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小学生編

HAPPY HOLIDAYS 11

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 クリスマスも終わり、芽生は冬休みに入った。

「よし、芽生、行くぞ」
「あれ? お兄ちゃんは?」
「もう出たよ。この時期は忙しくてな」
「そっか、お兄ちゃん、がんばっているんだね」
「あぁ、そうだな。芽生も頑張っているぞ」

 今日は学童保育は休ませ、母の家に朝から連れて行くことになっていた。

 瑞樹は一足先に出社したので、久しぶりに父と子の時間到来だ。

「母さん、おはよう! 今日は芽生をよろしく頼むよ」
「もちろんよ」
「おばあちゃん、おはよう! わんちゃんのおうち出来た?」
「えぇ、もう準備万端よ」

 父が使っていた部屋に、いつの間にか焦げ茶のケージが設置されていた。中にはトラベルキャリーにトイレまで! もう完璧だな。

「わぁ、すごい。おばあちゃん、ありがとう」
「憲吾が全部手配してくれたのよ。あとはわんちゃんをお迎えに行くだけよ」
「うん! ボク、お勉強いっぱいしてきたよ。でもわんちゃんは生きているからね、ご本通りにいかないこともあると思うんだ。そのときは、わんちゃんの気持ちに寄りそってみようと思うんだ」
「まぁ、芽生は優しい子ね」

 芽生はサンタクロースにもらった本を大事にそうに抱えて、キラキラした目で語っている。

 いい顔だな。

 夢と希望が、今の芽生には一杯詰まっている。

 離婚した当初、二人で必死に暮らしていた時は、こんな顔はしていなかった。いつも寂しそうで悲しそうで……つまらなそうで……見ていられなかった。

 だが瑞樹と出逢い、瑞樹の優しさに触れて、芽生もどんどん変化した。小さな事に感謝できるようになり、相手の気持ちを大切に出来るようになった。

「兄さんは?」
「ペットショップで待ち合わせしているわ。仕事を切り上げてくれるそうよ」
「へぇ、こんな時は兄さんが羨ましいよ。自分の事務所を構えて融通が利くんだな」
「そうね。でも宗吾も頑張っているわ。あなたの仕事は派手な分、浮き沈みも激しく、人間関係もきつくて疲れるでしょう。いつもお疲れ様」

 母が俺の仕事内容に触れるのは珍しい。

 父や兄だけでなく、親戚には学者や医者や弁護士、公認会計士とお堅い職業ばかりで、広告代理店に就職が決まった時、誰にも理解してもらえなかった。

「……珍しいな、母さんがそんなこと言うなんて」
「そうだったかしら? いつもあなたのことをちゃんと見ているわ。お父さんだって、さり気なくあなたが携わった広告を集めたりしていたのよ」
「……参ったな。今頃聞かされても……お礼を言えないじゃないか」
「あら、遅いなんてことないわ。ちゃんと届くわよ。お父さんにも」

 耳を澄ませば、心を集中すれば、俺にも聞こえるだろうか。

 俺にも会えるのだろうか。

 もう一度父さんに――

 瑞樹のように、もう二度と会えない人を身近に感じることが出来るのだろうか。

「パパ、わんちゃんがきたらおじいちゃんもよろこんでくれるよ。おじいちゃん、わんちゃんが大好きだったらしいから」
「芽生……」
「だからおじいちゃんがパパの近くにきてくれるよ」
「ありがとうな」

 幼い芽生にどこまで分かっているのか。

 だが俺は芽生の優しさに感激した。

 瑞樹が蒔いてくれた優しさが、今、花開いているのだな。

……

「おじさーん、こんにちはー」
「よく来たな。さぁペットショップに行こう」

 今日いよいよ母さんが一目惚れした犬、芽生が可愛いと言ってくれた犬を滝沢家の家族の一員として迎える。

 さぁ、お迎えの手続きに行こう!

 これは生半可な気持ちではない。

 皆が責任を持って育てることが、第一条件だ。

「芽生、トイプードルのこと、しっかり勉強してきたか」
「うん、サンタさんにもらったご本を何度も何度も読んだよ。でもね……」
「そうか、本は正しい知識が書いてあるからいいことだ」
「あ……うん……」

 芽生が口ごもる。

「なんだ? 言ってみろ」
「あのね……おじさん、ごめんなさい。ボクはね、ご本通りいかないこともあると思って……」
「ん? どうしてそう思う?」
「だって、みんな生きているから……一匹一匹違うよって思うの」

 芽生の言葉にはっとした。

 それは俺がつい最近まで忘れていたこと、机上の空論に支配されていた時は、気付けなかったことだ。

「その通りだな。芽生は良いことに気付けたな。おじさんは芽生になら任せられそうだ」
「本当? おじさん、ボクまだ小さいけど、わんちゃんを大切に思う気持ちは大人と同じだよ」
「そうだな。おじさんにも伝わってくるよ。芽生、いい子に成長しているんだな」

****

 芽生を隣りに座らせて、犬を抱っこさせてあげた。

「芽生、このワンちゃんをおばあちゃんと一緒に育ててくれる?」
「おばあちゃん、ボク、すごくうれしいよ。ありがとう」

 一人っ子の芽生。

 両親が離婚してから、いつも放課後スクールで頑張っている芽生にとって、きっとこのわんちゃんは大事な存在になるでしょう。

「早速、お名前をつけないとね。芽生は何がいい?」
「あ、あのね……ボクずっと考えていたの。言ってもいい?」
「まぁ、なにかしら? もちろんよ、教えて」
「あのね……『ちゃた』はどうかな?」
「ちゃた? 可愛い名前ね。でも、どうしてつけたの?」

 最初から芽生に名付け親になってもらうつもりだったの。いつも頑張っている芽生に、おばあちゃんからのクリスマスプレゼントよ。私に出来ることは、何でもしてあげたい気分なの。

 それほどのまでに、あなたは優しくて可愛い孫なのよ。

「あのねこの子は茶色い犬だから『ちゃた』がどうかな? ただそれだけなんだけど、みんなが言いやすくて覚えやすい名前がいいなって思ったの」
「まぁ、やっぱり芽生は可愛い孫ね。おばあちゃまでも迷わず言えるし、もう覚えられたわ。ちゃた……かわいい名前ね。それに決定よ」

 芽生の名付け方が気に入ったの。

 皆のことを考える優しさが好き。

 瑞樹譲りの人として可愛らしい面を、あなたはしっかり持っているわ。

 わんちゃんも可愛いけれども、おばあちゃまにとって芽生は最高に可愛い孫なのよ。

 私の命が続く限り、傍で見守りたい孫なのよ。

 ちゃた、今日から芽生のことしっかり見守ってね。

 私たちもしっかりあなたのことを守り、育てるから。


 


****

志生帆海です。
今年も1年間『幸せな存在』を読んで下さってありがとうございます。
途中連載をストップしてしまうこともありましたが、大晦日の今日まで更新出来て良かったです。
来年の春には『幸せな存在』5周年記念本を同人誌で出す予定です。
また随時こちらでも、お知らせしていきますね。
来年もどうぞよろしくお願いします。2023/12/31

 

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