1,727 / 1,730
小学生編
マイ・リトル・スター 32
しおりを挟む
「潤、そろそろ行くよ」
「あぁ、今日はキャンプだったよな」
「そうなんだ。星が見える丘に行ってくるよ」
「綺麗に見えるといいな。気をつけて」
「うん、潤たちの家族のお城を見せてくれてありがとう」
そう告げると、潤は明るく笑ってくれた。
「オレたち『家族の城』か! その表現、兄さんらしくていいな」
「そうかな?」
「兄さん、オレ……頑張ったよ」
潤が素直に甘えてくれるのが擽ったくも、嬉しい。
「うん、潤はよく頑張った」
「へへっ」
一点の曇りもない笑顔。
僕の弟の笑顔は、青空のように爽快だ。
「じゅーん、いつも応援しているよ。離れていても僕たちは兄弟だ。広樹兄さんも一緒に兄弟だよ」
これは、昔だったら絶対に言えない台詞だ。ずっと広樹兄さんと潤の間に割り込んでしまったと負い目を感じていたから。
「兄さん、ありがとう!」
「こちらこそだよ」
「えぇ、もうかえっちゃうの?」
別れ際、いっくんは芽生くんと離れるのが寂しそうだった。
明らかにしょんぼりとした表情を浮かべている。
それに潤がいち早く気付いたようだ。
「いっくん、別れは寂しいよな」
「しょうなの……」
「いっくん、ボクもさみしいよ」
「めーくんも?」
「そうだよ、いっくんと同じ気持ちだよ」
芽生くんも同調する。
こういう所は宗吾さんそっくりで男前だ。
「なるほど! 二人とも寂しいのは、二人がすごく仲良しってことだな。また会えるさ。何度でも会える。会いに行ったり会いに来てもらったりすればいいから簡単だよ」
いいね。
諭したり宥めたりでなく、とても自然な流れで説得力があるよ。
いつの間にか潤は、宗吾さんのような大きな包容力を身につけたようだ。
「しょっか、じゃあ、またいっくんとあそんでね」
「うん! うん! もちろんだよ。約束しよう」
「うん」
二人は大の仲良し。
血の繋がりなどなくとも、心の繋がりで兄弟になれる。
それを僕に教えてくれる。
この別れは、永遠の別れではない。
僕もそう思うよ。
「よし、じゃあ出発するぞ」
「はい」
僕たちの車が見えなくなるまで、潤たちは手を振ってくれた。
名残惜しいな。
角を曲がると、僕も感傷的になってしまった。
いつも楽しいことはあっという間に過ぎてしまう。
あの日も……あの時も。
だが、こんな時はいつも宗吾さんが上手に気分転換してくれる。
とっておきの気分転換の方法を知っている人だから。
明るいBGMをさり気なく流し、余韻に浸らせてくれる。
そっと窓を開けて、新鮮な風を入れてくれる。
心が軽くなる言葉の魔法をかけてくれる。
「瑞樹、芽生、よーし、今日も楽しむぞ」
「はい」
「うん!」
「芽生、ちゃたちゃたも元気か」
「うん、ここでボクと空を見ているよ」
「今夜は、ちゃたちゃたに星空も見せてやろう」
「わぁい」
後部座席で屈託のない笑顔を浮かべる芽生くんは、今日で10歳だ。
生まれた時刻に満天の星を見上げてお祝いしようという宗吾さんの企画に、密かに僕の胸も高鳴っている。
僕の生まれ故郷も星が綺麗に見えたので、誕生日の夜は、お父さんと星空ピクニックをした。色んな星の名前を教えてもらったよ。
今住んでいる東京は物が溢れて便利だが星が殆ど見えないので、時折息苦しくなる。
だから今回、芽生くんが星を見たいと言ってくれて、本当に嬉しかった。
もしかしたら芽生くんと同じくらい、いや、それ以上に僕も期待しているのかもしれないね。
今宵――
満天の星空を、宗吾さんと芽生くんと眺めよう。
僕のお気に入りの星座を教えてあげよう。
もしかしたら流れ星が見えるかも?
その時は、お願い事をしよう。
ずっとずっと一緒にいられますように――
きっと今宵は忘れられない夜になるだろう。
「あぁ、今日はキャンプだったよな」
「そうなんだ。星が見える丘に行ってくるよ」
「綺麗に見えるといいな。気をつけて」
「うん、潤たちの家族のお城を見せてくれてありがとう」
そう告げると、潤は明るく笑ってくれた。
「オレたち『家族の城』か! その表現、兄さんらしくていいな」
「そうかな?」
「兄さん、オレ……頑張ったよ」
潤が素直に甘えてくれるのが擽ったくも、嬉しい。
「うん、潤はよく頑張った」
「へへっ」
一点の曇りもない笑顔。
僕の弟の笑顔は、青空のように爽快だ。
「じゅーん、いつも応援しているよ。離れていても僕たちは兄弟だ。広樹兄さんも一緒に兄弟だよ」
これは、昔だったら絶対に言えない台詞だ。ずっと広樹兄さんと潤の間に割り込んでしまったと負い目を感じていたから。
「兄さん、ありがとう!」
「こちらこそだよ」
「えぇ、もうかえっちゃうの?」
別れ際、いっくんは芽生くんと離れるのが寂しそうだった。
明らかにしょんぼりとした表情を浮かべている。
それに潤がいち早く気付いたようだ。
「いっくん、別れは寂しいよな」
「しょうなの……」
「いっくん、ボクもさみしいよ」
「めーくんも?」
「そうだよ、いっくんと同じ気持ちだよ」
芽生くんも同調する。
こういう所は宗吾さんそっくりで男前だ。
「なるほど! 二人とも寂しいのは、二人がすごく仲良しってことだな。また会えるさ。何度でも会える。会いに行ったり会いに来てもらったりすればいいから簡単だよ」
いいね。
諭したり宥めたりでなく、とても自然な流れで説得力があるよ。
いつの間にか潤は、宗吾さんのような大きな包容力を身につけたようだ。
「しょっか、じゃあ、またいっくんとあそんでね」
「うん! うん! もちろんだよ。約束しよう」
「うん」
二人は大の仲良し。
血の繋がりなどなくとも、心の繋がりで兄弟になれる。
それを僕に教えてくれる。
この別れは、永遠の別れではない。
僕もそう思うよ。
「よし、じゃあ出発するぞ」
「はい」
僕たちの車が見えなくなるまで、潤たちは手を振ってくれた。
名残惜しいな。
角を曲がると、僕も感傷的になってしまった。
いつも楽しいことはあっという間に過ぎてしまう。
あの日も……あの時も。
だが、こんな時はいつも宗吾さんが上手に気分転換してくれる。
とっておきの気分転換の方法を知っている人だから。
明るいBGMをさり気なく流し、余韻に浸らせてくれる。
そっと窓を開けて、新鮮な風を入れてくれる。
心が軽くなる言葉の魔法をかけてくれる。
「瑞樹、芽生、よーし、今日も楽しむぞ」
「はい」
「うん!」
「芽生、ちゃたちゃたも元気か」
「うん、ここでボクと空を見ているよ」
「今夜は、ちゃたちゃたに星空も見せてやろう」
「わぁい」
後部座席で屈託のない笑顔を浮かべる芽生くんは、今日で10歳だ。
生まれた時刻に満天の星を見上げてお祝いしようという宗吾さんの企画に、密かに僕の胸も高鳴っている。
僕の生まれ故郷も星が綺麗に見えたので、誕生日の夜は、お父さんと星空ピクニックをした。色んな星の名前を教えてもらったよ。
今住んでいる東京は物が溢れて便利だが星が殆ど見えないので、時折息苦しくなる。
だから今回、芽生くんが星を見たいと言ってくれて、本当に嬉しかった。
もしかしたら芽生くんと同じくらい、いや、それ以上に僕も期待しているのかもしれないね。
今宵――
満天の星空を、宗吾さんと芽生くんと眺めよう。
僕のお気に入りの星座を教えてあげよう。
もしかしたら流れ星が見えるかも?
その時は、お願い事をしよう。
ずっとずっと一緒にいられますように――
きっと今宵は忘れられない夜になるだろう。
63
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる