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小学生編
マイ・リトル・スター 31
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瑞樹を背負うのは、久しぶりだ。
出逢った頃、何度かこんなシーンがあった。
君はいつも儚げで弱々しく庇護欲に搔き立てられる存在だった。
そんな君が巻き込まれたあの恐ろしい事件。
ただでさえ10歳で両親と弟と死別した経験があるので、本当に心配だった。
君の心が壊れてしまわないか危惧したが、君はここまで立ち直った。
周りのサポートもあったが、最終的に立ち上がったのは君自身の力だ。
今、俺が背負っているのは、以前より健康的になったしなやかな身体。
そのことに嬉しくなる。
今の君は『瑞樹』という名前通りに、瑞々しく輝く若葉のよう。
新緑の森を君を背負いながら歩いていると、そっと俺の背中に甘えるように頬を触れてくれた。
柔らかい温もりに、愛おしさが駆け上がる。
薫風と共に舞い上がる。
「僕たちはずっと一緒ですか」
「あぁ、どこまでも一緒だ」
*****
しまった。
気が緩んで、うっかり口にしてしまった。
まるで小さな子供のように愛を確かめるようなことを。
両親と弟とずっと一緒にいられなかった僕は、いつも幸せ臆病だった。
宗吾さんはそんな僕を支えてくれる人。
こんな僕に、寄り添ってくれる人。
「だから、安心しろ」
「はい」
逞しい背中に、愛おしさがこみ上げてきた。
潤の家に戻ると、菫さんがタオルで手と顔を拭いてくれた。
「すみません」
「まぁ、派手に転んだのねぇ、綺麗な顔が台無しよ」
「え、自分で出来ます」
「いいの、私がしたいのよ」
「えぇっ」
ゴシゴシと顔を拭かれて、目を丸くした。
ふっ……今日の僕はされるがままだな。
でも……今日はまるで子供のように、周囲に素直に甘えられる。
「瑞樹、俺はサッカーボールの泥を落としてくるよ」
「あ、お願いします」
「パパ、ボクも手伝うよ」
「助かるよ」
宗吾さんと芽生くんは、再び外に出て行った。
「瑞樹くん、膝も打ったのね。痛くない?」
「大丈夫です」
菫さんは僕を弟扱いする。
菫さんは弟の奥さんなのに、擽ったいな。
「ズボン、ドロドロに汚れちゃったから洗ってあげるわ。えっと何か着替えを……そうだわ、潤くんのを貸してあげて」
すぐに潤がズボンを抱えて戻ってくる。
「了解! 兄さん、オレので悪いが、これでいいか」
「えっと、ありがとう」
ところが潤のGパンは、ウエストがかなり大きくてダボダボだ。丈も長いので足元も捲らないとな。
それにしてもお下がりを着るのは久しぶりで、妙に懐かしい気持ちになる。
広樹兄さんのお下がりも、いつもこんな風に大きかったな。
だから体格差は悔しいけど嬉しかったりもして、頬を緩めていると、潤の声が聞こえた。
「兄さん、どう?」
「えっと……ベルトある?」
「あー そっか、待ってて」
そこにいっくんがトコトコやってきて、僕の足にピタッとくっついた。
くすっ、いっくんはコアラの赤ちゃんみたいで可愛いね。
「みーくん、みーくん、なにちてるのぉ?」
「えっと、パパのズボンを貸してもらって……ベルトを……」
「あれ、しゅこし、おなか……ゆるゆるだよぉ。ママぁー たいへん。ここ、へんでしゅよ」
「え? どうしたの?」
「兄さん、どうかしたのか」
菫さんと潤が慌ててやってきた。
「ここが、ゆるゆるなのー ほらっ」
「え、あっ、ちょっと待って」
あどけない瞳で……いっくんは……
菫さんと潤の目の前で、僕のズボンを下に引っ張った。
いっくんの可愛さに油断していたので、ズボンはそのまま足下へ落下!
「わぁ!」
「きゃぁ!」
「に、兄さん」
僕は慌ててしゃがみ込んだ。
二人にパンツ見られた!
真っ赤になって俯いていると、いっくんが飛んで来た。
そして、なんと!
僕の目の前で、自分のズボンを脱ぎ捨てた。
「みーくん、さむいでちょ、いっくんのズボンはいてぇ」
「え? それはちょっと……」
「だいじょうぶ。あったかいよぅ」
「う、うん」
かわいいフォローに場が一気に和む。
菫さんが苦笑しながら、ブランケットをかけてくれた。
こういうシーン以前もあったような。
「瑞樹くん、ごめんね。これ掛けていて」
「ありがとうございます」
「あのね、瑞樹くん、汚れても大丈夫なのよ。お洗濯したら綺麗に落ちるし、お日様を浴びたら元通りよ」
「あ、はい!」
菫さんの励ましが、心に響く。
ストンと受け止められる。
菫さんって、本当に僕のお姉さんみたいだ。
そのまま足にブランケットを巻き付けて椅子に座っていると、宗吾さんと芽生くんが戻ってきた。
どうやらさっきの惨事を耳にしたようで、苦笑していた。
「瑞樹ぃ、それはそれは災難だったな」
「宗吾さん、はは……月影寺の翠さんの胸中でした」
「あぁ、あれか、あれは悲惨だったな」
「ぷっ」
「笑っちゃ駄目だろう~」
「ですよね、すみません。今度お会いしたら、分かり合えると思います。話していたら無性に翠さんに会いたくなりました」
「また行こう。流にも会いたいし」
「洋くんにもすごく会いたいです」
今の僕には……
もうあの日のような大惨事は起きない。
今の僕に降りかかる災難は、今日みたいな出来事。
生きていくのは怖くない。
そう教えてもらっている。
疲れたら休めばいい。
もたれられる人が、沢山いるのだから。
そのまま、潤の家に泊まった。
いっくんと芽生くんは一緒にお風呂に入り、潤が声色を変えて読み聞かせをし、高速ハイハイをする槙くんを皆で追いかけて、必死に寝付かせて……
ふぅ、寝る直前まで、ドタバタで笑顔が絶えなかったな。
それにしてもお父さんとお母さんと潤でリフォームした家は、居心地が良い。
今日もよく眠れそうだ。
深い眠りは、幸せな証拠。
僕は幸せな夢を見る――
明日に希望を抱きながら。
出逢った頃、何度かこんなシーンがあった。
君はいつも儚げで弱々しく庇護欲に搔き立てられる存在だった。
そんな君が巻き込まれたあの恐ろしい事件。
ただでさえ10歳で両親と弟と死別した経験があるので、本当に心配だった。
君の心が壊れてしまわないか危惧したが、君はここまで立ち直った。
周りのサポートもあったが、最終的に立ち上がったのは君自身の力だ。
今、俺が背負っているのは、以前より健康的になったしなやかな身体。
そのことに嬉しくなる。
今の君は『瑞樹』という名前通りに、瑞々しく輝く若葉のよう。
新緑の森を君を背負いながら歩いていると、そっと俺の背中に甘えるように頬を触れてくれた。
柔らかい温もりに、愛おしさが駆け上がる。
薫風と共に舞い上がる。
「僕たちはずっと一緒ですか」
「あぁ、どこまでも一緒だ」
*****
しまった。
気が緩んで、うっかり口にしてしまった。
まるで小さな子供のように愛を確かめるようなことを。
両親と弟とずっと一緒にいられなかった僕は、いつも幸せ臆病だった。
宗吾さんはそんな僕を支えてくれる人。
こんな僕に、寄り添ってくれる人。
「だから、安心しろ」
「はい」
逞しい背中に、愛おしさがこみ上げてきた。
潤の家に戻ると、菫さんがタオルで手と顔を拭いてくれた。
「すみません」
「まぁ、派手に転んだのねぇ、綺麗な顔が台無しよ」
「え、自分で出来ます」
「いいの、私がしたいのよ」
「えぇっ」
ゴシゴシと顔を拭かれて、目を丸くした。
ふっ……今日の僕はされるがままだな。
でも……今日はまるで子供のように、周囲に素直に甘えられる。
「瑞樹、俺はサッカーボールの泥を落としてくるよ」
「あ、お願いします」
「パパ、ボクも手伝うよ」
「助かるよ」
宗吾さんと芽生くんは、再び外に出て行った。
「瑞樹くん、膝も打ったのね。痛くない?」
「大丈夫です」
菫さんは僕を弟扱いする。
菫さんは弟の奥さんなのに、擽ったいな。
「ズボン、ドロドロに汚れちゃったから洗ってあげるわ。えっと何か着替えを……そうだわ、潤くんのを貸してあげて」
すぐに潤がズボンを抱えて戻ってくる。
「了解! 兄さん、オレので悪いが、これでいいか」
「えっと、ありがとう」
ところが潤のGパンは、ウエストがかなり大きくてダボダボだ。丈も長いので足元も捲らないとな。
それにしてもお下がりを着るのは久しぶりで、妙に懐かしい気持ちになる。
広樹兄さんのお下がりも、いつもこんな風に大きかったな。
だから体格差は悔しいけど嬉しかったりもして、頬を緩めていると、潤の声が聞こえた。
「兄さん、どう?」
「えっと……ベルトある?」
「あー そっか、待ってて」
そこにいっくんがトコトコやってきて、僕の足にピタッとくっついた。
くすっ、いっくんはコアラの赤ちゃんみたいで可愛いね。
「みーくん、みーくん、なにちてるのぉ?」
「えっと、パパのズボンを貸してもらって……ベルトを……」
「あれ、しゅこし、おなか……ゆるゆるだよぉ。ママぁー たいへん。ここ、へんでしゅよ」
「え? どうしたの?」
「兄さん、どうかしたのか」
菫さんと潤が慌ててやってきた。
「ここが、ゆるゆるなのー ほらっ」
「え、あっ、ちょっと待って」
あどけない瞳で……いっくんは……
菫さんと潤の目の前で、僕のズボンを下に引っ張った。
いっくんの可愛さに油断していたので、ズボンはそのまま足下へ落下!
「わぁ!」
「きゃぁ!」
「に、兄さん」
僕は慌ててしゃがみ込んだ。
二人にパンツ見られた!
真っ赤になって俯いていると、いっくんが飛んで来た。
そして、なんと!
僕の目の前で、自分のズボンを脱ぎ捨てた。
「みーくん、さむいでちょ、いっくんのズボンはいてぇ」
「え? それはちょっと……」
「だいじょうぶ。あったかいよぅ」
「う、うん」
かわいいフォローに場が一気に和む。
菫さんが苦笑しながら、ブランケットをかけてくれた。
こういうシーン以前もあったような。
「瑞樹くん、ごめんね。これ掛けていて」
「ありがとうございます」
「あのね、瑞樹くん、汚れても大丈夫なのよ。お洗濯したら綺麗に落ちるし、お日様を浴びたら元通りよ」
「あ、はい!」
菫さんの励ましが、心に響く。
ストンと受け止められる。
菫さんって、本当に僕のお姉さんみたいだ。
そのまま足にブランケットを巻き付けて椅子に座っていると、宗吾さんと芽生くんが戻ってきた。
どうやらさっきの惨事を耳にしたようで、苦笑していた。
「瑞樹ぃ、それはそれは災難だったな」
「宗吾さん、はは……月影寺の翠さんの胸中でした」
「あぁ、あれか、あれは悲惨だったな」
「ぷっ」
「笑っちゃ駄目だろう~」
「ですよね、すみません。今度お会いしたら、分かり合えると思います。話していたら無性に翠さんに会いたくなりました」
「また行こう。流にも会いたいし」
「洋くんにもすごく会いたいです」
今の僕には……
もうあの日のような大惨事は起きない。
今の僕に降りかかる災難は、今日みたいな出来事。
生きていくのは怖くない。
そう教えてもらっている。
疲れたら休めばいい。
もたれられる人が、沢山いるのだから。
そのまま、潤の家に泊まった。
いっくんと芽生くんは一緒にお風呂に入り、潤が声色を変えて読み聞かせをし、高速ハイハイをする槙くんを皆で追いかけて、必死に寝付かせて……
ふぅ、寝る直前まで、ドタバタで笑顔が絶えなかったな。
それにしてもお父さんとお母さんと潤でリフォームした家は、居心地が良い。
今日もよく眠れそうだ。
深い眠りは、幸せな証拠。
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明日に希望を抱きながら。
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