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小学生編

マイ・リトル・スター 4

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「芽生、今日は放課後スクールで何して遊ぶ?」
「あ、ごめん。ボク、今日は出掛けるからお迎えがもうすぐ……」
「ふーん、どこに行くんだ?」
「えっと……病院」
「えっ! どっか悪いのか」
「うーん、どこも悪くないけど」
「えっ、悪くないのにいくなんて、変だな」
「……たしかにそうだね。じゃあお迎えくるまでサッカーしよう!」
「そうこなくっちゃ!」

 ボクはお友達と校庭で思い切りサッカーをしたよ。

 校庭を走り回っても、元気だよ。

 本当は今日病院に行くの、何日も前からイヤだったんだ。

 最近、検査に行くのが、どんどんイヤになっているよ。

 だって、ボク、もうこんなに元気だよ?

 駆けっこだってサッカーだって、胸が苦しくなるなんてことないよ。

 もうちゃんと治ったよ。

 治ったのに、どうして病院にいかないといけないの?

 あんな変な装置をつけられてじっとしているのこわいし、つらいよ。

「もしかして……行きたくない?」
「えっと」

 お迎えに来てくれたお兄ちゃんにはナイショにしておこうと思ったけど、あんまりにも優しく聞いてくれるので、話しちゃった。

「お兄ちゃん、ボク、本当に行かないとだめ? だって、もう、こんなに元気だよ。胸もいたくならないし、どっこも悪くないよ」
 
 そうしたらお兄ちゃんはボクの気持ちを大切にしてくれて、魔法の言葉を教えてくれたよ。

「芽生くんには、いつまでも元気ですごして欲しいんだ。そのために、身体を点検してもらうんだよ。車だって定期的に点検するよね?」

 点検?

 あ、そういえば小さい頃、パパと一緒に車の点検にいったよ。

……
「パパ、ちゃんとうごくのに、どうしてくるまやさんにいくの?」
「それは事故があってからじゃ遅いから、しっかり点検しておくのさ。急に車が止まったり、ブレーキが効かなくなったら大変だろ?」
「うん、おおけがしちゃうよね」
「そうだ。だから安全のためにしておこう」
……

「点検? そっか点検にいくんだね」
「そうだよ。芽生くんが元気でいられるようにね」
「お兄ちゃんも安心する?」
「もちろんだよ。芽生くんは僕の大事な子だから」

 だいじって言葉って好きだよ。

 大切に優しくていねいに。

 そうするのも、そうしてもらえるのもうれしいもんね。

 だから冷たい装置を胸につけられるのはきらいだけど、がんばったよ。

 お兄ちゃんがお祈りするようなお顔で、ずっとそばにいてくれたから。

 お兄ちゃんはボクのだいじな人。
 
 お兄ちゃんを安心させてあげたいよ。

 それにパパもほっとするよね。

 ちゃんとボク検査をうけるよ。

 がんばる!


 それでも検査が終わると疲れちゃって、お兄ちゃんに甘えたくなった。

 ここなら、手をつないでもいいかな?

 そっとお兄ちゃんの手を握ると、とってもうれしそうな顔をしてくれた。

 よかった。

 こんな時、お兄ちゃんがいてくれて。

 やさしくて、やさしくて、だいすき。

「ふぅー、お兄ちゃん、点検って大変だね」
「芽生くん今日は頑張ったね。ご褒美に何か食べていこう」
「うーん、まだお腹すいてないよ」

 お兄ちゃんの優しさで、胸が一杯だったんだ。

「そうか、じゃあ……そうだ、来月の芽生くんのお誕生日、お兄ちゃんもパパもお休みを取れたよ。どこか行きたい所はあるかな?」

 ごほうびだ!

 ボクね、ずっと行きたいところがあったんだ。

「あ……それなら星がキレイに見えるところがいい! それといっくんに会いたいよ」
 
 あ、でも……ふたつもよくばりかな?

 心配になってお兄ちゃんをちらっと見ると、お兄ちゃんもすごく行きたそうな顔をしていた。

「芽生くん、僕も楽しみだよ。夢を一緒に叶えよう」
「うん!」

 あれ? 不思議だな。

 急に身体が軽くなったよ。

 さっきまですごく疲れていたのに、元気が出てきた。

「ボク、もう元気になったよ」
「あ、じゃあ……」

 お兄ちゃんが手を離そうとしたので、あわてて首を振ったよ。

「このままがいい」
「ありがとう」

 花が咲くように笑うお兄ちゃんを見て、きれいだなって思ったよ。

 パパはこんなお兄ちゃんが大好きなんだろうな。

「あ、宗吾さんだ」
「え?」

 顔をあげると、遠くでパパがブンブン手を振っていたよ。

 パパも元気いっぱいだ。

「パパー パパー」

 ボクも元気に手をふったら、あっという間にパパが近づいてきた。

「芽生、がんばったな」
「うん。お兄ちゃんがいてくれたから」
「よかった。瑞樹、本当にありがとう」
「宗吾さん、経過良好でした。次は1年後でいいそうです」
「そうか、そうか、本当によかった」

 パパのほっとしたお顔に、ボクもほっとした。

 点検しておいてよかった。
 
 パパとお兄ちゃんのほっとした顔を見て、心からそう思ったよ。

 

****

 軽井沢の新居での生活が順調にスタートした。

 ここは俺たち家族の家だ。

 この家で子供の成長を見守っていける喜びを、すみれと分かち合う日々。

 笑顔が溢れる家にしていこうと、誓い合った。

 季節は巡り、もうすぐ五月になる。

 厳しい冬の寒さが和らぐ3月から5月にかけて、軽井沢は少しずつに暖かくなり自然が息を吹き返してくる。

 4月になってもまだ平均気温が6℃前後と寒い日が続くが、五月になると一気に12℃まで上昇し、いよいよ春本番を迎える。

 もう間もなくやってくるゴールデンウィークには、木々に花が咲き乱れ美しい景色が広がるだろう。

 春の軽井沢は自然の美しさと穏やかな気候が織りなす魅力に満ちている。

 この季節を見せたい人たちがいる。

 それは東京にいる兄さんたちだ。

「会いたいな……」

 空を見上げながら呟くと、いっくんの声が聞こえた。

「あいたいね」
「え?」
「えへへ、パパぁ、今、みーくんのことかんがえていた?」
「わ、いっくん、どうして分かるんだ?」
「おかおにかいてありましゅよ」
「そうか、あ、いっくんの顔にも書いてあるぞ」
「えへへ、みえましゅか。いっくんもめーくんにあいたいなぁって」

 天使のような笑顔を浮かべる息子を抱き上げた。

 思いを分かち合えるっていいな。

「わぁ~ たかい」
「お空のパパにお願いしよう」
「うん! めーくんたちにあえますように」

 お空のパパ、美樹さんも息子に会いたいだろう。

 最近、こんな風に二人で空を見上げて話しかけることが増えた。

 俺は会ったことがない人だが、いっくんを通して感じている。

 とても、とても優しい人だったと。






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