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小学生編
HAPPY HOLIDAYS 18
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「うぉぉ、やっぱり函館は寒いなー 流石、北海道だ」
宗吾さんが駐車場で外気に触れた途端、ブルブルと震えだした。
「ははっ、宗吾はそんなに寒いのか。今年は暖冬で、もう春先みたいだと地元民は言ってるのに」
広樹兄さんがその様子を見て、苦笑した。
確かに僕もそう思う。
過去には、もっともっと厳しい冬があった。
歯を食い縛らないと、まともに歩けない日も多々あった。
今の僕の気持ちが春のようにポカポカだからと思ったが、実際の気候もそうらしい。
「えー マジか! 瑞樹も寒くないのか」
「ええっと、そうですね。この程度の寒さは序の口です」
「そっか、じゃあ芽生は?」
「えっへん! ボクは子供だから大丈夫! パパ、あのね、子供って風の子、元気な子なんだって」
「あっ、それは母さんの口癖だな。昔から真冬でも外で遊べと五月蠅かったな。俺はさ、子供の頃から寒がりなんだよー だからウィンタースポーツは積極的にしなかった」
そうか、そうだったんだ。
確かに宗吾さんは、かなり寒さに弱そうだ。スポーツ万能の人がウィンタースポーツをやって来なかったのが不思議だったが、納得だ。
黒いダウンを着た宗吾さんが腰を丸めてのっそりのっそりと歩いているので、兄さんと苦笑してしまった。
これは相当な寒がりやさんだな。
大沼のログハウスは古い建物だから隙間風もあるだろうに、丈夫かな?
「宗吾が寒い寒いと連呼するだろうから、わざわざ空港まで車で迎えに来てやったんだぞ」
「お兄ちゃんだね、気にかけてくれてありがとう」
「なぁに、一番は瑞樹に会いたかったからさ。そう言えば、瑞樹を頻繁に車で送迎してやったよな」
「うん、お兄ちゃんが高校卒業して免許を取ってから、よく乗せてもらったよ」
「あの頃も今も瑞樹を乗せて走るのが、嬉しいのさ」
お兄ちゃんは僕が凍えそうな時、いつも手を差し伸べてくれた人だ。
「ありがとう。僕もいつも嬉しかったよ。迎えに来てくれてありがとう」
「さぁ、乗って。後部座席に暖かいブランケットを敷いておいたぞ」
「おぉ、サンキュ! 芽生、パパと後ろに乗るぞ。ついでに芽生で暖を取ろう」
「もうパパってば、しゃんとしてよ」
「はは、母さんそっくりだな」
和やかな会話を繰り広げながら、兄さんが運転する車は、一路大沼公園方面へ進み出した。
久しぶりの雪道、懐かしい函館の町並み。
市内に住んだのは10歳から18歳までの8年間だったが、ここでの生活を経て、今の僕がいる。そしてここでの生活が、僕に再び両親という存在を作ってくれた。
「なぁ瑞樹」
「なぁに? 兄さん」
「俺たちの母さんは最近、随分幸せそうだな」
「うん、僕もそう思うよ」
「良かったな、母さん」
「うん」
運転席の兄さんは、相変わらず髭を生やして精悍な顔立ちだ。
凜々しい顔立ちやがっしりした体格から、頼る側ではなく頼られる側に徹してきた兄さんだが、兄さんだって時には誰かに甘えたかったはずでは?
そんなことをふと思った。
僕の心に余裕が出来たからなのかな?
「あのさ、瑞樹……父さんってさ、俺よりも体格良くて格好いいから、つい甘えてしまうんだ。こんなこと不慣れで戸惑っているが、けっして悪いことじゃないよな?」
「うん、くまさんはすごく頼れる人だよ。それに誰かに甘えてもらうのがとっても好きなんだ。だからそれでいいと思う」
「そうか、これでいいのか。そうしてもいいのか」
兄さんが遠慮がちに言うので、大きく頷いてあげた。
「……兄さんも帰省しないの?」
「今日はな。明日まで、みっちゃんの実家のご厄介になるから、三日に合流しよう」
「よかった。じゃあ後でゆっくり会えるんだね」
「瑞樹たちが帰るのは4日だろう?」
「うん、宗吾さんがギリギリまでのんびりしようって言ってくれて」
「そうか、瑞樹は本当にいい人と知り合ったな。お前にぴったりの相手だ」
兄さんに太鼓判を押してもらえて、本当に嬉しいよ。
「瑞樹、よく来てくれたな。俺は店があるから父さんたちのようには駆けつけてやれないが、ずっと会いたかったよ」
「うん、僕もお兄ちゃんにずっといたかった」
僕と兄さんは相当なブラコン同士だと思う。
それを含めて僕を愛してくれる宗吾さんだから、僕も30歳を過ぎても尚、こんな風に甘えたことを言える。
後部座席から声がする。
「瑞樹と広樹の兄弟愛は最高だ!」
「はは、宗吾は本当にいい奴だ。どうだ寒気は引いたか」
「あぁ、二人の会話でぽかぽかになった」
「ボクもぽかぽか、ちゃたを抱っこしている時みたいに、心がふわふわだよ」
「ちゃた?」
「兄さん、実は宗吾さんのご実家でトイプードルを飼うことになったんだ」
「へぇ、可愛いだろうな。瑞樹みたいに」
「ピンポーン!」
「その通りだ」
宗吾さんと芽生くんが、どんどん会話に乗ってくる。
「広樹には、あとで写真を見せてやる! 本当に瑞樹みたいに可愛いわんこだー!」
「パパ、どうどう~」
「宗吾さん、落ち着いて下さい。運転に支障が」
「はははっ! お前たちは、やっぱりいいコンビだな」
笑いが絶えない車中。
みんなが機嫌良く、みんなが明るく賑やかだ。
一人一人の心配りが、和やかな場を生み出すのだとしみじみと思った。
「お、見えてきたぞ」
「あ、お父さんが出てきた! お母さんも」
「車の音で気づいたんだろう」
「そうか……待っていてくれたんだね」
「当たり前だ。可愛い息子の帰省だ。きっと耳を澄ましていたのだろう」
「……幸せな音が……聞こえたのでしょうか」
お父さんとお母さんに、幸せを届けにきた。
こんな風に思える、こんな風に言える自分に驚いた。
「あぁ、きっとそうだ」
宗吾さんの心強い声に、後押しされる。
このままでいい。
このまま進もう。
明るい方に向かって――
宗吾さんが駐車場で外気に触れた途端、ブルブルと震えだした。
「ははっ、宗吾はそんなに寒いのか。今年は暖冬で、もう春先みたいだと地元民は言ってるのに」
広樹兄さんがその様子を見て、苦笑した。
確かに僕もそう思う。
過去には、もっともっと厳しい冬があった。
歯を食い縛らないと、まともに歩けない日も多々あった。
今の僕の気持ちが春のようにポカポカだからと思ったが、実際の気候もそうらしい。
「えー マジか! 瑞樹も寒くないのか」
「ええっと、そうですね。この程度の寒さは序の口です」
「そっか、じゃあ芽生は?」
「えっへん! ボクは子供だから大丈夫! パパ、あのね、子供って風の子、元気な子なんだって」
「あっ、それは母さんの口癖だな。昔から真冬でも外で遊べと五月蠅かったな。俺はさ、子供の頃から寒がりなんだよー だからウィンタースポーツは積極的にしなかった」
そうか、そうだったんだ。
確かに宗吾さんは、かなり寒さに弱そうだ。スポーツ万能の人がウィンタースポーツをやって来なかったのが不思議だったが、納得だ。
黒いダウンを着た宗吾さんが腰を丸めてのっそりのっそりと歩いているので、兄さんと苦笑してしまった。
これは相当な寒がりやさんだな。
大沼のログハウスは古い建物だから隙間風もあるだろうに、丈夫かな?
「宗吾が寒い寒いと連呼するだろうから、わざわざ空港まで車で迎えに来てやったんだぞ」
「お兄ちゃんだね、気にかけてくれてありがとう」
「なぁに、一番は瑞樹に会いたかったからさ。そう言えば、瑞樹を頻繁に車で送迎してやったよな」
「うん、お兄ちゃんが高校卒業して免許を取ってから、よく乗せてもらったよ」
「あの頃も今も瑞樹を乗せて走るのが、嬉しいのさ」
お兄ちゃんは僕が凍えそうな時、いつも手を差し伸べてくれた人だ。
「ありがとう。僕もいつも嬉しかったよ。迎えに来てくれてありがとう」
「さぁ、乗って。後部座席に暖かいブランケットを敷いておいたぞ」
「おぉ、サンキュ! 芽生、パパと後ろに乗るぞ。ついでに芽生で暖を取ろう」
「もうパパってば、しゃんとしてよ」
「はは、母さんそっくりだな」
和やかな会話を繰り広げながら、兄さんが運転する車は、一路大沼公園方面へ進み出した。
久しぶりの雪道、懐かしい函館の町並み。
市内に住んだのは10歳から18歳までの8年間だったが、ここでの生活を経て、今の僕がいる。そしてここでの生活が、僕に再び両親という存在を作ってくれた。
「なぁ瑞樹」
「なぁに? 兄さん」
「俺たちの母さんは最近、随分幸せそうだな」
「うん、僕もそう思うよ」
「良かったな、母さん」
「うん」
運転席の兄さんは、相変わらず髭を生やして精悍な顔立ちだ。
凜々しい顔立ちやがっしりした体格から、頼る側ではなく頼られる側に徹してきた兄さんだが、兄さんだって時には誰かに甘えたかったはずでは?
そんなことをふと思った。
僕の心に余裕が出来たからなのかな?
「あのさ、瑞樹……父さんってさ、俺よりも体格良くて格好いいから、つい甘えてしまうんだ。こんなこと不慣れで戸惑っているが、けっして悪いことじゃないよな?」
「うん、くまさんはすごく頼れる人だよ。それに誰かに甘えてもらうのがとっても好きなんだ。だからそれでいいと思う」
「そうか、これでいいのか。そうしてもいいのか」
兄さんが遠慮がちに言うので、大きく頷いてあげた。
「……兄さんも帰省しないの?」
「今日はな。明日まで、みっちゃんの実家のご厄介になるから、三日に合流しよう」
「よかった。じゃあ後でゆっくり会えるんだね」
「瑞樹たちが帰るのは4日だろう?」
「うん、宗吾さんがギリギリまでのんびりしようって言ってくれて」
「そうか、瑞樹は本当にいい人と知り合ったな。お前にぴったりの相手だ」
兄さんに太鼓判を押してもらえて、本当に嬉しいよ。
「瑞樹、よく来てくれたな。俺は店があるから父さんたちのようには駆けつけてやれないが、ずっと会いたかったよ」
「うん、僕もお兄ちゃんにずっといたかった」
僕と兄さんは相当なブラコン同士だと思う。
それを含めて僕を愛してくれる宗吾さんだから、僕も30歳を過ぎても尚、こんな風に甘えたことを言える。
後部座席から声がする。
「瑞樹と広樹の兄弟愛は最高だ!」
「はは、宗吾は本当にいい奴だ。どうだ寒気は引いたか」
「あぁ、二人の会話でぽかぽかになった」
「ボクもぽかぽか、ちゃたを抱っこしている時みたいに、心がふわふわだよ」
「ちゃた?」
「兄さん、実は宗吾さんのご実家でトイプードルを飼うことになったんだ」
「へぇ、可愛いだろうな。瑞樹みたいに」
「ピンポーン!」
「その通りだ」
宗吾さんと芽生くんが、どんどん会話に乗ってくる。
「広樹には、あとで写真を見せてやる! 本当に瑞樹みたいに可愛いわんこだー!」
「パパ、どうどう~」
「宗吾さん、落ち着いて下さい。運転に支障が」
「はははっ! お前たちは、やっぱりいいコンビだな」
笑いが絶えない車中。
みんなが機嫌良く、みんなが明るく賑やかだ。
一人一人の心配りが、和やかな場を生み出すのだとしみじみと思った。
「お、見えてきたぞ」
「あ、お父さんが出てきた! お母さんも」
「車の音で気づいたんだろう」
「そうか……待っていてくれたんだね」
「当たり前だ。可愛い息子の帰省だ。きっと耳を澄ましていたのだろう」
「……幸せな音が……聞こえたのでしょうか」
お父さんとお母さんに、幸せを届けにきた。
こんな風に思える、こんな風に言える自分に驚いた。
「あぁ、きっとそうだ」
宗吾さんの心強い声に、後押しされる。
このままでいい。
このまま進もう。
明るい方に向かって――
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