上 下
120 / 236
色は匂へど……

光の世界 1

しおりを挟む
前置き

本日から暫く書き下ろしていきます。
以前端折ってしまった……
視力が回復した翠と流の日々を描いていきます。
1日1000文字程度でコンスタントに更新予定です。
宜しくお願いします。




****



「兄さん、そろそろ帰るか。俺たちの月影寺へ」
「うん、帰りたい」

 つい、いつもの癖で兄さんの手を握りしめてしまった。

 しまった!

 もう兄さんは目が見えるのだから、手を繋いでの誘導は必要ないのに……

「ご、ごめん!」
「……いや、そのままでいい」
「だが……」
「そうしてくれ、いや、そうして欲しい」

 誰もいない海だ。

 他人の視線は気にならない。

 兄さんがいいと言えば、それが全てだ!

「流、今日からまた宜しくな」
「あぁ、二人三脚でやっていこう。だから一刻も早く月影寺の僧侶に戻ってくれよ」
「それは父さんと話してみてからだ」
「分かった。とにかく早く帰ろう。母さんも喜ぶぞ」
「うん……僕も会いたいよ」

 手早くチェックアウトをして、翠を車に押し込めた。

 翠の目が見えるようになったら、身体に気軽に触れられる日々はお終いだ。

 また元のように手が届かない人になってしまう。

 そう思い込んでいたが、何かが少しだけ違うようだ。

 兄さん……

 もしかして、わざと少し隙を見せてくれているのか。

 俺が入り込む余地を――

 俺の勘違いじゃなかったらいい。

 そうだったら嬉しい。

「さぁ、シートベルトをして」
「うん」

 兄さんは自分では締めず、前のように俺を待っていた。

「よし、出発するぞ」

 やっぱり癖で行動の一部始終を説明してしまう。

 兄さんはそんな俺を鬱陶しく思うのではなく、快く思ってくれているようだ。

 俺に話しかけられるのが、心底嬉しそうな顔をして――

 車を走らせると、兄さんは助手席から車窓の景色を見つめていた。

「景色が見えるのは何ヶ月ぶりだろう。あれから随分……時間が過ぎてしまったな」

 午後の太陽は眩しかった。

「おい、あまり外の光を見つめない方がいい。視力が回復したからといって、いきなり目を遣い過ぎたら疲れちまう。ちゃんと病院に行ってから、おいおいにしろ」
「……そうだね。そうするよ」

 兄さんはそのまま静かになった。

 もともと寡黙な人だ。

 でもその静寂は心地良いものだ。

 暫くすると……兄さんが今度は俺を見つめ出した。

 じっと穴が開くほど見ている。

 運転に集中していても感じる、兄さんの優しい視線。

 我慢出来ずに聞いてしまった。

「どうして、そんなに俺を見つめる?」
「……うん、流が外の光は駄目だと言うから、僕の光を見ているんだ。駄目かな?」

 う……僕の光?

 それって、俺のことなのか

 兄さんは、俺を悶えさす天才だ!


「駄目じゃない!」(駄目なはずあるか、もっともっと俺を見ろ!)
「ふぅ、良かった。この光は……見慣れているから落ち着くんだ」

 くぅ、最高だ!


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

弟の可愛さに気づくまで

Sara
BL
弟に夜這いされて戸惑いながらも何だかんだ受け入れていくお兄ちゃん❤︎が描きたくて…

処理中です...