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小学生編
冬から春へ 53
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いっくん、うれちいの、とってもうれちいの。
ほんとはね、めーくんのランドセル、いいなっておもってたの。
あさおきたときね、おひさまがあたってキラキラしてみえたの。
だから、そーっとさわってみたの。
これがあれば、おそとにおでかけできるんだね。
いっくんにも、ほいくえんのバッグがあったらよかったのになぁ。
あのひ、パパがもってくれて、それでどこいっちゃったのかな?
ううん、だめだめ。
パパはいま、がんばってるし、ママもがんばってるし、いっくんは、いいこでまってないとダメなんだよ。
でもね、みーくんがいってくれたの。
いっくんがしたいこと、いってもいいって。
びっくりしちゃった。
でもね、いったら、すっきりしたよ。
みんなもうれしそうだったよ。
みーくんがおしゃしんもとってくれたよ。
「よし、いい笑顔だよ。さぁ、これを潤に送ろう」
「パパ、よろこんでくれるかなぁ?」
「もちろんだよ」
「みーくん、あのね、いっくんね、パパがほんとにしゅきなの」
「ありがとう。いっくん。僕の弟を心から愛してくれて」
「いっくんこそ、ありがとうさんだよ」
「あぁ、君は本当に天使だね。僕の周りには可愛い子だらけだ。芽生くん、そんな所にいないで、こっちにおいで」
あ、めーくん! どこにいたのかな?
「……いっくん、ごめんね」
「どうちて? どうちてごめんねなの? めーくん、なんにもしてないよ。だいしゅきだよぅ」
「ありがとう。ボクもいっくんが大好きだよ。その制服、良く似合ってるよ。ボクね、その制服には沢山の思い出があるんだ。だからいっくんも短い間かもしれないけれども、楽しい思い出をいっぱい作ってね」
めーくんが、いっくんのおててをぎゅっとしてくれたよ。
「うん! だいじにきるね、よごさないようにしないと」
「大丈夫、もういっくんのものだよ。よごしてもやぶってもだいじょうぶ。おもいっきり体をうごかしておいで」
「わぁ……うん、わかった」
****
いっくんと芽生の会話に感動した。
芽生、かっこいいぞ。
いつの間にか、すっかりお兄ちゃんになったんだな。
子供の成長は早いな。
離婚した直後は、ひとりで制服を着ることもできずに、ボタンも留められずに、めそめそ、しくしく泣いていたのに……
こんなに心強い発言が出来るようになって。
強さと柔らかさを、今の芽生はしっかり持っている。
とてもしなやかに柔軟な人として、すくすくと成長中だ。
「瑞樹、君の子育ては最高だな」
「僕だけではないです。宗吾さんも憲吾さんもお母さんも美智さんも……みんなが芽生くんを見守ってくれているので、安心して、すくすく成長しているのだと思います」
「ありがとう。芽生には兄弟がいないが、いっくんとの交流を通じて、お兄さんらしく成長している。それって、やっぱり瑞樹が運んで来てくれた幸せだ」
本当に、心からそう思う。
心とは……
素直になれば、どんどん柔らかくなっていくものだ。
よくしなる心は、簡単に折れない。
芽生にはそんな人間になって欲しい。
「瑞樹、俺たち、これからも沢山笑っていこう」
「はい!」
「美しいものを慈しみ、優しいものを愛し、人のよい所に気付ける人になりたいな」
「はい、僕には大きなことは出来ないですが、一つ一つの事柄に丁寧に向き合っていきたいです。宗吾さんと一緒だとそれが出来る気がします」
自分の存在によって誰かがほっと一息つけるのなら、それが幸せだ。
瑞樹と出会ってから、俺に芽生えた心はとてもフレッシュで、毎日潤っている。
****
軽井沢
「潤、そろそろ休め。働きづめは良くない」
「いや、もう少しだけ」
「まぁ、そんなに根を詰めるな。疲れると集中力がなくなって怪我をするぞ。そうしたら悲しむのは誰だ?」
「あ……はい」
父さんの言う通りだ。
オレはついムキになってしまうから、気をつけないと。
「よし、今コーヒーを淹れてやるよ」
「潤、おやつにしましょう」
「ありがとう!」
新居のリフォームに、早速取りかかった。
老朽化した家は手を入れたい所ばかりだった。
父さんたちが滞在できる日数と、オレが仕事を休める日数には限りがあるのでどんどんやっていかないと終わらない。
「しかし……まだ正式な契約前なのに、ここまで弄らせてもらえるなんて、潤はおばあさんに余程信頼されているんだな」
「まだ信じられません。当たり前のことをしただけなのに」
「それが良かったのさ。たとえ潤の全てを知らなくても、信じるに値する人だと思ってもらえてよかったな」
「はい!」
オレが瑞樹兄さんをあんなに目に遭わせた事件は、もみ消すことは出来ない。ひたすらに後悔し、悲しみ、向き合って、ひたむきに生きていくことで、償っていこうと、この数年がむしゃらに生きてきた。
その結果がこれだと思うと、本当に報われる。
「美味しいコーヒーです! 父さんのコーヒーは最高です」
「そうか、そうか、嬉しいぞ」
「潤、ほらお腹空いたでしょう。パンも食べなさい」
「母さんもありがとう」
「何言ってるの? 息子のためにまだ出来ることがあって嬉しいのよ」
そこにスマホが鳴る。
「ん? 兄さんからだ」
「まぁ、瑞樹から?」
「あぁ、写真が送られてきたよ」
「どれ? みーくんの写真か」
「えっと、あっ」
そこには幼稚園の制服を着て、ピカピカのバッグを嬉しそうに斜めがけしているいっくんと、最愛の妻、すみれが写っていた。
「ほぅ、いっくん、幼稚園に行くのか」
「あっ、はい、どうやら明日から通うようです。宗吾さんと憲吾さんが手配してくれたと」
「そうか、幼稚園か、よかったな」
「はい、本当に良かったです」
いっくんには怖い思いと寂しい思いをさせてしまったから、幼稚園に一時的に通えることになって本当に良かった。
みんなが応援してくれている。
オレはみんなに応援してもらえるようになれたのか。
そう思うと、また自分に対しての自信がついた。
がんばろう!
今度こそ道を間違えないように。
この子の笑顔を守れる人になろう。
すみれをしっかり支えられる人になろう。
「父さん……オレは幸せです」
「よかったよ。潤の幸せは俺たちの幸せだ。よし、俺もリフォーム頑張るぞ」
明るい未来に向かって、力を合わせていこう。
いっくんの笑顔を迎えに行こう!
家族で、ここから出発するために。
ほんとはね、めーくんのランドセル、いいなっておもってたの。
あさおきたときね、おひさまがあたってキラキラしてみえたの。
だから、そーっとさわってみたの。
これがあれば、おそとにおでかけできるんだね。
いっくんにも、ほいくえんのバッグがあったらよかったのになぁ。
あのひ、パパがもってくれて、それでどこいっちゃったのかな?
ううん、だめだめ。
パパはいま、がんばってるし、ママもがんばってるし、いっくんは、いいこでまってないとダメなんだよ。
でもね、みーくんがいってくれたの。
いっくんがしたいこと、いってもいいって。
びっくりしちゃった。
でもね、いったら、すっきりしたよ。
みんなもうれしそうだったよ。
みーくんがおしゃしんもとってくれたよ。
「よし、いい笑顔だよ。さぁ、これを潤に送ろう」
「パパ、よろこんでくれるかなぁ?」
「もちろんだよ」
「みーくん、あのね、いっくんね、パパがほんとにしゅきなの」
「ありがとう。いっくん。僕の弟を心から愛してくれて」
「いっくんこそ、ありがとうさんだよ」
「あぁ、君は本当に天使だね。僕の周りには可愛い子だらけだ。芽生くん、そんな所にいないで、こっちにおいで」
あ、めーくん! どこにいたのかな?
「……いっくん、ごめんね」
「どうちて? どうちてごめんねなの? めーくん、なんにもしてないよ。だいしゅきだよぅ」
「ありがとう。ボクもいっくんが大好きだよ。その制服、良く似合ってるよ。ボクね、その制服には沢山の思い出があるんだ。だからいっくんも短い間かもしれないけれども、楽しい思い出をいっぱい作ってね」
めーくんが、いっくんのおててをぎゅっとしてくれたよ。
「うん! だいじにきるね、よごさないようにしないと」
「大丈夫、もういっくんのものだよ。よごしてもやぶってもだいじょうぶ。おもいっきり体をうごかしておいで」
「わぁ……うん、わかった」
****
いっくんと芽生の会話に感動した。
芽生、かっこいいぞ。
いつの間にか、すっかりお兄ちゃんになったんだな。
子供の成長は早いな。
離婚した直後は、ひとりで制服を着ることもできずに、ボタンも留められずに、めそめそ、しくしく泣いていたのに……
こんなに心強い発言が出来るようになって。
強さと柔らかさを、今の芽生はしっかり持っている。
とてもしなやかに柔軟な人として、すくすくと成長中だ。
「瑞樹、君の子育ては最高だな」
「僕だけではないです。宗吾さんも憲吾さんもお母さんも美智さんも……みんなが芽生くんを見守ってくれているので、安心して、すくすく成長しているのだと思います」
「ありがとう。芽生には兄弟がいないが、いっくんとの交流を通じて、お兄さんらしく成長している。それって、やっぱり瑞樹が運んで来てくれた幸せだ」
本当に、心からそう思う。
心とは……
素直になれば、どんどん柔らかくなっていくものだ。
よくしなる心は、簡単に折れない。
芽生にはそんな人間になって欲しい。
「瑞樹、俺たち、これからも沢山笑っていこう」
「はい!」
「美しいものを慈しみ、優しいものを愛し、人のよい所に気付ける人になりたいな」
「はい、僕には大きなことは出来ないですが、一つ一つの事柄に丁寧に向き合っていきたいです。宗吾さんと一緒だとそれが出来る気がします」
自分の存在によって誰かがほっと一息つけるのなら、それが幸せだ。
瑞樹と出会ってから、俺に芽生えた心はとてもフレッシュで、毎日潤っている。
****
軽井沢
「潤、そろそろ休め。働きづめは良くない」
「いや、もう少しだけ」
「まぁ、そんなに根を詰めるな。疲れると集中力がなくなって怪我をするぞ。そうしたら悲しむのは誰だ?」
「あ……はい」
父さんの言う通りだ。
オレはついムキになってしまうから、気をつけないと。
「よし、今コーヒーを淹れてやるよ」
「潤、おやつにしましょう」
「ありがとう!」
新居のリフォームに、早速取りかかった。
老朽化した家は手を入れたい所ばかりだった。
父さんたちが滞在できる日数と、オレが仕事を休める日数には限りがあるのでどんどんやっていかないと終わらない。
「しかし……まだ正式な契約前なのに、ここまで弄らせてもらえるなんて、潤はおばあさんに余程信頼されているんだな」
「まだ信じられません。当たり前のことをしただけなのに」
「それが良かったのさ。たとえ潤の全てを知らなくても、信じるに値する人だと思ってもらえてよかったな」
「はい!」
オレが瑞樹兄さんをあんなに目に遭わせた事件は、もみ消すことは出来ない。ひたすらに後悔し、悲しみ、向き合って、ひたむきに生きていくことで、償っていこうと、この数年がむしゃらに生きてきた。
その結果がこれだと思うと、本当に報われる。
「美味しいコーヒーです! 父さんのコーヒーは最高です」
「そうか、そうか、嬉しいぞ」
「潤、ほらお腹空いたでしょう。パンも食べなさい」
「母さんもありがとう」
「何言ってるの? 息子のためにまだ出来ることがあって嬉しいのよ」
そこにスマホが鳴る。
「ん? 兄さんからだ」
「まぁ、瑞樹から?」
「あぁ、写真が送られてきたよ」
「どれ? みーくんの写真か」
「えっと、あっ」
そこには幼稚園の制服を着て、ピカピカのバッグを嬉しそうに斜めがけしているいっくんと、最愛の妻、すみれが写っていた。
「ほぅ、いっくん、幼稚園に行くのか」
「あっ、はい、どうやら明日から通うようです。宗吾さんと憲吾さんが手配してくれたと」
「そうか、幼稚園か、よかったな」
「はい、本当に良かったです」
いっくんには怖い思いと寂しい思いをさせてしまったから、幼稚園に一時的に通えることになって本当に良かった。
みんなが応援してくれている。
オレはみんなに応援してもらえるようになれたのか。
そう思うと、また自分に対しての自信がついた。
がんばろう!
今度こそ道を間違えないように。
この子の笑顔を守れる人になろう。
すみれをしっかり支えられる人になろう。
「父さん……オレは幸せです」
「よかったよ。潤の幸せは俺たちの幸せだ。よし、俺もリフォーム頑張るぞ」
明るい未来に向かって、力を合わせていこう。
いっくんの笑顔を迎えに行こう!
家族で、ここから出発するために。
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