1,629 / 1,730
小学生編
冬から春へ 34
しおりを挟む
会社に到着すると、菅野が真っ先に今日の仕事分担表を見に行ってくれた。
相変わらずフットワークが軽いな。
「瑞樹ちゃんは外回りだったよ」
「そうか、ありがとう! 菅野は?」
「俺は内勤だった。お互い今日も頑張ろう!」
「うん!」
菅野と恒例のハイタッチ!
菅野はいつもおおらかで優しいから、一緒にいると元気が出るよ。
日溜まりのような、ぽかぽかな空気に和んだ。
あの日の夜から今日まで、とても長かった。
第一報を受けた段階では恐怖しかなく倒れてしまった。
僕はまだ事故が怖い。
大切な人がまた消えてしまわないか。
そればかり心配してしまう。
だが僕の周りは、誰一人欠けていない。
それが嬉しくて、それが有り難くて、感謝の気持ちで一杯だ。
皆、生かされている。
だから日々感謝なのだ。
生け込みの花材を準備してから、窓際の机にいるリーダーの元に向かった。
「リーダー、今から東銀座に生け込みに行ってきます」
「あぁ、葉山、疲れているところ悪いな」
「大丈夫です。あの、昨日は急に休んで、すみませんでした」
「いや、謝らなくていい。弟さんが無事で良かったな。君はいつも人の何倍も働いているんだから、たまには休め」
「ありがとうございます」
「へぇ、今日はミモザなのか」
「はい、季節を少しだけ先取りしてきます」
「葉山に似合っているぞ」
年間を通して購入できる花が多い中、ミモザが市場に出回るのは12月~4月と期間限定だ。自然に咲く花は天候に左右されるので、切り花のミモザは入手困難になる場合もある。だから店の要望に合わせて、状態の良いミモザが入手出来て良かった。
大きな花材を花束のように抱えて、僕は生け込み作業に出掛けた。
以前から銀座界隈の夜営業のレストランやバーなどの装花を任されており、店伝いの口コミで、有り難いことに、生け込みに行く店も年々増えてきている。
ところで一足早い春の花『ミモザ』をご所望なのは、どのお店かな?
生け込み先の住所を改めて見て驚いた。
『東銀座の桐生ビル』
『BARミモザ』はテーラーの桐生さんの弟、蓮くんのお店だ。まさに今日いっくんと菫さんが行くといっていたので、タイムリーだ。
タイミング良く会えるといいな。
大量のミモザの花束を抱えて銀座の大通りの信号待ちをしていると、通りすがりの人たちから、ちらちらと見られた。視線が集中して少し気恥ずかしくなった。皆、黄色い花に見蕩れているのかな?
「違うな、瑞樹に見蕩れているんだ」
「えっ」
花の向こうに突然宗吾さんが現れて驚いた。
「そ、宗吾さん!」
「よっ! 俺も外回りなんだ」
「びっくりしました」
「遠目にも目立っていたぞ。ミモザを抱える王子様のようで」
「そんなことは……」
「仕事中の君はかっこいいよな」
宗吾さんが僕をちゃんと男として認めてくれているのが伝わってきた。
肉体関係では宗吾さんに抱かれる方だが、宗吾さんは僕をけっして女性のようには扱わず、男として接してくれる。それが密かに嬉しい。
目を細めて宗吾さんが僕を見つめてくれると、自然と笑みが漏れた。
僕はそんな宗吾さんが大好きだ。
人を好きになること、恋をすることは、生きていく上でとても大切なこと。
それを気付かせてくれる人だ。
宗吾さんといると元気になれる。
宗吾さんは僕の人生を豊かにしてくれる人だ。
恋はいつまでも純粋でありたい。
そう願っている。
「瑞樹、俺は向こうに行くよ」
「はい、頑張って下さい」
「瑞樹もな!」
「はい」
宗吾さんと別れて、僕は桐生ビルの地下へと階段を降りた。
黄色いミモザを抱えて――
相変わらずフットワークが軽いな。
「瑞樹ちゃんは外回りだったよ」
「そうか、ありがとう! 菅野は?」
「俺は内勤だった。お互い今日も頑張ろう!」
「うん!」
菅野と恒例のハイタッチ!
菅野はいつもおおらかで優しいから、一緒にいると元気が出るよ。
日溜まりのような、ぽかぽかな空気に和んだ。
あの日の夜から今日まで、とても長かった。
第一報を受けた段階では恐怖しかなく倒れてしまった。
僕はまだ事故が怖い。
大切な人がまた消えてしまわないか。
そればかり心配してしまう。
だが僕の周りは、誰一人欠けていない。
それが嬉しくて、それが有り難くて、感謝の気持ちで一杯だ。
皆、生かされている。
だから日々感謝なのだ。
生け込みの花材を準備してから、窓際の机にいるリーダーの元に向かった。
「リーダー、今から東銀座に生け込みに行ってきます」
「あぁ、葉山、疲れているところ悪いな」
「大丈夫です。あの、昨日は急に休んで、すみませんでした」
「いや、謝らなくていい。弟さんが無事で良かったな。君はいつも人の何倍も働いているんだから、たまには休め」
「ありがとうございます」
「へぇ、今日はミモザなのか」
「はい、季節を少しだけ先取りしてきます」
「葉山に似合っているぞ」
年間を通して購入できる花が多い中、ミモザが市場に出回るのは12月~4月と期間限定だ。自然に咲く花は天候に左右されるので、切り花のミモザは入手困難になる場合もある。だから店の要望に合わせて、状態の良いミモザが入手出来て良かった。
大きな花材を花束のように抱えて、僕は生け込み作業に出掛けた。
以前から銀座界隈の夜営業のレストランやバーなどの装花を任されており、店伝いの口コミで、有り難いことに、生け込みに行く店も年々増えてきている。
ところで一足早い春の花『ミモザ』をご所望なのは、どのお店かな?
生け込み先の住所を改めて見て驚いた。
『東銀座の桐生ビル』
『BARミモザ』はテーラーの桐生さんの弟、蓮くんのお店だ。まさに今日いっくんと菫さんが行くといっていたので、タイムリーだ。
タイミング良く会えるといいな。
大量のミモザの花束を抱えて銀座の大通りの信号待ちをしていると、通りすがりの人たちから、ちらちらと見られた。視線が集中して少し気恥ずかしくなった。皆、黄色い花に見蕩れているのかな?
「違うな、瑞樹に見蕩れているんだ」
「えっ」
花の向こうに突然宗吾さんが現れて驚いた。
「そ、宗吾さん!」
「よっ! 俺も外回りなんだ」
「びっくりしました」
「遠目にも目立っていたぞ。ミモザを抱える王子様のようで」
「そんなことは……」
「仕事中の君はかっこいいよな」
宗吾さんが僕をちゃんと男として認めてくれているのが伝わってきた。
肉体関係では宗吾さんに抱かれる方だが、宗吾さんは僕をけっして女性のようには扱わず、男として接してくれる。それが密かに嬉しい。
目を細めて宗吾さんが僕を見つめてくれると、自然と笑みが漏れた。
僕はそんな宗吾さんが大好きだ。
人を好きになること、恋をすることは、生きていく上でとても大切なこと。
それを気付かせてくれる人だ。
宗吾さんといると元気になれる。
宗吾さんは僕の人生を豊かにしてくれる人だ。
恋はいつまでも純粋でありたい。
そう願っている。
「瑞樹、俺は向こうに行くよ」
「はい、頑張って下さい」
「瑞樹もな!」
「はい」
宗吾さんと別れて、僕は桐生ビルの地下へと階段を降りた。
黄色いミモザを抱えて――
83
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
婚約破棄されまして(笑)
竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です!
(∩´∀`∩)
コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです!
(∩´∀`∩)
イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます!
ご令嬢が婚約破棄される話。
そして破棄されてからの話。
ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。
飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。
そんなワチャワチャしたお話し。な筈!
【完結】待ってください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。
毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。
だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。
一枚の離婚届を机の上に置いて。
ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。
運命の番と別れる方法
ivy
BL
運命の番と一緒に暮らす大学生の三葉。
けれどその相手はだらしなくどうしょうもないクズ男。
浮気され、開き直る相手に三葉は別れを決意するが番ってしまった相手とどうすれば別れられるのか悩む。
そんな時にとんでもない事件が起こり・・。
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる