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小学生編
マイ・リトル・スター 13
しおりを挟む僕の目の前に、突然憲吾さんと宗吾さんが現れた。
二人はタイプが真逆だが、息の合った兄弟だ。
僕が困った時に、登場してくれるヒーローだ。
さっきまでの動揺は収まり、心が浮き立っていた。
こんな状況でパッと気持ちを切り替えられるなんて、僕はやっぱり変わってきている。
あぁ――
僕は僕が好きだ。
今の僕が大好きだ。
「さぁ、乗りなさい。瑞樹が困っていると思ったから駆けつけたのだ」
「憲吾さん、助かりました」
「うむ」
憲吾さんが、こそばゆい笑顔を見せてくれる。
最初に会った時は、研ぎ澄まされた空気に緊張し、威圧感に蹴落とされそうになったのに、今は人間味があって優しい人だと心から思える。
「よし、乗せるぞ」
酔い潰れた木下を大河さんが軽々と抱き上げて、後部座席にドスンと置いたが、起きなかった。
相変わらず、高いびきをかいている。
背後で大河さんと蓮さんの会話が聞こえる。
「よく寝てるな。蓮はどんだけ飲ませたんだ?」
「いや、度数の低い酒しか出さなかったさ。俺にはすぐ分かったからね。彼は酒を飲む人ではなく牛乳を飲む人だと。だから、きっと今宵は心地よい時間に酔ったのだろう」
なるほど……
蓮さんという人は、人を見る目があるんだな。
「なるほど、安心できる人と飲むと、酒が心地よく回って、そういうこともあるよな」
「……そういえば、昔……俺もよく呼び出されたよ」
「誰に?」
「……に」
「……そうだったのか。悪かったな、余計なことを聞いて」
「いや、たまには思い出してやりたいから、構わないさ」
一体蓮さんは誰に呼び出されたのだろう?
よく聞こえなかったが、蓮さんの言葉には遣る瀬ない思いが込められていた。
この二人が今に至るまでにどんな人生を歩んできたのか、僕はまだ何も知らない。
いつの日か……僕に話してくれることがあったら、誠実に耳を傾けたい。
それほどまでに、彼らは魅力溢れる兄弟だ。
「さぁ、瑞樹と君も早く乗りなさい」
「え? でも……」
菅野は首を振って遠慮するので、僕は菅野の腕を引っ張った。
「菅野、今から江ノ島まで帰るのは大変だよ」
「まぁ、そうだけど……」
「だから、今日は僕たちの家に泊まっていくといいよ」
躊躇することなく誘えた。
僕たちの家と、自然に口に出せた。
「うう、そう来るのか、瑞樹ちゃんからのお誘い嬉しいぜ」
「一緒に乗ろう」
「じゃあ……お言葉に甘えて、お邪魔します。えっと……宗吾さんのお兄さん?」
「えぇ、滝沢憲吾です、宗吾と瑞樹が常日頃からお世話になっています」
「いやいやいや、お世話になっているのは俺の方です」
和やかな会話と木下のいびき。
妙に楽しい気持ちになった。
気取らなくていい、畏まらなくていい、恐れなくていい。
「瑞樹、こういうのをポップな気持ちと呼ぶとのはどうか」
「宗吾さん、ポップって軽快ですね」
「フットワーク軽く行こうぜ」
「はい!」
「この車は小回りが効いて走りやすいですね」
そこでハッと思い出した。
さっきから聞きたいことがあった。
憲吾さんの車は、ずっと高級外車だったはずでは?
あの車はどこに?
「憲吾さん、あの……この車はどうされたのですか」
「最近、買い替えた。前の車では彩芽が乗り降りしづらく、ちゃたも居場所がなかったので、みんなが居心地良い車にしたくてな」
みんなの事を考えて――
素敵な言葉だ!
「……素敵な考えですね」
「自然に任せたら、この車を選んでいた」
「とても素敵な車なので、僕も運転してみたいです。あ……すみません。図々しいことを」
つい甘えたことを言ってしまった。
すると、憲吾さんが破顔したのが後部座席から見えた。
「思った通りで嬉しいぞ。さっき宗吾には話したが、今度軽井沢に行く時に使って欲しくてな」
「え! いいのですか」
「あぁ、もちろん。実は……私が買い替えた理由の一つだ。自動車保険は運転者限定なしに設定してあるから、宗吾と瑞樹も気兼ねなく使ってくれ」
「兄さん、ありがとうございます」
「嬉しいです」
「連休は楽しんでおいで。弟くんたちに会いに行くのだろう? 私もあの可愛い子を応援しているよ」
憲吾さんと潤。
憲吾さんといっくん。
以前だったら絶対に交わらない関係だったのに、今は違う。
心を開けば、出逢いも多くなる。
憲吾さんからは学ぶことばかりだ。
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