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小学生編

秋色日和 34

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「次は3年生によるダンス『ハロウィンかぼちゃと真っ黒おばけの対決』です。一つ上級生になった子供たちが、元気に仲良く踊ります!」

 アナウンスと共に、陽気な音楽が流れる。

 校庭に大きく広がった児童が、オレンジ色のかぼちゃグループと、真っ黒なおばけグループに分かれていた。

「おぉ! 芽生、目立つな。瑞樹が買ったトレーナーは色鮮やかで、よく似合っているな」
「嬉しいです。こんな風に思い出のワンシーンで着てもらえるなんて」
「芽生も喜んでいるよ。芽生は明るい色が好きだから」

 わぁ、可愛いダンスだね。

 対決といっても可愛いダンスをしながら、おしくらまんじゅうのような動きを繰り返すのか。

 どの子も大空に向かって大きく手を伸ばして、元気いっぱいだ。

 生きてるって素晴らしいこと。

 みんなと一緒にいられるって幸せなこと。

 笑顔には笑顔を返そう。

 そうすれば皆笑顔になっていくね。

 僕はファインダー越しの世界を、口角を上げながら見つめ夢中でシャッターを切った。

 芽生くんのダンスとても上手だ。
 
 一際大きく手足を動かして、生き生きしている。

 僕たちが来ているのを知っているからか、僕たちが見えるようで、時折こちらに向かってニコッと笑ってくれる。

 胸の奥がその度にキュンとする。

「芽生、可愛いなぁ」
「はい、素直で優しくて明るくて本当にいい子です」
「ありがとう、君のおかげだよ」
「そんな」

 僕と宗吾さんの会話を、お母さんと憲吾さんと美智さんが嬉しそうに見守ってえくれている。

 憲吾さんに抱かれたあーちゃんもキラキラな目をして、憲吾さんに顔を近づけては砂糖菓子のような甘い笑顔でおしゃべりをしている。

 本当にすっかり言葉が上手になったな。 女の子の方が言葉が早いのかな?

「パパぁ、めーくん、かっこいいねっ」
「あぁ、芽生は自慢の甥っ子だからな」
「あーちゃん、めーくん、しゅき」
「そうだな、パパの次にな」
「うん、パパぁ、だいしゅき~」

 二人の会話に、今度は宗吾さんと顔を見合わせて笑顔になってしまう。

 まるでお姫様の王子様のような甘い会話に照れてしまうよ。

 美智さんは堅物だった憲吾さんの変わりように驚きつつも、嬉しそうだ。

 最後はオレンジのカボチャとおばけが最後は仲良く手をつないで、退場していった。

「3年生のダンスはいかがでしたか。かぼちゃとおばけ、見た目は全然違いますね。子供たちもそうです。一人一人が個性を持っていてバラバラです。でも互いに一歩ずつ歩み寄れば、仲良くなれるのです。それをダンスで表現してみました!」

 先生のアナウンスに、僕は大きく頷いた。

 同感です、先生。

 僕も宗吾さんと知り合ってから、毎日のようにそう思っています。

 互いを大切にするために歩み寄っています。
 
 これからもずっとずっとそうするつもりです。

 僕はこの世界が好きになりました。
 
 花が咲き、風が吹き、歌が聞こえるこの世界が――

 愛おしいのです。



****

 保育園の運動会は赤ちゃんもいるので、昼食の後、ほどなく終了した。

 いっくんは身体を思いっきり動かして疲れたようで、お迎えに行くと、そのままオレの腕の中に倒れ込み、すやすやと眠ってしまった。

 愚図ることもなく、ギリギリまで我慢していたのだろう。オレの顔を見た途端、安心しきった顔になったのが印象的だった。

 ずっと誰かを怖がらせるだけの存在だったオレに、いっくんは真っ直ぐな愛を注いでくれる。

 愛は注ぎ合うものなんだな。

 子供からも親からも、兄弟からも友人からも。
 
 兄さんが話してくれた言葉を思い出す。

……

「じゅーん、歩み寄ってくれてありがとう」
「歩み寄る?」
「うん、僕たちが一歩ずつ前進したから、今こうやって仲良く手を繋げたんだよ」
「……なんとなく分かる」
「潤は可愛い弟だよ。ずっとこんな風に潤に愛を注ぎたかった」
「兄さん」

……

 兄さんが優しい人だってことは、ずっと前から知っていた。

 最初から知っていた。

 近くに寄れたら心地良いだろうとずっと憧れていたのに、素直になれなくてごめん。



 いっくんを抱っこしたまま家族の元に戻ると、皆帰り支度をして待っていてくれた。

「あらあら、いっくん、やっぱり寝ちゃったのね」
「今日は朝から頑張っていたからな」
「可愛いわね、本当にまだ小さくて可愛いわ」

 すみれも父さんも母さんも、いっくんの寝顔を見て目を細めていた。

「潤とすみれさんも今日は疲れたでしょう」
「父さん、母さん、遠くから来てくれてありがとうございます。もう帰ってしまうのですか」
「あとは水入らずで過ごしてね。あのね、槙くんにこれをあげようと思って持ってきたのよ」

 母さんからもらったのは虹色の7色のスタイだった。

「可愛いな」
「よかったら使ってくれるかしら?」
「もちろんです」

 すみれが、スタイを抱きしめてうるうるしている。

「あの……私……こんな心のこもった贈り物、初めてです」
「また作ってあげるわ。兄弟のセーターとかも編みたいし」
「私もお母さんに習いたいです」

 それにしても母さんがこんなに手芸好きだったとはな。すみれとも気が合うようで嬉しくなる。

「よかった、じゃあそろそろ帰るわね」
「もうですか」

 また名残惜しくなってしまった。

 オレ、いい歳して、父さんと母さんが大好きなんだ。

 そう実感した。

「実はいっくんにプレゼントを探しに行こうとおもってな」
「え?」
「この後、銀座のおもちゃ屋さんに行く予定なんだ」
「いっくん、喜ぶだろな。なんだろう? 楽しみにしています。あの、兄さんの所にも寄って下さいね」
「そうだな、潤、ありがとう。また潤に会いに来るよ」
「あ、ありがとうございます」

 父さんが、オレのこともちゃんと大事にしてくれる。

 それが伝わってくる別れ際だった。

 愛してもらえると、自分も人を愛したくなるんだな。

 愛って循環していくものなんだな。

 オレはいろんな人に目を向けるようになった。

 だから、気づかせてもらっている。

 優しく接してもらっていることも感じ取っている。

「父さん、母さん……待ってるよ。また……会いに来て」

 最後は甘えたことを言ってしまった。

 すると父さんがガバッと抱擁してくれた。

「俺の可愛い息子だよ、潤は」

 いっくんは腕の中で、オレにくっついてむにゃむにゃと幸せそうな寝言を言っていた。

「くましゃん……はちみつ、たべにいこうねぇ……」

 




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