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小学生編
冬から春へ 44
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菫との電話を終え、オレは小さくガッツポーズをした。
「よしっ、やった!」
菫の声が、弾んでいた。オレたちが移り住む予定の家が元々は洋裁店だったと告げると、とても嬉しそうだった。
いっくんが生まれてからアウトレットモールの店員を始めたらしいが、元々は服飾関係の専門学校を出てアパレルメーカーに就職していたと聞いている。
菫は本当は洋服を作る側になりたいはずだ。
いっくんの洋服を器用にリメイクする見事な腕前からも、充分察していた。
そしてそれは……
きっと美樹さんと一緒に抱いた夢だったのだろう。
そんな風に思うのは、瑞樹兄さんのように心を研ぎ澄まし相手に寄り添うことを心がけているからだ。
菫の気持ちに寄り添って気持ちを大切にすると、菫もオレを大切にしてくれる。
夫婦の絆がどんどん深まっていく。
兄さんと宗吾さんを見ていると、そうしたくなるよ。
幸せの方程式だもんな。
「潤、その顔はOKだね。菫ちゃんに住んでもらえるなんて嬉しいよ」
「はい! ばーちゃんのミシン、菫がぜひ使いたいと言っていました」
「光栄だよ。あのミシンで、町内の人を笑顔にした日々を思い出すよ。また動かしてもらるなんて、ありがたいよ。ところで私は潤一家になら家を貸すんじゃなくて、いっそ売ってもいいと思っているんだが、どうかね? 娘は松本に広い敷地の家を持っているし、もう私もここには戻らないからね」
「お母さんの言う通りです。これを機に売却してもいいかと」
「え? え? えっと……」
いやいや、ちょっと待ってくれ。
話が急展開過ぎるぞ。
家を買うって?
そりゃ、こんな好立地の物件は滅多に出ないので、ありがたい話だが、オレ、そんな大金、持ってないぞ。
焦っていると、父さんに肩をポンポンと叩かれた。
「潤、落ち着け。俺は昔、大樹さんと家づくりをしていたこともあって、不動産の手続きは理解している。ここは父さんが話を聞いてみてもいいか。せっかくの良いご縁だしな」
「あ、はい」
「あの、少し私を交えて話をしても?」
「もちろんだよ。懇意にしている不動産屋があるから、そこでどうだい?」
「是非、宜しくお願いします」
オロオロしていると、母さんが背中を撫でてくれた。
気恥ずかしいが、落ち着いた。
「潤、大丈夫よ。勇大さんに任せてみない? 住宅ローンを組めばいいんだし、私たちもここで夏の間お店をさせてもらいたいから、援助したいわ」
「店って? また花屋をするのか」
「やぁね、花屋の夢は潤のものでしょ。私は勇大さんとドーナッツカフェを開くのが夢よ。大沼がメインだけど、あなたたちが花屋を開くシーズンはこっちでカフェをしたいわ。息子たちと共同でなんて最高よ」
母さんがうっとり夢を見ている。
これ、本当に俺の母さんなのか。
母さんはこんなに甘い夢を見る人だったか。
「母さんの夢、最高だな」
「でしょ、あなたは花を作って、瑞樹がアレンジして広樹が売る。これで合ってる?」
「えぇ! なんでバレてるんだ?」
さっきから驚いてばかりだ。
「ふふ、仲良し三兄弟の母親ですもの。当たり前よ」
「流石だな、母さん!」
いつも現実に追われ、あくせく働いてばかりだった母さんが夢を見られるようになって良かった。
俺の母さんをこんなに幸せにしてくれた父さんの存在が、とてもありがたい。
家を購入するなんて無縁の話で、夢のまた夢だと思っていた。もしかしたら……それが現実になるかもしれない。
俺も一緒に不動産屋さんに向かった。
****
「憲吾さん、芽生くんの小学校に寄ってもいいですか」
「そうか、丁度芽生のお迎えの時間だな。もちろんいいよ」
「はい!」
そこで、道を曲がって小学校に向かって歩き出すと、向こうから菫さんといっくんが歩いてきた。
菫さんがすっ飛んでくる。
「きゃあ、憲吾さんが槙を抱っこして下さったのですか!」
「んぎゃーーぎゃあああ」
槙くんはママを見た途端、手足をばたつかせて暴れ出した。
大泣きで真っ赤な顔でママを必死に呼んでいる。
「そうか、そうか、やっぱりママには適わないな」
「すっ、すみません」
「いや、うちの娘もママでないと駄目な時が多々あったよ。ではママにバトンタッチだ。私はこのまま芽生を迎えに行ってくるよ」
「憲吾さん、僕も行きます」
瑞樹が付いてこようとするので、制止した。瑞樹と散歩できるのは嬉しいが、彼は少し疲れているようだ。
「いや、瑞樹は家に真っ直ぐ戻ること」
「えっ……ですが」
「その荷物……本当はかなり重いよな。手が赤くなっているぞ。しっかり体力を残しておかないと、後で宗吾に怒られそうだ」
「えっ……体力? えっ! 宗吾さん?」
突然、瑞樹が真っ赤になったので、首を傾げてしまった。
私は何か的外れなことを言ったのか。
「その……まだ今週は始まったばかりで明日も会社だし、君の仕事は思ったより重労働そうだ。君に無理をさせると、後で宗吾に怒られそうだ」
「あぁぁぁ、そうですよね。やだな、僕……」
私たちの会話を聞いた菫さんが、何故か苦笑していた。
「……瑞樹くんってば」
「ううう、菫さん、今のは忘れて下さい」
「宗吾さんに話す?」
「駄目です!」
うーむ、どうも宗吾が絡むと、瑞樹は落ち着きがなくなるな。
まぁそれも良いのか。
仲が良い証拠だろう。
「みーくん、いっちょにかえろう」
「そうだね。いっくん、手を繋ごうか」
「あい!」
二手に分かれて歩き出した。
私にも役目があるのが嬉しく、足取りは軽かった。
さぁ、私の可愛い甥っ子に会いに行こう!
「よしっ、やった!」
菫の声が、弾んでいた。オレたちが移り住む予定の家が元々は洋裁店だったと告げると、とても嬉しそうだった。
いっくんが生まれてからアウトレットモールの店員を始めたらしいが、元々は服飾関係の専門学校を出てアパレルメーカーに就職していたと聞いている。
菫は本当は洋服を作る側になりたいはずだ。
いっくんの洋服を器用にリメイクする見事な腕前からも、充分察していた。
そしてそれは……
きっと美樹さんと一緒に抱いた夢だったのだろう。
そんな風に思うのは、瑞樹兄さんのように心を研ぎ澄まし相手に寄り添うことを心がけているからだ。
菫の気持ちに寄り添って気持ちを大切にすると、菫もオレを大切にしてくれる。
夫婦の絆がどんどん深まっていく。
兄さんと宗吾さんを見ていると、そうしたくなるよ。
幸せの方程式だもんな。
「潤、その顔はOKだね。菫ちゃんに住んでもらえるなんて嬉しいよ」
「はい! ばーちゃんのミシン、菫がぜひ使いたいと言っていました」
「光栄だよ。あのミシンで、町内の人を笑顔にした日々を思い出すよ。また動かしてもらるなんて、ありがたいよ。ところで私は潤一家になら家を貸すんじゃなくて、いっそ売ってもいいと思っているんだが、どうかね? 娘は松本に広い敷地の家を持っているし、もう私もここには戻らないからね」
「お母さんの言う通りです。これを機に売却してもいいかと」
「え? え? えっと……」
いやいや、ちょっと待ってくれ。
話が急展開過ぎるぞ。
家を買うって?
そりゃ、こんな好立地の物件は滅多に出ないので、ありがたい話だが、オレ、そんな大金、持ってないぞ。
焦っていると、父さんに肩をポンポンと叩かれた。
「潤、落ち着け。俺は昔、大樹さんと家づくりをしていたこともあって、不動産の手続きは理解している。ここは父さんが話を聞いてみてもいいか。せっかくの良いご縁だしな」
「あ、はい」
「あの、少し私を交えて話をしても?」
「もちろんだよ。懇意にしている不動産屋があるから、そこでどうだい?」
「是非、宜しくお願いします」
オロオロしていると、母さんが背中を撫でてくれた。
気恥ずかしいが、落ち着いた。
「潤、大丈夫よ。勇大さんに任せてみない? 住宅ローンを組めばいいんだし、私たちもここで夏の間お店をさせてもらいたいから、援助したいわ」
「店って? また花屋をするのか」
「やぁね、花屋の夢は潤のものでしょ。私は勇大さんとドーナッツカフェを開くのが夢よ。大沼がメインだけど、あなたたちが花屋を開くシーズンはこっちでカフェをしたいわ。息子たちと共同でなんて最高よ」
母さんがうっとり夢を見ている。
これ、本当に俺の母さんなのか。
母さんはこんなに甘い夢を見る人だったか。
「母さんの夢、最高だな」
「でしょ、あなたは花を作って、瑞樹がアレンジして広樹が売る。これで合ってる?」
「えぇ! なんでバレてるんだ?」
さっきから驚いてばかりだ。
「ふふ、仲良し三兄弟の母親ですもの。当たり前よ」
「流石だな、母さん!」
いつも現実に追われ、あくせく働いてばかりだった母さんが夢を見られるようになって良かった。
俺の母さんをこんなに幸せにしてくれた父さんの存在が、とてもありがたい。
家を購入するなんて無縁の話で、夢のまた夢だと思っていた。もしかしたら……それが現実になるかもしれない。
俺も一緒に不動産屋さんに向かった。
****
「憲吾さん、芽生くんの小学校に寄ってもいいですか」
「そうか、丁度芽生のお迎えの時間だな。もちろんいいよ」
「はい!」
そこで、道を曲がって小学校に向かって歩き出すと、向こうから菫さんといっくんが歩いてきた。
菫さんがすっ飛んでくる。
「きゃあ、憲吾さんが槙を抱っこして下さったのですか!」
「んぎゃーーぎゃあああ」
槙くんはママを見た途端、手足をばたつかせて暴れ出した。
大泣きで真っ赤な顔でママを必死に呼んでいる。
「そうか、そうか、やっぱりママには適わないな」
「すっ、すみません」
「いや、うちの娘もママでないと駄目な時が多々あったよ。ではママにバトンタッチだ。私はこのまま芽生を迎えに行ってくるよ」
「憲吾さん、僕も行きます」
瑞樹が付いてこようとするので、制止した。瑞樹と散歩できるのは嬉しいが、彼は少し疲れているようだ。
「いや、瑞樹は家に真っ直ぐ戻ること」
「えっ……ですが」
「その荷物……本当はかなり重いよな。手が赤くなっているぞ。しっかり体力を残しておかないと、後で宗吾に怒られそうだ」
「えっ……体力? えっ! 宗吾さん?」
突然、瑞樹が真っ赤になったので、首を傾げてしまった。
私は何か的外れなことを言ったのか。
「その……まだ今週は始まったばかりで明日も会社だし、君の仕事は思ったより重労働そうだ。君に無理をさせると、後で宗吾に怒られそうだ」
「あぁぁぁ、そうですよね。やだな、僕……」
私たちの会話を聞いた菫さんが、何故か苦笑していた。
「……瑞樹くんってば」
「ううう、菫さん、今のは忘れて下さい」
「宗吾さんに話す?」
「駄目です!」
うーむ、どうも宗吾が絡むと、瑞樹は落ち着きがなくなるな。
まぁそれも良いのか。
仲が良い証拠だろう。
「みーくん、いっちょにかえろう」
「そうだね。いっくん、手を繋ごうか」
「あい!」
二手に分かれて歩き出した。
私にも役目があるのが嬉しく、足取りは軽かった。
さぁ、私の可愛い甥っ子に会いに行こう!
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