上 下
1,556 / 1,730
小学生編

HAPPY HOLIDAYS 7

しおりを挟む
 サンタさんからのプレゼントを抱きしめて大喜びの芽生くんに、朝から元気をもらった。

 芽生くんには、出来るだけ長くサンタさんの存在を信じていて欲しいな。

 そう願ってしまうのは何故だろう?

 夢見ることを忘れないで欲しいから……

 夢を抱く力があれば、小さな幸せを見つけやすくなると思うんだ。

 夢を抱くことは人生にとって大切なことだ。 

 夢を実現するための努力が、人生は輝かせる秘訣なのかもしれない。

 僕は最近そんなことを考えるようになった。

 小さな芽は、幸せな芽。

 明るい気持ちで世の中を見渡せば、世界は明るくなる。

 逆に暗くひねくれた気持ちだと、世界は暗いままだ。

 僕は恥ずかしながら……ずっと後者だった。

 どうせ僕なんて生きている価値がないと思い込み……いつも一歩退いて、影に埋もれることを選んでしまっていた。

 あの頃は小さな幸せに気付けず、暗い顔ばかりしていた。

 広樹兄さんがいつもそんな僕を笑わせようと必死になってくれ、お母さんも根気よく僕が打ち解けるのを待ってくれた。

 大沼のお母さんからのプレゼントを開けると、優しいペパーミントグリーンの手編みのソックスが入っていた。宗吾さんと芽生くんにも色違いで届いた。

「靴下は暖かくて重宝するよ」
「はい、あの……これ……僕のお母さんが一針一針編んでくれたんです」
「あぁ、瑞樹のお母さんの……息子達の幸せを願う心が込められているよ」
「はい。お母さんはずっと忙しくて、気付けなかったけれども、編み物やお菓子作りが得意で好きなんです」
「そうみたいだな」
「もっと早く気付いてあげたかったな」

 つい、しょぼんとすると、宗吾さんに背中を軽く叩かれた。

「瑞樹、今だからいいんだよ! 愛するくまのお父さんにも作ってあげられるし、家族も増えて腕を振るうチャンス到来だ。小さな靴下も大きな靴下もあって、作るのが楽しそうだ」
「宗吾さん……」

 宗吾さんは本当にいつも前向きで明るい。

 物事をポジティブに捉えることが出来るのが眩しい。

 ネガティブになってしまう僕を引っ張ってくれる人だ。

「僕は宗吾さんのおかげで、明るい方を向けるようになりました。宗吾さん……改めてMerry Christmas! その……昨日はありがとうございます」
「俺こそ瑞樹のおかげで優しさを知った。こちらこそありがとう。それから抱かせてくれてありがとう。身体の負担になってないか」
「はい、大丈夫です。あの……昨日は少し手加減していましたよね」

 僕たちは23日ゆったりした休日を過ごし、時計の針を跨いで抱き合った。

 最後まで宗吾さんがさり気なく僕を労ってくれたのに、気づいていた。

 本当に優しい人だ。

 25日が終われば、徹夜でクリスマス装飾の撤収作業の助っ人に入る。昨今の人手不足、もうこれがスタンダードになっている。だから手加減して抱いてもらえて助かった。

 僕の方も宗吾さんに触れたくて触れたくて、限界だったから求めてしまったが……翌日のことを考えると少し不安だったから。

「手加減はもちろんしたよ。瑞樹が大事だからな。欲望のままに自分の都合だけで暴走はしないよ」
「ありがとうございます。もうすぐ仕事もピークを越えますので……お正月はゆっくり過ごせますので……その……」
「あぁ、今年は大沼で正月だ。くまさんの家は部屋同士で音漏れしないかな」
「え? あ……二階の部屋は……たぶん、って何を言わせるんですかー また」
「ははっ、リサーチだよ。事前準備さ」
「も、もう――くすっ」

 こんな時も笑いが絶えないのが僕たちらしい。

「パパ、いってきまーす」

 今年は25日が月曜日。

 芽生くんが終業式へ、僕たちは仕事に出発だ。

 今日も小さな幸せに感謝して過ごそう。
 
 
****

「芽生ー おはよ」
「おはよ!」
「なぁ、サンタさん来てくれた?
「うん、お願いしたものをプレゼントしてもらえたよ」
「えっ、じゃあ本当に犬が来たのか」
「違うよ。犬はおばあちゃんの家で飼うことになったから、ボク、いっぱいお手伝いするんだ。そのために勉強もするよ。犬の気持ちに寄り添いたいしね」

 胸を張って言うと、お友達も嬉しそうに笑ってくれた。

「へぇ、よかったな。実は……どうなるかなって心配してたんだ。へんなこというヤツがいたからさ」
「ううん、大丈夫。ボクはひとりじゃないから」
「そうか、よかったな。おれんちも、おばあちゃんちでワンコ飼ってるよ。いっしょに散歩に行くの、たのしいぞ」
「ほんと? たのしみだなぁ。早速お勉強しないと! 冬休みはおばあちゃんちで過ごそうかな」

 えへへ、楽しいな。
 
 みんなのわんちゃんっていいな。

****

「瑞樹ちゃん、おはよ!」
「菅野、おはよう」

 僕たちはお互いの顔色を見て、微笑んだ。
 
 とても血色が良いのに、とても眠そうだ。

「瑞樹ちゃん、もしかして寝不足?」
「うーん、少しね。そういう菅野だって寝不足だよね?」
「まぁな」
「お寺のクリスマスは、どんな感じだった?」
「それがさぁ、クリスマスっぽいものは皆無だと思ったのに、流さんが緑の針葉樹と南天でリースを作って山門に飾てくれたので、雰囲気があって良かったよ」

 想像したら、流さんの溌剌とした笑顔が見えた。

「そうだ! クリスマスケーキはどんなのだった? まさかクリスマスまであんこじゃないよね?」

 好奇心があって聞いてしまった。

「それがさ、ふわふわしっとりのシフォンケーキ生地に小豆ホイップクリームを塗って巻いたロールケーキを、流さんから差し入れてもらったんだ。めちゃくちゃ美味しかった」
「くすっ、小森くんは流さんにも溺愛されているね」
「流さんだけじゃないぜ。翠さんも山のようなプレゼントを抱えてきたし」
「くすっ、小森くんと二人きりの時間はちゃんとあった?」
「夜になったら二人は離れに行ってしまって……それはもう、ごっくん」
「菅野、涎出すなよ」
「へへ、そういう瑞樹ちゃんだって」

 親友とのろけ話をするクリスマスの朝。

 うん、こんな日常も幸せだ。

 愛溢れる日々を、僕は生きている。

 感謝しながら進んでいこう。

 この道で間違いないのだから。

 クリスマスの朝、世界が明るく輝いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

処理中です...