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小学生編

HAPPY HOLIDAYS 14

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 大晦日の夜。

 腕まくりして食器を茶碗を洗っていると、母がやってきた。

「宗吾、そろそろ芽生、寝ちゃいそうよ」
「やっぱり年越しは、まだ厳しいか」
「そうね。今年の歌番組は憲吾世代の懐メロが多くて、芽生にはちょっと難しかったみたいね」
「だな。そうだ、芽生はちゃたのお世話をちゃんとしているか」
「えぇ、トイレトレーニングやご飯のお手伝いもしてくれているわ。大変だろうけど、ずっと笑顔を浮かべて、ご機嫌よ」
「そういう母さんも、ご機嫌だな」
「ふふ、だって可愛いんだもの」

 ちゃたは皆を笑顔にしてくれる。

 兄さんもちゃたを抱くと、デレデレになる。

 美智さんもあーちゃんも目を輝かせている。

 俺たちに共通の愛おしい存在がいるっていいな。

 滝沢家がまた一つ団結していくようだ。

「瑞樹は大晦日も遅いの?」
「たぶん……ちょっと確認してみる」

 柱時計を見上げると、もう23時を回っていた。

 瑞樹は今宵は表参道で、正月飾りの装飾作業に立ち会うと話していた。

 どうやら今日も遅くなってしまうようだな。12月に入ってから、ずっとこんな感じで、日に日に疲れていくのが手に取るように分かった。

 だが今日が終われば、正月休みだ。

 君を北の大地に連れて行く。

 だから頑張れ!

 同じ男として、エールを送る。

 君のパートナーとして、愛を送る。

 そこにメールが届く。

「宗吾さん、終わりました。今から帰ります。年内に戻れるように頑張りますね」

 うーん、おそらく頑張り屋の君だから、手を抜かず最後まで作業を見守ったのだろう。うーむ、健気な君だから、どんなに疲れていても年内に戻ろうと努力するのだろう。

 そのまま炬燵に行くと、芽生が大欠伸をしていた。

「ん……パパぁ、お兄ちゃんまだぁ? ボク……まちくたびれちゃったよ」
「あぁ、さっき仕事が終わったらしいよ」
「えっ、こんなおそくまで? たいへんなんだね。はたらくって」
「そうだな、瑞樹はいつも頑張っているよ」
「うん。それはパパもだよ」
「芽生……」
「ボクも今日はちゃたのおせわいっぱいしてね、誰かのために何かをするのって、とっても大変なんだなっておもったよ」
「へぇ、そこに気付けるなんて、芽生も頑張ったな」

 芽生のさらさらな黒髪を撫でてやると、とろんとまどろみだした。

 これは、あと数分で寝てしまいそうだな。

 こうなってしまうのを見越して、もうパジャマで歯磨きも済ましておいた。だから俺は芽生をそっと抱き上げて、父の部屋に敷いた布団に寝かせてやった。

 部屋には既に布団が川の字で並んでいる。

 ここは、幸せな寝床だ。

「……ん……パパぁ、ボクはだいじょうぶだから……お兄ちゃんをお迎えにいってあげて……外は寒いし、夜ひとりはさみしいよ。大好きな人にお迎えに来てもらえるのって、すごくうれしいんだよ」
「芽生……」
「ボクもお兄ちゃんが大事だから……」
「ありがとう。パパもそうしたいと思っていたんだ。よし! パパが今から迎えに行ってくるよ」
「うん! そうでなくっちゃ」

 玄関に行くと、母が俺にコートを持ってきてくれた。

「やっぱり瑞樹を迎えにいくのね」
「あぁ、もう遅いし、一人で年越しをさせたくないからな」
「そうでなくっちゃ! 流石私の息子だわ」
「宗吾、こっちは大丈夫だから、瑞樹とゆっくり年越しをしてこい」
「いいのか……兄さん、母さん、サンキュ!」

 俺は勢いよく師走の街に飛び出した。

 外は流石に冷えていたが、母が優しく応援してくれる。兄がどんと構えて家を守ってくれる。

 それが伝わってきて、心がぽかぽかだった。


****

 宗吾さんの背中、広くて大きくて温かい。
 
 暗い夜道、ボクはずっと宗吾さんの背中に頬をあてて、身体を預けていた。

「……本当は……ヘトヘトだったんです」
「あぁ、そうだろうな」
「満員電車は……苦手なままです」
「頑張ったな」
「……もう……歩けません」
「あぁ、俺がいるから大丈夫だ」

 弱音を吐ける人。

 甘えられる人。

 それが宗吾さんだ。

 新年を彼の背中で思い出の場所で迎えられただけでも感激なのに、僕を背負ったままゆっくり歩き出す宗吾さんの姿に揺さぶられていると離れがたくなってしまった。

「離れ難いですね」
「俺もだ、今日からしばらくずっと一緒だ。ずっと傍にいてくれ」
「はい、そうします」

 とても静かで優しい年越しだった。

 こんな風に宗吾さんとは年を重ねていきたい。

 そう心から願っている。

 僕をいつも穏やかな心にさせてくれる人。

 それが宗吾さんという人。

 僕の幸せな存在だ。





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