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小学生編
特別番外編 瑞樹31歳の誕生日①
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前置き
こんにちは、志生帆 海です。
2024/05/02は瑞樹の31歳の誕生日です。
定期更新の『冬から春へ』の途中ですが、今日は特別番外編を書かせていただきます。
****
31年前、5月1日
「澄子、実はさっき写真集の急な打ち合わせが入ってしまって、今から函館市内まで行ってくるよ」
「まぁ、そうなのね。大樹さん、気をつけてね」
「うーん、今日が出産予定日なのに……君を置いていくのが不安だ」
「大丈夫よ。何かあったら熊田さんもいるし、それに今日ではない予感がするの」
「そうなのか。 おーい、瑞樹、ちょっと待っていてくれよ」
「瑞樹は素直な子だから、きっとあなたの帰りを待ってから生まれてくるわ」
「そうだといいな。それにしても瑞樹っていい名前だな」
「二人で考えた名前よ。ずっと大切に呼んであげたいわね」
「あぁ」
よりによって妻の出産予定日に出掛けないといけないなんて……
しかし、写真集の売り上げで生計を立てているのでやむをえない。
世のサラリーマンには、きっとこのような思いで出社する人も多いのだろう。
澄子の丸いお腹を撫でてやると、お腹の中から瑞樹が静かに挨拶してくれた。
もうすぐ会える。
俺の息子、瑞樹に。
仕事帰り、家に電話すると澄子が出てくれた。
「まだ生まれてないか」
「くすっ、えぇ、気配もないわ。瑞樹も大樹さんの帰りをいい子に待ってるみみたいよ」
「よし、瑞樹にケーキを買っていこう」
「ふふ、私が食べてあげるわ」
ところがケーキ屋はどこも閉店で買えなかった。
それもそうか、もう夜の9時だったのか。
仕方無い……
駐車場に戻ろうと、とぼとぼ歩いていると、駅の近くに店の明かりを見つけた。
近づくと、昔ながらの花屋だった。
こんな時間まで営業しているなんて珍しいな。
薄暗い電灯の下、売れ残った花たちが寂しそうに揺れていた。
店頭の一番端っこに、一際恥ずかしそうに俯いている白く弱々しい花が目にとまった。
君はずすらんか……
君影草という名前の通り、控えめな姿だ。
「いらっしゃいませ」
俺の気配に気付いたようで、店の奥から同年代の男性が出てきた。
「あの、このすずらんを下さい」
そう言って、しまったと思った。
今日はあまり持ち合わせがなかったのに、さっきの打ち合わせでお札は全て使ってしまった。焦ってズボンのポケットを探ると小銭が入っていた。
「あの……これで買えるだけ……下さい」
「……ありがとうございます。今日、5月1日はスズランの日なんですよ」
「知りませんでした」
「フランスでは大切な人にありがとうの気持ちを込めて、この花を贈る日そうですよ。受け取った人には幸運が訪れるそうですよ。日本にはまだ馴染みがなくて今日は沢山売れ残ってしまて……よかったらお客さん、これ全部持っていって下さい」
「えぇ? そんな……申し訳ないです」
「なぁに幸せのお裾分けですよ。私は今、家族に恵まれて幸せなので」
店主が振り返ると、店の奥に可愛い奥さんと5歳くらいの少年が立っていた。なるほど、彼の幸せを見せてもらった。
「実は俺の妻が臨月で……お土産を探していたので嬉しいです」
「そうですか。あなたも、もうすぐお父さんになられるのですね」
「はい」
「父親っていいものですよ。お幸せに」
帰宅後、澄子にすずらんの花束を渡した。
「嬉しいわ。スズランって幸運を呼ぶお花よね」
「知っていたのか」
「えぇ、そして偶然にもフランスでは今日はスズランを贈る日なのよ」
「さすが澄子だな」
「この花は瑞樹にあげましょう。きっと明日受け取ってくれるわ」
明日には我が子に会える予感がした。
澄子が言った通り翌日の朝、産気づいて、瑞樹はこの世に生を受けた。
青空が広がり、爽やかな五月の風が吹き抜けていく中、産声をあげてくれた。
窓辺にはスズランが可憐に揺れていた。
瑞樹、この世に生まれきてくれてありがとう。
幸せに、すくすくと成長してくれ。
いつまでもいつまでも。
****
「お兄ちゃん、お兄ちゃん、おーきーて!」
「あ……芽生くん」
とても幸せな夢を見ていた気がする。
僕が生まれてくる日の朝の夢を。
そんな記憶があるはずないのに、窓辺にずずらんの花が揺れて、爽やかな風が吹き抜けていた。
「お兄ちゃん、こっちこっち」
「ん? どうしたの?」
「いいから、いいから」
パジャマ姿のまま、芽生くんの小さな手に引かれてリビングへ行くと……
宗吾さんが窓辺に立っていた。
窓は全開で、五月の爽やかな風が吹き抜けていた。
「パパー お兄ちゃんをつれてきたよ」
「宗吾さん?」
「瑞樹、31歳の誕生日おめでとう! これは俺からのプレゼントだ」
「えっ」
いきなり目の前に差し出されたのは、スズランの花のブーケだった。
こんにちは、志生帆 海です。
2024/05/02は瑞樹の31歳の誕生日です。
定期更新の『冬から春へ』の途中ですが、今日は特別番外編を書かせていただきます。
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31年前、5月1日
「澄子、実はさっき写真集の急な打ち合わせが入ってしまって、今から函館市内まで行ってくるよ」
「まぁ、そうなのね。大樹さん、気をつけてね」
「うーん、今日が出産予定日なのに……君を置いていくのが不安だ」
「大丈夫よ。何かあったら熊田さんもいるし、それに今日ではない予感がするの」
「そうなのか。 おーい、瑞樹、ちょっと待っていてくれよ」
「瑞樹は素直な子だから、きっとあなたの帰りを待ってから生まれてくるわ」
「そうだといいな。それにしても瑞樹っていい名前だな」
「二人で考えた名前よ。ずっと大切に呼んであげたいわね」
「あぁ」
よりによって妻の出産予定日に出掛けないといけないなんて……
しかし、写真集の売り上げで生計を立てているのでやむをえない。
世のサラリーマンには、きっとこのような思いで出社する人も多いのだろう。
澄子の丸いお腹を撫でてやると、お腹の中から瑞樹が静かに挨拶してくれた。
もうすぐ会える。
俺の息子、瑞樹に。
仕事帰り、家に電話すると澄子が出てくれた。
「まだ生まれてないか」
「くすっ、えぇ、気配もないわ。瑞樹も大樹さんの帰りをいい子に待ってるみみたいよ」
「よし、瑞樹にケーキを買っていこう」
「ふふ、私が食べてあげるわ」
ところがケーキ屋はどこも閉店で買えなかった。
それもそうか、もう夜の9時だったのか。
仕方無い……
駐車場に戻ろうと、とぼとぼ歩いていると、駅の近くに店の明かりを見つけた。
近づくと、昔ながらの花屋だった。
こんな時間まで営業しているなんて珍しいな。
薄暗い電灯の下、売れ残った花たちが寂しそうに揺れていた。
店頭の一番端っこに、一際恥ずかしそうに俯いている白く弱々しい花が目にとまった。
君はずすらんか……
君影草という名前の通り、控えめな姿だ。
「いらっしゃいませ」
俺の気配に気付いたようで、店の奥から同年代の男性が出てきた。
「あの、このすずらんを下さい」
そう言って、しまったと思った。
今日はあまり持ち合わせがなかったのに、さっきの打ち合わせでお札は全て使ってしまった。焦ってズボンのポケットを探ると小銭が入っていた。
「あの……これで買えるだけ……下さい」
「……ありがとうございます。今日、5月1日はスズランの日なんですよ」
「知りませんでした」
「フランスでは大切な人にありがとうの気持ちを込めて、この花を贈る日そうですよ。受け取った人には幸運が訪れるそうですよ。日本にはまだ馴染みがなくて今日は沢山売れ残ってしまて……よかったらお客さん、これ全部持っていって下さい」
「えぇ? そんな……申し訳ないです」
「なぁに幸せのお裾分けですよ。私は今、家族に恵まれて幸せなので」
店主が振り返ると、店の奥に可愛い奥さんと5歳くらいの少年が立っていた。なるほど、彼の幸せを見せてもらった。
「実は俺の妻が臨月で……お土産を探していたので嬉しいです」
「そうですか。あなたも、もうすぐお父さんになられるのですね」
「はい」
「父親っていいものですよ。お幸せに」
帰宅後、澄子にすずらんの花束を渡した。
「嬉しいわ。スズランって幸運を呼ぶお花よね」
「知っていたのか」
「えぇ、そして偶然にもフランスでは今日はスズランを贈る日なのよ」
「さすが澄子だな」
「この花は瑞樹にあげましょう。きっと明日受け取ってくれるわ」
明日には我が子に会える予感がした。
澄子が言った通り翌日の朝、産気づいて、瑞樹はこの世に生を受けた。
青空が広がり、爽やかな五月の風が吹き抜けていく中、産声をあげてくれた。
窓辺にはスズランが可憐に揺れていた。
瑞樹、この世に生まれきてくれてありがとう。
幸せに、すくすくと成長してくれ。
いつまでもいつまでも。
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「お兄ちゃん、お兄ちゃん、おーきーて!」
「あ……芽生くん」
とても幸せな夢を見ていた気がする。
僕が生まれてくる日の朝の夢を。
そんな記憶があるはずないのに、窓辺にずずらんの花が揺れて、爽やかな風が吹き抜けていた。
「お兄ちゃん、こっちこっち」
「ん? どうしたの?」
「いいから、いいから」
パジャマ姿のまま、芽生くんの小さな手に引かれてリビングへ行くと……
宗吾さんが窓辺に立っていた。
窓は全開で、五月の爽やかな風が吹き抜けていた。
「パパー お兄ちゃんをつれてきたよ」
「宗吾さん?」
「瑞樹、31歳の誕生日おめでとう! これは俺からのプレゼントだ」
「えっ」
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