。疲れた表情、傷ついた躰、謎だらけだった洋月のことが。やっと今その謎が解けたよ。辛かったろう。一人で抱え込むな。もう……」
丈の中将の眼から、澄んだ水滴がぽたぽたと俺の顔に落ちてくる。
君は……泣いてくれるのか。
勿体ないよ……俺なんかのために。
俺は君に何もしてあげれない。
迷惑をかけてしまうかもしれないのに。
「あぁ知っている。それでも尚、帝の寵愛を一身に浴びているとも」
「そうだな……だが俺は、帝を父に持ちながら、幼い頃からどこか寂しく哀しい気持ちを抱いて生きてきた。~光る君~ 幼少の頃はそう呼ばれ、それなりに幸せで輝かしい日々も送っていたが、十五歳の春、父である帝と久しぶりに対面してから、人生が一転してしまった。そんな俺の暗く恐ろしい過去を、君に話してもいいか……」
「あぁ……何を聴いても私は洋月、君の傍にいるから怖がらずに話してくれ」
「……」
君と契りを交わすために、触れたくない思い出したくもない過去を告白する決意をした。
言わないで隠し通せるのなら、そうしたかった。だがその反面……どこかで俺が受けた仕打ちをすべて話せる、頼れる相手が欲しかったのかもしれない。
「俺は父である帝に……十五歳で抱かれた。女のように無理矢理犯された」
「何だと!」
苦虫を噛み潰したような苦渋の表情で、丈の中将が俺を見つめている。告白の重さに躰が震えるが、歯を食いしばり話を続けた。
「それから呼び出される度に抱かれ続けた、逆らえなかった。帝の命令は絶対だろう」
「信じられない。だって……実の親だろう」
「ふっ……俺も昨日まではそう思っていたよ。どこかで拒み切れなかったのは、母を失ったやり場のない喪失感と愛情を俺にぶつけていると思っていたから。母に瓜二つの顔でこの世に生を受けた息子として、これが唯一父の空虚な心を慰める術なのかもしれない。そんな歪んだ判断が……俺の心をいつも鈍らせていた」
「そんな」
「驚いただろう?ところが俺は帝の息子ではないそうだ。母が帝のもとへ入内した時には、すでにお腹に宿っていた他の男との子だそうだ」
「なんと……」
「だから俺は帝の血縁でもない、縁もゆかりもない、どこの馬の骨かもわからぬ父を持つ人間だ。丈の中将……君は俺が汚れていない。穢れていないといってくれるが、俺は最初から穢れた血を持ってこの世に生を宿したのだよ。だから君に想ってもらう資格なんて欠片もないつまらない人間だったのだ」
投げやりに言い放つと……
パシッ──
突然、丈の中将に頬を叩かれた。
「そんなことは、もう二度と言うな! そんなに自分を卑下するな! 洋月は私にとって、大切な人だ。代わりなんていない! 今、私の腕の中で震え、言いたくない過去を話してくれた洋月のことだけを想っている! 君はとても綺麗なんだ、心も躰も……ずっと探していた。君のことを」
「うっ……」
そんなに優しくしないでくれ。汚れきった躰なのに、疼き出してしまうじゃないか。俺と関わってはいけない。突き放さないといけないと思うのに、俺は君に縋りつくように抱かれたくなってしまうよ。
「……君を想っても許されるのだろうか。こんな俺でも……」
「当たり前だ! ありのままの君を想ってる! もう一人で苦しむな、いつもいつも心配だった。疲れた表情、傷ついた躰、謎だらけだった洋月のことが。やっと今その謎が解けたよ。辛かったろう。一人で抱え込むな。もう……」
丈の中将の眼から、澄んだ水滴がぽたぽたと俺の顔に落ちてくる。
君は……泣いてくれるのか。
勿体ないよ……俺なんかのために。
俺は君に何もしてあげれない。
迷惑をかけてしまうかもしれないのに。
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