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小学生編

HAPPY HOLIDAYS 37

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前置き(不要な方は飛ばして下さいね)

今日の前半は瑞樹の弟、夏樹視点です。夏樹はもうこの世にはおらず、天国の世界にいます。そのためファンタジー仕立てになっています。

夏樹のその後は『空からの贈りもの』という同人誌の中で書きました。(同人誌は売り切れてしまい再版予定もないため、BOOTHに以前置いていたダウンロード版を復活させています)https://shiawaseyasan.booth.pm/items/3059188

ざっくり説明すると、大人になり恋をしたいと願う夏樹は神様に試練を与えられ、双葉という男性と出会い、青年の姿になって成長していく。そんな話です。未読の方ごめんなさい…どうしても書きたい大切なシーンでした。




****

 ここは天上のランドスケープ。

 地上に別れを告げた者にだけ許される、雲の上に広がる空間だ。

「夏樹、何を見ている?」
「あ、双葉……あのね、あそこに……」

 俺の恋人、夏樹が指さす方向を見下ろすと、赤い物体が元気よく動いていた。

「位置は夏樹の故郷、北海道の大沼のようだが、あれはなんだ?」
「あれは赤いニット帽だよ。僕のお兄ちゃんとあの坊やが仲良く雪遊びをしているんだ」
「……そうか」
「いいなぁ」

 いつまでも子供のままでいたくない。

 天国でも成長して恋をしたいと願った夏樹だが、今日だけは再び5歳児に戻りたいようだ。そんな想いが溢れている。

 そこに夏樹のお母さんがやってくる。

「夏樹、私を呼んだ?」
「あ、お母さん、どうして?」
「……呼ばれた気がしたの」
「うん、心の中で呼んだよ。そして願った」
「まぁ、何を?」
「お兄ちゃんが赤い帽子を被って遊んでいるんだ」
「まぁ、あれは……あの世で作ることが叶わなかった帽子だわ」
「お母さん……良かったね。お兄ちゃん、もう大丈夫そうだね」
「そうね……でも夏樹は寂しそう」
 
 確かに、いつもは明るく元気一杯の夏樹の目に、元気がない。

「僕は欲張りだよね。せっかく神様に大人の姿にしてもらえたのに、また子供の姿に戻りたいなんて……双葉……ごめん。今だけなんだ。あそこに僕も行きたいよ」
「いいだん。そう願うのも無理はない。夏樹の気持ちはよく分かる」

 抱きしめてやると、夏樹は俺にしがみついて幼子のように泣いた。

「おにいちゃん……あいたいよぅ」
「夏樹……ちょっと待っていてね」

 お母さんは一旦消えて、すぐに戻ってきた。

「夏樹、これを被って。こんな日がいつか来るかもと、密かに編んでいたの。天国は寒くないけれども、心が寂しさに震えた時に暖めてくれるわ」
「お母さん、僕にも編んでくれたの?」
「えぇ、二人に赤い帽子を被せようと毛糸を買い込んでいたのを思い出したの。もう迷子にならないように目立つ色をと……瑞樹には地上で編んでくれるお母さんがいて良かったわ。本当に良かったわ」

 お母さんが涙ぐみながら、夏樹を抱き寄せる。

 すると驚いたことが起きた。

 お母さんが赤いニット帽を夏樹に被せた途端、夏樹の姿がみるみる小さくなった。

 そこに現れたのは神様だ。

「一度成長した身体は元へは戻せない。だから、これは特別だ。夏樹の夢ということにしておこう。ただし声を出した時点で夢は覚める。さぁ、一緒に遊んでおいで。あの輪の中に……地上に咲いた幸せの花の元へ」

 流れ星のようにキラキラと、夏樹の身体は目の前から消えていった。

 やがて地上に三つの赤いニット帽が並ぶ。

 俺はその光景を見て、弟のことを思い出した。

「双葉にも会いたい人がいるのなら、同じことをしてやるぞ」
「いや、俺は進みます。ここで夏樹との恋を深めていきます」
「そうか、それもまた良いものだ」




****

「お兄ちゃん、何を見ているの?」
「あ……うん……空をね、雲の上を見ているんだ」

 ログハウスの庭先に飛び出した途端、僕は不思議な予感に包まれた。

 いつだったか今日のように、弟の夏樹がすぐ傍に来ている気がした。

 そんなはずないのに、そう感じてしまうのは、今日とても夏樹に会いたいからなのか。

「夏樹……お兄ちゃんはここだよ。この帽子が目印だ。さぁ、ここにおいで、一緒に遊ぼう」
 
 両手を大きく開いて空を仰ぐと、また粉雪がちらちらと舞い降りてきた。
 
 一際大きな美しい雪の結晶を抱きしめると……

 さっき僕が作った雪だるまの影に、小さな男の子が顔を出した。

 芽生くんも気づいたらしく、じっとその男の子を見つめた。

 僕の方は……驚き過ぎて声が出ない。

「あっ、やっぱりなっくんだ。いっしょにあーそーぼ」
 
 やっぱり夏樹なのか。

 僕の弟の夏樹が遊びに来てくれるなんて。

 とうとう姿を見せてくれた。

 僕が夏樹を想って作った雪だるまが見せてくれているのか。

 こんなに嬉しい夢を――

 男の子は、タタッと歩み寄って、僕にぴょんと抱きついてくれた。

 あぁ、懐かしい夏樹の匂いがする。
 明るい笑顔も、愛くるしい顔も……何もかも僕が見たかった夏樹だ。

 泣いている場合じゃない。
 この一時を楽しもう。

 赤いニット帽が三つ、ログハウスの庭を元気よく駆け巡る。

 思いっきり雪合戦をした。

 夏樹の声は聞こえないが、大きな口を開けて心から笑っている。 

 雪合戦の後は、夏樹が、よいしょよいしょっと大きな雪だるまを作り出した。

 小さな身体で一生懸命なので、僕と芽生くんも手伝った。

 芽生くんはこの不思議な光景に驚きもせずに、一緒に楽しんでくれる。
 
 それがまた嬉しい。

 雲の上から見てくれていますか。

 お母さん、あなたの叶わなかった夢は今叶いました。

 僕がずっと見たかった夢も、今――

「夏樹も、幸せに暮らしているんだね」

 僕が問いかけると、夏樹はつぶらな瞳で僕を見上げ、大きく頷いた。

 そして僕と芽生くんの手をつないで、ニコニコ最高の笑顔を浮かべてくれた。





(まるさんが赤い帽子を作ってくれました)


 
「おにいちゃん、ありがとう。おにいちゃん、ずっとだいすき!」

 そして、嬉しい言葉を置き土産に消えてしまった。

 今度は寂しくはなかった。

 嬉しさが、僕の心には残った。
 
 もう二度とこの地上では遊べないと思っていたのに、また一緒に雪遊びが出来るなんて。

 はっと我に返ると、芽生くんと手を繋いで空を見上げていた。

「芽生くん……今、僕は夢を見ていたのかな?」
「お兄ちゃんも? ボクはね、なっくんと遊ぶ夢を見ていたよ」

 芽生くんの心にも、夏樹との思い出が出来たということなのか。

 幸せな想い出に塗り替えてくれたんだね。

 夏樹、ありがとう!

 お兄ちゃんも夏樹が大好きだよ!

 もう過去形にはしない。

 いつかまた会えるから。


 
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