上 下
1,661 / 1,730
小学生編

冬から春へ 53

しおりを挟む
 いっくん、うれちいの、とってもうれちいの。

 ほんとはね、めーくんのランドセル、いいなっておもってたの。

 あさおきたときね、おひさまがあたってキラキラしてみえたの。

 だから、そーっとさわってみたの。

 これがあれば、おそとにおでかけできるんだね。

 いっくんにも、ほいくえんのバッグがあったらよかったのになぁ。

 あのひ、パパがもってくれて、それでどこいっちゃったのかな?

 ううん、だめだめ。

 パパはいま、がんばってるし、ママもがんばってるし、いっくんは、いいこでまってないとダメなんだよ。

 でもね、みーくんがいってくれたの。

 いっくんがしたいこと、いってもいいって。

 びっくりしちゃった。

 でもね、いったら、すっきりしたよ。
 
 みんなもうれしそうだったよ。

 みーくんがおしゃしんもとってくれたよ。

「よし、いい笑顔だよ。さぁ、これを潤に送ろう」
「パパ、よろこんでくれるかなぁ?」
「もちろんだよ」
「みーくん、あのね、いっくんね、パパがほんとにしゅきなの」
「ありがとう。いっくん。僕の弟を心から愛してくれて」
「いっくんこそ、ありがとうさんだよ」
「あぁ、君は本当に天使だね。僕の周りには可愛い子だらけだ。芽生くん、そんな所にいないで、こっちにおいで」

 あ、めーくん! どこにいたのかな?

「……いっくん、ごめんね」
「どうちて? どうちてごめんねなの? めーくん、なんにもしてないよ。だいしゅきだよぅ」
「ありがとう。ボクもいっくんが大好きだよ。その制服、良く似合ってるよ。ボクね、その制服には沢山の思い出があるんだ。だからいっくんも短い間かもしれないけれども、楽しい思い出をいっぱい作ってね」

 めーくんが、いっくんのおててをぎゅっとしてくれたよ。

「うん! だいじにきるね、よごさないようにしないと」
「大丈夫、もういっくんのものだよ。よごしてもやぶってもだいじょうぶ。おもいっきり体をうごかしておいで」
「わぁ……うん、わかった」

****

 いっくんと芽生の会話に感動した。

 芽生、かっこいいぞ。

 いつの間にか、すっかりお兄ちゃんになったんだな。

 子供の成長は早いな。

 離婚した直後は、ひとりで制服を着ることもできずに、ボタンも留められずに、めそめそ、しくしく泣いていたのに……

 こんなに心強い発言が出来るようになって。

 強さと柔らかさを、今の芽生はしっかり持っている。

 とてもしなやかに柔軟な人として、すくすくと成長中だ。

「瑞樹、君の子育ては最高だな」
「僕だけではないです。宗吾さんも憲吾さんもお母さんも美智さんも……みんなが芽生くんを見守ってくれているので、安心して、すくすく成長しているのだと思います」
「ありがとう。芽生には兄弟がいないが、いっくんとの交流を通じて、お兄さんらしく成長している。それって、やっぱり瑞樹が運んで来てくれた幸せだ」

 本当に、心からそう思う。

 心とは……

 素直になれば、どんどん柔らかくなっていくものだ。

 よくしなる心は、簡単に折れない。

 芽生にはそんな人間になって欲しい。

「瑞樹、俺たち、これからも沢山笑っていこう」
「はい!」
「美しいものを慈しみ、優しいものを愛し、人のよい所に気付ける人になりたいな」
「はい、僕には大きなことは出来ないですが、一つ一つの事柄に丁寧に向き合っていきたいです。宗吾さんと一緒だとそれが出来る気がします」

 自分の存在によって誰かがほっと一息つけるのなら、それが幸せだ。

 瑞樹と出会ってから、俺に芽生えた心はとてもフレッシュで、毎日潤っている。



****

軽井沢

「潤、そろそろ休め。働きづめは良くない」
「いや、もう少しだけ」
「まぁ、そんなに根を詰めるな。疲れると集中力がなくなって怪我をするぞ。そうしたら悲しむのは誰だ?」
「あ……はい」

 父さんの言う通りだ。

 オレはついムキになってしまうから、気をつけないと。

「よし、今コーヒーを淹れてやるよ」
「潤、おやつにしましょう」
「ありがとう!」

 新居のリフォームに、早速取りかかった。

 老朽化した家は手を入れたい所ばかりだった。

 父さんたちが滞在できる日数と、オレが仕事を休める日数には限りがあるのでどんどんやっていかないと終わらない。

「しかし……まだ正式な契約前なのに、ここまで弄らせてもらえるなんて、潤はおばあさんに余程信頼されているんだな」
「まだ信じられません。当たり前のことをしただけなのに」
「それが良かったのさ。たとえ潤の全てを知らなくても、信じるに値する人だと思ってもらえてよかったな」
「はい!」

 オレが瑞樹兄さんをあんなに目に遭わせた事件は、もみ消すことは出来ない。ひたすらに後悔し、悲しみ、向き合って、ひたむきに生きていくことで、償っていこうと、この数年がむしゃらに生きてきた。

 その結果がこれだと思うと、本当に報われる。

「美味しいコーヒーです! 父さんのコーヒーは最高です」
「そうか、そうか、嬉しいぞ」
「潤、ほらお腹空いたでしょう。パンも食べなさい」
「母さんもありがとう」
「何言ってるの? 息子のためにまだ出来ることがあって嬉しいのよ」

 そこにスマホが鳴る。

「ん? 兄さんからだ」
「まぁ、瑞樹から?」
「あぁ、写真が送られてきたよ」
「どれ? みーくんの写真か」
「えっと、あっ」

 そこには幼稚園の制服を着て、ピカピカのバッグを嬉しそうに斜めがけしているいっくんと、最愛の妻、すみれが写っていた。

「ほぅ、いっくん、幼稚園に行くのか」
「あっ、はい、どうやら明日から通うようです。宗吾さんと憲吾さんが手配してくれたと」
「そうか、幼稚園か、よかったな」
「はい、本当に良かったです」

 いっくんには怖い思いと寂しい思いをさせてしまったから、幼稚園に一時的に通えることになって本当に良かった。

 みんなが応援してくれている。

 オレはみんなに応援してもらえるようになれたのか。

 そう思うと、また自分に対しての自信がついた。

 がんばろう!

 今度こそ道を間違えないように。

 この子の笑顔を守れる人になろう。

 すみれをしっかり支えられる人になろう。

「父さん……オレは幸せです」
「よかったよ。潤の幸せは俺たちの幸せだ。よし、俺もリフォーム頑張るぞ」


 明るい未来に向かって、力を合わせていこう。

 いっくんの笑顔を迎えに行こう!

 家族で、ここから出発するために。



 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...