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小学生編
秋色日和 1
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前置き
いつも『幸せな存在』を読んで下さってありがとうございます。菅野&小森CPの秋旅行編も無事に終わりましたので、今日から新しいお話に入ります。
ハロウィンではエンジェルズを中心に楽しく書いていこうと思います。ただハロウィンにはまだ少し早いので、まずはそれぞれの日常を書きたくなりました。
ほっこりな秋の一コマををどうぞ!
****
「瑞樹、悪いが今日は残業になりそうだ」
「大丈夫ですよ。僕がお迎えに行けます」
「そうか、ありがとう。頼んだぞ」
「はい、行ってきます」
「あぁ、頑張れ!」
宗吾さんは、最近僕が歩き出すのを見送ってくれる。
大らかな宗吾さんの温かい視線を背中に感じると、幸せが満ちてくる。
爽やかな風を浴びながら、秋空を仰ぐ。
今日は月曜日、秋晴れで気持ちいい。
昔は月曜日が一番苦手だったが、今は好きになった。
10歳の僕が家族と永遠の別れを迎えたのは、日曜日の昼下がりだった。だから翌日の月曜日は、人生で一番悲しい朝だった。
あの日の夜明けは残酷だった。
もう二度と……僕は家族に優しく見送られて学校に行くことはないんだ。
病院のベッドの中で、その事に気がついて頭の中が真っ白になった。
これからどうしたらいいのか怖くて寂しくて悲しくて……カタカタと布団の中で震えても……もう誰も抱きしめてくれなかった。
……
「お母さん、行ってきます」
「瑞樹、ハンカチとティッシュは持った?」
「うん、ちゃんと持っているよ」
「えらいわね。じゃあ行ってらっしゃい」
「うん!」
歩き出すと、お母さんに「みーずき」っと呼ばれた。
とても優しい声だった。
振り返ると、お母さんはニコっと微笑んで僕を軽く抱きしめてくれた。
「忘れ物よ」
お母さんのエプロンからは甘い卵焼きの匂いがした。
陽だまりみたい。
「みーくん、大好きよ」
「お母さん、僕……もう10歳だし、もうお兄ちゃんだよ? 夏樹に見られたら恥ずかしいよ」
「あら、瑞樹は瑞樹よ。永遠にお母さんの子供よ」
「……ありがとう」
「今週も頑張ってね」
「うん! 行ってきます」
……
それは小さい頃から繰り返されてきた月曜日の儀式だった。
もっと小さい頃は素直に「お母さん、大好き!」と言えたのに、だんだん恥ずかしくなってしまった。
今だったら、あの日の戻れるのなら、ちゃんと伝えたい。
「お母さん、僕も大好きだよ」
だから心に浮かんだ気持ちは、なるべく言葉に出して伝えたい。
そう思うのは、あの日の後悔からなのか。
感謝している、好きだ、愛している。
愛情を表現する言葉は、とても素敵だ。
口に出さないと勿体ないね。
「葉山、おはよう!」
「菅野!」
さぁ、ここで秋晴れのように爽やかな男、菅野の登場だ。
いつもより上機嫌な顔に、僕もつられて笑顔になる。
「瑞樹ちゃん~ 土曜日は悪かったな。休日出社させちまったな」
「大丈夫だよ。僕も仕事の後、珍しく銀座デート出来たし」
「じゃあ銀座で気分が盛り上がって、フルコースだったのか。」
フルコース?
あぁ、そういう意味か。
まったく朝から何を想像しているのだろう?
「くすっ、そういう菅野は無事に成功したんだね。良かったよ。どうしたかなって心配していたんだよ。おめでとう!」
「よせやい、瑞樹ちゃん、照れるよ」
菅野と小森くんが無事に一つになれた。
二人の関係は深まった。
あの小森くんが大人の階段をのぼったと思うと、感慨深いよ。
あんこに勝つのは至難の業だったのでは?
「これ、宗吾さんと瑞樹ちゃんにお土産」
「なんだろう?」
「あんこクリームだ」
「……宗吾さんには見せられないよ」
「宗吾さんにハチミツクリームをもらったお礼なんだ」
「いつの間に?」
「え? いや、えっと」
しどろもどろする菅野に、たぶん男同士の行為のイロハを宗吾さんに聞いたのかと察した。
僕に聞かれても困るから、それでいいのか。
余計な想像をしていないといいが。
「くすっ、深くは聞かないよ」
「瑞樹ちゃん、天使~」
和気藹々と肩を並べて、会社に向かう。
話も弾んで楽しい。
何より僕を助けてくれた菅野が、無事に恋人との初旅行を終え、ご機嫌で出社してくれたことが嬉しい。
しかし菅野が、まさか僕と同じ道を辿るとは……
菅野は心根が優しくて気が利くので、女性からいつもモテていた。
だが小森くんと菅野が並ぶのを見て、一番しっくり来ると思った。
「純真無垢な小森くんと優しい菅野はお似合いだよ」
「そうか! 嬉しいな! 瑞樹ちゃんにそう言ってもらえると自信が持てるよ」
「菅野が幸せそうで、僕も嬉しいよ。いつもずっと……ありがとう!」
感謝の言葉を口にしてみた。
これからはもっともっと伝えていきたくて――
「俺こそありがとう。瑞樹ちゃんがそんな台詞を言ってくれるなんて、今日は最高の月曜日だ!」
****
「いっくん、これ着てみて」
「わぁ、あたらしいおようふく~」
「そうなの、芽生くんのお古にママが手を加えてみたのよ」
いっくん、うれちい!
こんなおようふくもってなかった。
かっこいいなぁ。
パパにはやくみせたいな。
いつも『幸せな存在』を読んで下さってありがとうございます。菅野&小森CPの秋旅行編も無事に終わりましたので、今日から新しいお話に入ります。
ハロウィンではエンジェルズを中心に楽しく書いていこうと思います。ただハロウィンにはまだ少し早いので、まずはそれぞれの日常を書きたくなりました。
ほっこりな秋の一コマををどうぞ!
****
「瑞樹、悪いが今日は残業になりそうだ」
「大丈夫ですよ。僕がお迎えに行けます」
「そうか、ありがとう。頼んだぞ」
「はい、行ってきます」
「あぁ、頑張れ!」
宗吾さんは、最近僕が歩き出すのを見送ってくれる。
大らかな宗吾さんの温かい視線を背中に感じると、幸せが満ちてくる。
爽やかな風を浴びながら、秋空を仰ぐ。
今日は月曜日、秋晴れで気持ちいい。
昔は月曜日が一番苦手だったが、今は好きになった。
10歳の僕が家族と永遠の別れを迎えたのは、日曜日の昼下がりだった。だから翌日の月曜日は、人生で一番悲しい朝だった。
あの日の夜明けは残酷だった。
もう二度と……僕は家族に優しく見送られて学校に行くことはないんだ。
病院のベッドの中で、その事に気がついて頭の中が真っ白になった。
これからどうしたらいいのか怖くて寂しくて悲しくて……カタカタと布団の中で震えても……もう誰も抱きしめてくれなかった。
……
「お母さん、行ってきます」
「瑞樹、ハンカチとティッシュは持った?」
「うん、ちゃんと持っているよ」
「えらいわね。じゃあ行ってらっしゃい」
「うん!」
歩き出すと、お母さんに「みーずき」っと呼ばれた。
とても優しい声だった。
振り返ると、お母さんはニコっと微笑んで僕を軽く抱きしめてくれた。
「忘れ物よ」
お母さんのエプロンからは甘い卵焼きの匂いがした。
陽だまりみたい。
「みーくん、大好きよ」
「お母さん、僕……もう10歳だし、もうお兄ちゃんだよ? 夏樹に見られたら恥ずかしいよ」
「あら、瑞樹は瑞樹よ。永遠にお母さんの子供よ」
「……ありがとう」
「今週も頑張ってね」
「うん! 行ってきます」
……
それは小さい頃から繰り返されてきた月曜日の儀式だった。
もっと小さい頃は素直に「お母さん、大好き!」と言えたのに、だんだん恥ずかしくなってしまった。
今だったら、あの日の戻れるのなら、ちゃんと伝えたい。
「お母さん、僕も大好きだよ」
だから心に浮かんだ気持ちは、なるべく言葉に出して伝えたい。
そう思うのは、あの日の後悔からなのか。
感謝している、好きだ、愛している。
愛情を表現する言葉は、とても素敵だ。
口に出さないと勿体ないね。
「葉山、おはよう!」
「菅野!」
さぁ、ここで秋晴れのように爽やかな男、菅野の登場だ。
いつもより上機嫌な顔に、僕もつられて笑顔になる。
「瑞樹ちゃん~ 土曜日は悪かったな。休日出社させちまったな」
「大丈夫だよ。僕も仕事の後、珍しく銀座デート出来たし」
「じゃあ銀座で気分が盛り上がって、フルコースだったのか。」
フルコース?
あぁ、そういう意味か。
まったく朝から何を想像しているのだろう?
「くすっ、そういう菅野は無事に成功したんだね。良かったよ。どうしたかなって心配していたんだよ。おめでとう!」
「よせやい、瑞樹ちゃん、照れるよ」
菅野と小森くんが無事に一つになれた。
二人の関係は深まった。
あの小森くんが大人の階段をのぼったと思うと、感慨深いよ。
あんこに勝つのは至難の業だったのでは?
「これ、宗吾さんと瑞樹ちゃんにお土産」
「なんだろう?」
「あんこクリームだ」
「……宗吾さんには見せられないよ」
「宗吾さんにハチミツクリームをもらったお礼なんだ」
「いつの間に?」
「え? いや、えっと」
しどろもどろする菅野に、たぶん男同士の行為のイロハを宗吾さんに聞いたのかと察した。
僕に聞かれても困るから、それでいいのか。
余計な想像をしていないといいが。
「くすっ、深くは聞かないよ」
「瑞樹ちゃん、天使~」
和気藹々と肩を並べて、会社に向かう。
話も弾んで楽しい。
何より僕を助けてくれた菅野が、無事に恋人との初旅行を終え、ご機嫌で出社してくれたことが嬉しい。
しかし菅野が、まさか僕と同じ道を辿るとは……
菅野は心根が優しくて気が利くので、女性からいつもモテていた。
だが小森くんと菅野が並ぶのを見て、一番しっくり来ると思った。
「純真無垢な小森くんと優しい菅野はお似合いだよ」
「そうか! 嬉しいな! 瑞樹ちゃんにそう言ってもらえると自信が持てるよ」
「菅野が幸せそうで、僕も嬉しいよ。いつもずっと……ありがとう!」
感謝の言葉を口にしてみた。
これからはもっともっと伝えていきたくて――
「俺こそありがとう。瑞樹ちゃんがそんな台詞を言ってくれるなんて、今日は最高の月曜日だ!」
****
「いっくん、これ着てみて」
「わぁ、あたらしいおようふく~」
「そうなの、芽生くんのお古にママが手を加えてみたのよ」
いっくん、うれちい!
こんなおようふくもってなかった。
かっこいいなぁ。
パパにはやくみせたいな。
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