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小学生編

ムーンライト・セレナーデ 17 (月影寺の夏休み編)

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 毎年恒例で、お盆は実家の土産物屋の手伝いに駆り出される。

 今年は姉貴の閃きで由比ヶ浜海水浴場に甘味処『かんのや』を出店することになり、売り子を任された。

 甘味処と聞いて「風太も一緒に店番をしないか。あんこ食べ放題付きだぞ」と誘うと、お盆時期にも関わらず、住職から休暇をもらえた。

「風太、今日は文化祭の模擬店気分で楽しかったな」
「はい、僕もそんな気分でしたよ。あとあとビーチボールも楽しかったですねぇ」
「あぁ、そうだな」

 海水浴場で高校の同級生の青山と白石と偶然会えて、休み時間には一緒に遊べた。

 病弱な白石は高校になっても病欠が多く、学生らしい日々を謳歌出来なかったことを知っている。そして中学までしか学生生活を送らなかった風太も同じだ。

 今日は二人とも童心に返り無邪気にはしゃいでいた。

 風太の笑顔、夏の日差しより眩しかったよ。白石もあんなに明るく笑うんだな。

 それは昼の話で、夜は……

 なんと俺は今、月影寺の風太の部屋で特別なマッサージを受けている。

 疲れた身体を、風太が甲斐甲斐しくマッサージしてくれるので、気持ち良くて眠ってしまいそうだ。いや眠ろうとすると妙なツボにはまり下半身が疼くので困っている。

 ううう、青山が真っ赤な顔でレインコートを羽織って蹲った気持ちが痛い程分かるぞ。

「かんのくーん、どうですか。マッサージの効き目は」
「うう、絶妙過ぎる……風太はテクニシャンだな」
「おぉ! そんな褒め言葉を頂戴するとは嬉しいですよ~ 想くんの丁寧な手解きをしっかり受けたので、自信があります」
「白石の教え方は丁寧で分かりやすかったな。そうだ風太にもしてやるよ」
「えっ! でもでも僕は精悍《せいかん》じゃないですよ。ただの、あんこですよぅ」
「あー もう風太はいちいち可愛いなぁ。あんこが好きな風太が好きだ」

 風太の首筋に顔を埋めて匂いを嗅いだ。1日中あんこまみれだったので、甘くて美味しそうだ。

 ペロッと首筋を舐めると、「わぁ」と目を見開き驚いた声を出す。

 そのまま耳朶までペロペロ舐めると、風太の声が甘さを孕んでくる。

「あっ、あっ……」

 お? もしかして感じているのか!

「キスしてもいいか」
「ちゅうですね、はい!」

 そのまま唇をしっかり重ね、緊張している風太を抱き締めて、柔らかい薄い色素の髪を手で梳いてやる。更にキスを深めて、口腔内で舌を絡めてみた。

「あ……んっ、んっ」
「気持ちいいか」
「とろん……とろん、とろけますぅ」
「もっとしていいか」
「はい……菅野くぅん……大好きです」

 おぉ! いいムードだぞ~!

 風太を仰向けに寝かし跨ぐように覆い被さって、腰を抱き締めた。

「風太……なぁ、俺たち流石にそろそろ次のステップに進まないか」
「菅野くん、次はどうしたら? 僕もしたいです」
「いいのか!」
「はい、もちろんです」

 風太も顔を真っ赤にして、同意してくれた!

「怖くないか」
「いいえ、管野くんについていきます。あぁ……僕もいよいよ大人の階段をのぼるのですね。目指せ! 丈さんと洋さんのような妖艶な色気ですよ」

 おいおい、それはハードルが高いよ。

 彼らは年季が入っているんだぞ。

 でも俺たちも今日こそは……

 ゴックンと喉が派手に鳴った。

 その時、カランコロンと下駄の音が近づいてきた。

 げげっ、猛烈に嫌な予感!

「おーい、今から肝試しをするから、お二人さんも手伝ってくれないかー」

 流さんだ!

 しかも遠慮なしにガラッと窓を開けられたので「ひぇ‼」っと、風太から1メートルも飛び退いてしまった。

「お? おぅ……あれ? もしかして俺、邪魔だったか」
「い、いえ、そういうわけじゃ。けっして、やましいことはしてません‼」

 俺何を口走ってんだ?

「あー そっか、やべえ、あとで翠に怒られるかも」

 流さんはボリボリと頭を掻いていた。

「流さん、何をお手伝いしましょうか」
「あぁ、そうそう、お前達も肝試しに参加してくれないか」
「肝試しですか。お任せください。仏の子のためなら、やんやこらですよ」
「仏の子? あぁエンジェルズのことか」
「そうです。あの坊や……樹くんはお化けを呼んでしまいそうなので、夜の墓地は少し心配です。なので僕が参りましょう」
「やっぱりそうか。小森風太しかと頼んだぞ。今日の肝試しは夏休みの楽しい思い出にしてやりたいんだ」
「了解です! 菅野くん行きましょう」
「お、おう」

 うぉぉ……どうやら今日も寸止め劇場らしい。

 宗吾さんが純真な葉山相手に、寸止め劇場を1年間も繰り広げたとは聞いたが、俺もそうなりそうだ。
 
 だが仏の子のためなら、えんやこら。

 俺にも御利益ありますように!


****

 お寺のお庭にはあかりがなくて真っくらでちょっとこわいなぁ。

 ボクはいっくんとしっかり手をつないで、ドキドキ歩いているよ。

 いつもならお兄ちゃんに手をつないでもらうけど、今日はボクがお兄ちゃんだ!

 がんばらないと!

「めーくん、くらくてよくみえないよ。こわいよぅ」
「そうだね。あれあれ、道が分からなくなっちゃった」
「あっち、いく!」

 いっくんが手を離してかけ出そうとしたので、ボクはギュッとにぎってひきとめたよ。だって危ないもん。お兄ちゃんにたのまれたもん。

「いっくん、落ち着いて。あっちにはなにもないよ」
「でもぉ、なにかひかっているよ。いっくんきてってよんでるよ」
「え? だめだよ。いっちゃ、だめ!」
「でも、おいでおいで、いっくんほちいって、いってるよ」
「えぇ?」
 
 いっくんが行こうとする方向に、オレンジ色の光りがぼうっと灯っているようにみえた。

 あれ……なんだろう! こわい!

 キャーって悲鳴をあげようとしたら、突然、ボクたちの前にこもりんくんが登場したよ。

「ぼうやたち、あっちはだめだ。こっちだよ」
「こもりんくんだー」
「ぼくたちも肝試し中なんです」
「こわかったよ」
「もう大丈夫。一緒にまわりましょう」

 まっくらだけど、こもりんくんもきてくれたので、少しこわくなくなったよ。

「おばけさん、どこ? またくるかな」
「こわいね」
「大丈夫ですよー 僕がいますからね」

 なんて言ってたのに、しげみからひょこっとあらわれたおばけに、こもりんくんが

「キャー♡」

 って、悲鳴をあげたの。

 あれれ? もしかして、こわいんじゃなくて、うれしいのかな?

「きゃー♡ なんと、みたらしおばけですよ。おいしそうです。あーん」
「わっ、よせっ! 涎を垂らすな。お、おい、食べるなー へんなとこさわるなー!」

 あれれ? みたらしおばけの声って親分とにてるのは、気のせいかな?

「あぁん~ おばけさーん、まってくださいよぅ。じゅるるー」
「ギャー 人に食われるー!」

 あれれ、どっちがおばけだったのかな?

 えへへ、きもだめしって楽しいね。

 ワクワクしてきたよ。

「めーくん、なんかたのしいね」
「うん! たのしくなってきたね。いっくん、ボクたちは先に進もう!」
「あい! いっくんね、めーくんとはなれないよ。めーくんとずっといっしょにいる」
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