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忍ぶれど……
枯れゆけば 4
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最初は浮かれていた。
兄さんの高校生活を垣間見れる事に、ひしひしと喜びを感じていた。
そもそも兄さんの通う学校は閉鎖的で、なかなか外部の人間が入れる場所ではない。今までは自宅から遠かったのもあり、足を踏み入れたいと思うことはなかった。だが鎌倉に引っ越して来て、歩いて行ける距離に兄さんの通う学校があるとなると、見たい、知りたい欲求は、日増しに強くなってしまった。
まして今の俺には同級生の克哉の兄さんと、いつも仲良さそうに肩を並べて登校する後姿しか見られないから猶更だ。
ところが最初は嬉しさで満ちていたのに、冷静になってくると疑問が湧いて来た。
克哉からもらったチケットは家族用のものだった。待てよ、そもそも、なんで俺は翠兄さんから直に誘われていないのか。おかしいじゃないか。家族用のチケットの話なんて一言も聞いてない。
そう思うと、さっきまでの日差しを浴びたようにウキウキとしていた心が、急に縮こまってしまった。
兄さんは高校に入ってから変わったような気がする。それとも俺が変わったから、そう感じるだけなのだろうか。
疑問は疑問しか生んでくれない、こんな気持ち兄さんに向けたくないのに。
下校して時計を見ると兄さんも帰宅する時刻だったので、そのまま玄関先にもたれて帰りを待った。
そうだ、兄さんに直に聞いてみよう!
うじうじ悩むなんて、俺らしくない。
うん、それがいい。
ところが俺の問いに、帰宅した兄さんは気まずそうに言葉を詰まらせてしまった。
「流、どうしても……来たいの?」
その言葉に激しく傷ついた。
それってさ、つまり俺に来て欲しくないってことなのか。いつだって俺を気にかけてくれた兄さんにそんな風に思われたことに悲しみを通り越した怒りを抱いてしまった。
「何でだよ? 行っちゃ駄目なのか! もしかして俺に来て欲しくないのか」
怒鳴るように問うと、兄さんは目を泳がせた。
「そ……そんなことない。ただ……その」
「くそっ! もういいよ。兄さんは自分の楽しい高校生活を俺なんかに覗かれたくないんだな! あー 分かったよ、行かない! 絶対行くもんかっ!」
埒が明かない返答にいよいよ冷静ではいられなくなり、俺はまた寺の庭へと駆け出していた。
こんなキツい言葉を使うつもりはなかったのに、最低だ。
俺はバカだ。
心がパンクしそうになると、俺はいつも寺の奥庭へ、まっしぐらに走った。
俺にとってこの庭は、翠兄さんそのものだ!
庭の深く透き通った碧。
包み込まれるようなしっとりと苔生した大地。
覆いかぶさるような竹林。
翠兄さんの色だ!
翠兄さんの香りだ!
「あー くそっ! カッコ悪い!」
手に入らないものを強請る子供みたいで、気性の激しい自分が嫌になる。
それでも兄さんを独り占めしたい気持ちが、歳を重ねるごとに強くなる。
早く兄さんに追いつきたい。
早く追い越したい。
そして兄さんを俺だけのものにしたい。
そこまで一気に頭の中で想像して、はっとした。
俺、一体どうしちゃったんだよ?
兄さんは、俺の実の兄なのに、なんでこんな風に思うんだ?
奥庭の苔の上に、うつ伏せに寝そべった。
無性に喚きたい気分だ。
何もかも吐き出したいよ、胸が苦しい。
「くぅ……うっ…」
その時、ふわっと背中を優しく撫でてくれる手を感じた。
この手の持ち主を俺は知っている。
いつだって俺の味方で優しく触れてくれる人。
大好きな兄さんだ。
「……兄さん」
「流……ごめんね。僕、流を傷つけてしまったね、許して……どうか許しておくれ……」
兄さんの高校生活を垣間見れる事に、ひしひしと喜びを感じていた。
そもそも兄さんの通う学校は閉鎖的で、なかなか外部の人間が入れる場所ではない。今までは自宅から遠かったのもあり、足を踏み入れたいと思うことはなかった。だが鎌倉に引っ越して来て、歩いて行ける距離に兄さんの通う学校があるとなると、見たい、知りたい欲求は、日増しに強くなってしまった。
まして今の俺には同級生の克哉の兄さんと、いつも仲良さそうに肩を並べて登校する後姿しか見られないから猶更だ。
ところが最初は嬉しさで満ちていたのに、冷静になってくると疑問が湧いて来た。
克哉からもらったチケットは家族用のものだった。待てよ、そもそも、なんで俺は翠兄さんから直に誘われていないのか。おかしいじゃないか。家族用のチケットの話なんて一言も聞いてない。
そう思うと、さっきまでの日差しを浴びたようにウキウキとしていた心が、急に縮こまってしまった。
兄さんは高校に入ってから変わったような気がする。それとも俺が変わったから、そう感じるだけなのだろうか。
疑問は疑問しか生んでくれない、こんな気持ち兄さんに向けたくないのに。
下校して時計を見ると兄さんも帰宅する時刻だったので、そのまま玄関先にもたれて帰りを待った。
そうだ、兄さんに直に聞いてみよう!
うじうじ悩むなんて、俺らしくない。
うん、それがいい。
ところが俺の問いに、帰宅した兄さんは気まずそうに言葉を詰まらせてしまった。
「流、どうしても……来たいの?」
その言葉に激しく傷ついた。
それってさ、つまり俺に来て欲しくないってことなのか。いつだって俺を気にかけてくれた兄さんにそんな風に思われたことに悲しみを通り越した怒りを抱いてしまった。
「何でだよ? 行っちゃ駄目なのか! もしかして俺に来て欲しくないのか」
怒鳴るように問うと、兄さんは目を泳がせた。
「そ……そんなことない。ただ……その」
「くそっ! もういいよ。兄さんは自分の楽しい高校生活を俺なんかに覗かれたくないんだな! あー 分かったよ、行かない! 絶対行くもんかっ!」
埒が明かない返答にいよいよ冷静ではいられなくなり、俺はまた寺の庭へと駆け出していた。
こんなキツい言葉を使うつもりはなかったのに、最低だ。
俺はバカだ。
心がパンクしそうになると、俺はいつも寺の奥庭へ、まっしぐらに走った。
俺にとってこの庭は、翠兄さんそのものだ!
庭の深く透き通った碧。
包み込まれるようなしっとりと苔生した大地。
覆いかぶさるような竹林。
翠兄さんの色だ!
翠兄さんの香りだ!
「あー くそっ! カッコ悪い!」
手に入らないものを強請る子供みたいで、気性の激しい自分が嫌になる。
それでも兄さんを独り占めしたい気持ちが、歳を重ねるごとに強くなる。
早く兄さんに追いつきたい。
早く追い越したい。
そして兄さんを俺だけのものにしたい。
そこまで一気に頭の中で想像して、はっとした。
俺、一体どうしちゃったんだよ?
兄さんは、俺の実の兄なのに、なんでこんな風に思うんだ?
奥庭の苔の上に、うつ伏せに寝そべった。
無性に喚きたい気分だ。
何もかも吐き出したいよ、胸が苦しい。
「くぅ……うっ…」
その時、ふわっと背中を優しく撫でてくれる手を感じた。
この手の持ち主を俺は知っている。
いつだって俺の味方で優しく触れてくれる人。
大好きな兄さんだ。
「……兄さん」
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