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小学生編
マイ・リトル・スター 3
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「では今日のミーティングはここまでにしましょう。頂いた課題は次回までに調整し再提案します」
「えぇ、宜しくお願いします」
皆がミーティングルームから出て行くと、一人残ったクライアントの女性から唐突な誘いを受けた。
「滝沢さん、今からプライベートで飲みに行きません?」
積極的な女性の、この手の誘いは厄介だ。
ただ今回の取引相手なので、どう断れば差し障りがないか。
それは一瞬考えたが、すぐに頭の中を切り替えた。
今はそんな計算をしている時間はないし、素直に答えたい。
「申し訳ありません。プライベートな飲みは控えています。それに今日は息子と大事な約束がありまして」
「あら? 意外と子煩悩なんですね」
「はい!」
胸を張って言える。
今日は芽生の川崎病の定期検診日だ。
1年前のことを思い出すと、今でも胸がキュッと締め付けられるよ。
心臓に後遺症が残る可能性があると聞いて、瑞樹と真っ青になった。
慣れない入院生活、慣れない芽生がいない生活。
周囲のサポートなしには立ち直れないほどの衝撃だった。
ちょうど火事に遭った潤と同じだった。
今日は本来ならば俺が会社を早退して病院に連れて行くべきなのに、先方の都合で、俺主催のミーティングと重なってしまった。
どうすべきか困っていると、瑞樹が快く引き受けてくれた。
……
「参ったな。先方が指定して来た日時が、芽生の大事な定期検診と被っていたなんて……俺は父親失格だ」
頭を抱えて思案していると、瑞樹がポンと優しく肩に手を置いてくれた。
「宗吾さん、僕、その日は内勤なので早退できます。だから僕が行きます」
「え……いいのか」
「もちろんです。僕たちの芽生くんだと思っています。違いますか」
瑞樹が『僕たちの芽生くん』と言い切ってくれたことに感動した。
こんな時、以前の君は控えめに「行ってもいいでしょうか」とおそるおそる聞いてきた。だが、今は『行きます』と断言してくれる。
そうだ、遠慮はいらない。
君は君のままに行動してくれ。
「その通りだ。芽生の子育ては俺と瑞樹の二人三脚でしているのさ」
「ありがとうございます。じゃあ任せて下さいね」
ふんわりと微笑む瑞樹を見ると、心が凪いでくる。
さっきまでのカリカリ、イライラした気持ちが消えていく。
瑞樹はずっと変わらない。
いつも優しい男だ。
そして、優しいだけでなく、長男気質なのか、カッコいい面もあって、最高にいい男だ。
……
部署に戻り、時計を見上げると17時を過ぎていた。
「お疲れ様です。俺は今日は定時で上がらせてもらいます」
背広を片手に、街を一気に走り抜けた。
無事に終わった頃か。
まだ病院に間に合うか。
何も異常はなかったか。
後遺症がどうか出ていませんように。
どうか、どうか頼む!
芽生が元気に笑顔で過ごせますように。
親として願うのは、そこだ。
4月の東京はどこか浮ついている。
ソメイヨシノはもう終わり、今は八重桜だ。
それももう間もなく終わり、次はいよいよ深緑の季節だ。
瑞樹と芽生の季節がやってくる。
病院へ向かう一本道。
そこに差し掛かると、急ブレーキをかけた。
向こうから仲良く手をつないで歩いてくるのは、俺の大切な家族だ。
笑顔で楽しそうに話している様子に、胸を撫で下ろした。
芽生、頑張ったな。
大人だって定期検診は苦手だ。
まだ小さいのに、1年に何度も同じ検査を受けて、頑張ったな。
俺たちを安心させてくれて、ありがとう!
元気でいてくれて、ありがとう!
俺は大きく手を左右に振った。
「おーい! 瑞樹、芽生!」
愛しい人に、俺の溢れんばかりの愛と感謝を届けたくて。
「えぇ、宜しくお願いします」
皆がミーティングルームから出て行くと、一人残ったクライアントの女性から唐突な誘いを受けた。
「滝沢さん、今からプライベートで飲みに行きません?」
積極的な女性の、この手の誘いは厄介だ。
ただ今回の取引相手なので、どう断れば差し障りがないか。
それは一瞬考えたが、すぐに頭の中を切り替えた。
今はそんな計算をしている時間はないし、素直に答えたい。
「申し訳ありません。プライベートな飲みは控えています。それに今日は息子と大事な約束がありまして」
「あら? 意外と子煩悩なんですね」
「はい!」
胸を張って言える。
今日は芽生の川崎病の定期検診日だ。
1年前のことを思い出すと、今でも胸がキュッと締め付けられるよ。
心臓に後遺症が残る可能性があると聞いて、瑞樹と真っ青になった。
慣れない入院生活、慣れない芽生がいない生活。
周囲のサポートなしには立ち直れないほどの衝撃だった。
ちょうど火事に遭った潤と同じだった。
今日は本来ならば俺が会社を早退して病院に連れて行くべきなのに、先方の都合で、俺主催のミーティングと重なってしまった。
どうすべきか困っていると、瑞樹が快く引き受けてくれた。
……
「参ったな。先方が指定して来た日時が、芽生の大事な定期検診と被っていたなんて……俺は父親失格だ」
頭を抱えて思案していると、瑞樹がポンと優しく肩に手を置いてくれた。
「宗吾さん、僕、その日は内勤なので早退できます。だから僕が行きます」
「え……いいのか」
「もちろんです。僕たちの芽生くんだと思っています。違いますか」
瑞樹が『僕たちの芽生くん』と言い切ってくれたことに感動した。
こんな時、以前の君は控えめに「行ってもいいでしょうか」とおそるおそる聞いてきた。だが、今は『行きます』と断言してくれる。
そうだ、遠慮はいらない。
君は君のままに行動してくれ。
「その通りだ。芽生の子育ては俺と瑞樹の二人三脚でしているのさ」
「ありがとうございます。じゃあ任せて下さいね」
ふんわりと微笑む瑞樹を見ると、心が凪いでくる。
さっきまでのカリカリ、イライラした気持ちが消えていく。
瑞樹はずっと変わらない。
いつも優しい男だ。
そして、優しいだけでなく、長男気質なのか、カッコいい面もあって、最高にいい男だ。
……
部署に戻り、時計を見上げると17時を過ぎていた。
「お疲れ様です。俺は今日は定時で上がらせてもらいます」
背広を片手に、街を一気に走り抜けた。
無事に終わった頃か。
まだ病院に間に合うか。
何も異常はなかったか。
後遺症がどうか出ていませんように。
どうか、どうか頼む!
芽生が元気に笑顔で過ごせますように。
親として願うのは、そこだ。
4月の東京はどこか浮ついている。
ソメイヨシノはもう終わり、今は八重桜だ。
それももう間もなく終わり、次はいよいよ深緑の季節だ。
瑞樹と芽生の季節がやってくる。
病院へ向かう一本道。
そこに差し掛かると、急ブレーキをかけた。
向こうから仲良く手をつないで歩いてくるのは、俺の大切な家族だ。
笑顔で楽しそうに話している様子に、胸を撫で下ろした。
芽生、頑張ったな。
大人だって定期検診は苦手だ。
まだ小さいのに、1年に何度も同じ検査を受けて、頑張ったな。
俺たちを安心させてくれて、ありがとう!
元気でいてくれて、ありがとう!
俺は大きく手を左右に振った。
「おーい! 瑞樹、芽生!」
愛しい人に、俺の溢れんばかりの愛と感謝を届けたくて。
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