1,448 / 1,730
小学生編
Brand New Day 17
しおりを挟む
いい匂いがする。
懐かしい匂いがする。
淹れ立ての珈琲と焼きたてのパンの香ばしい香り。
遠い昔、階段を下りると、いつもこんなに匂いに包まれた。
リビングへ続く扉をそっと開けると、お父さんと母さんが笑顔で僕を迎えてくれた。
……
「瑞樹、おはよう!今日も良い天気だぞ」
「みーくん、おはよう。よく眠れた?」
「お父さん、お母さん、おはよう。うん、とってもよく眠れたよ」
……
懐かしいな。
いつも楽しい夢を見て目覚めた。
今日はどんな1日になるかなとワクワクした。
毎日、毎日、明るい朝がやってきた。
それが10歳までの僕の記憶だ。
だんだんと目覚めていく。
今日の思い出はとても色鮮やかだ。
しかもリアルな美味しい匂いに包まれている。
いつもならこのまま夢の世界にいたいと願ってしまうが、今日は違う。
早く起きたい。
皆に会いたい。
僕の幸せな存在に。
そう思うと、胸の奥がドキドキ、ワクワクしてきた。
幼い頃のように。
「瑞樹、まだ起きないのか」
「ん……」
「お、やっと起きたな。おはよう」
広樹兄さんの声に甘えた返事をしてしまう。
「お兄ちゃん、おはよう」
「兄さん、おはよう」
潤の声もする。寝坊助だった潤がもう起きているのか。
思い切ってパッと目を開けると、二人の笑顔が飛び込んできた。
「わ! びっくりした。もう起きていたの?」
「みんな起きているさ! 子供たちもな」
「え? 僕だけ寝坊しちゃったの?」
耳を澄ますと、いっくんと芽生くんの無邪気な笑い声が聞こえてきた。
「めーくん、あのねあのね、いっくん、パジャマひとりでぬげるの。みててぇ」
「わぁ、いっくんってば、すごい!」
「えへへ、だって、もうおにいちゃんだもん。めーくんみたいにかっこいいおにいちゃんになりたいなぁ。なれるかなぁ」
「いっくんならきっとなれるよ!」
「よーち、いっくん、がんばしましゅ!」
いっくん、今日は朝から元気だね。そして芽生くんは朝から優しさ一杯だ。
「随分気持ち良さそうに眠っていたぞ。瑞樹の寝顔が可愛くてたまらんかった」
「兄さんってば。あのね、とてもいい夢を見ていたんだ。でも起きても幸せで嬉しいよ」
そう伝えると、広樹兄さんは目を潤ませた。
「そうか、そうか、よしよし」
広樹兄さんから見たら、僕はまだまだ小さい子供に見えるのかな?
もういい年だから頭を撫でられるのは、くすぐったいけど、兄さんが嬉しそうなので、僕もやっぱり嬉しい。
「みーくん、おはよう!」
くまのお父さんの声も聞こえた。
「お父さんも起きていたの? じゃあ僕が最後? 早く起きないと」
急に恥ずかしくなり起きたつもりだったが、起き上がることが出来なかった。
「あれ? なんで?」
なんと隣で宗吾さんが大の字でグーグーと眠っていた。
「くくっ、もう一人いるよ。寝坊助が」
宗吾さんが伸ばした手足は、思いっきり僕の上に乗っていた。
「宗吾はくつろぎ過ぎじゃねーか」
「大の字って久しぶりに見たよ」
「俺たちの大事な瑞樹に乗っかるとは」
「これは……兄さんからお仕置き?」
「はははっ、そうだな~」
広樹兄さんと潤が好き勝手言って、頷き合っている。
「そ、宗吾さーん‼ 早く起きて下さいよ~」
「ふが? おー 瑞樹、今日も可愛いなぁ」
「ちょっ!」
「え? もうそんな時間かー あー よく眠った。瑞樹もよく眠れたか」
宗吾さんは相変わらず臆することなく堂々としている。
よく眠れたか。
そう聞かれて、僕は自信を持って答えることが出来た。
「はい、ぐっすり眠れました」
「そうか、俺もだ。腹減ったな-」
「くすっ、もう皆起きていますよ」
「おっと、俺が最後か」
「そのようです」
「俺もぐっすり眠っていたのさ。皆さん、おはようございます! みんな勢揃いで笑顔の朝か……こういう日を英語で、なんて言うんだったっけ?」
宗吾さんが寝癖だらけの髪を手櫛で解しながら、溌剌とした笑顔を見せてくれた。
「そうだ! 『Brand New Day 』だ!」
「希望に満ちた新しい始まりですね」
「そうだ。いっくんがお兄ちゃんになり、潤は二児の父になり、お父さんはおじいちゃんになり……芽生は弟が増え、俺と瑞樹には甥っ子が増えた。みんな一歩ずつ前に進んだ日さ!」
宗吾さんの笑顔に、皆が頷きあった。
ここに集う僕たちは、少しずつ大切な存在を失っている。
でも、今はとても満ちている。
それは補い合える関係だから。
助け合い、寄り添うってそういうことなのかも。
補強された人生の道は揺るぎない。
だから僕ももう恐れずに、一歩踏み出せる。
「僕も夢と希望を持って、前進していきたいな」
ふと漏らした言葉に、広樹兄さんが感涙の涙を浮かべた。
「ううっ、瑞樹からそんな言葉を聞けるなんて。俺、今日、ここにいられて良かったよ」
「兄さん……これからが皆がそれぞれの人生を輝かせていけたらいいね」
「あぁ、俺もそう思う」
Brand New Day!
この言葉が、僕らの合言葉になるだろう。
2日間、潤は菫さんの面会にせっせと通い、僕たちはお父さんといっくんと一緒に、のびのびと軽井沢の春を楽しんだ。
やがてお母さんが来てくれたので、バトンタッチ。
束の間の休日は、とても充実したものとなった。
この先も季節は巡っていく。
僕たちに新しい風を吹き込みながら。
『Brand New Day』 了
懐かしい匂いがする。
淹れ立ての珈琲と焼きたてのパンの香ばしい香り。
遠い昔、階段を下りると、いつもこんなに匂いに包まれた。
リビングへ続く扉をそっと開けると、お父さんと母さんが笑顔で僕を迎えてくれた。
……
「瑞樹、おはよう!今日も良い天気だぞ」
「みーくん、おはよう。よく眠れた?」
「お父さん、お母さん、おはよう。うん、とってもよく眠れたよ」
……
懐かしいな。
いつも楽しい夢を見て目覚めた。
今日はどんな1日になるかなとワクワクした。
毎日、毎日、明るい朝がやってきた。
それが10歳までの僕の記憶だ。
だんだんと目覚めていく。
今日の思い出はとても色鮮やかだ。
しかもリアルな美味しい匂いに包まれている。
いつもならこのまま夢の世界にいたいと願ってしまうが、今日は違う。
早く起きたい。
皆に会いたい。
僕の幸せな存在に。
そう思うと、胸の奥がドキドキ、ワクワクしてきた。
幼い頃のように。
「瑞樹、まだ起きないのか」
「ん……」
「お、やっと起きたな。おはよう」
広樹兄さんの声に甘えた返事をしてしまう。
「お兄ちゃん、おはよう」
「兄さん、おはよう」
潤の声もする。寝坊助だった潤がもう起きているのか。
思い切ってパッと目を開けると、二人の笑顔が飛び込んできた。
「わ! びっくりした。もう起きていたの?」
「みんな起きているさ! 子供たちもな」
「え? 僕だけ寝坊しちゃったの?」
耳を澄ますと、いっくんと芽生くんの無邪気な笑い声が聞こえてきた。
「めーくん、あのねあのね、いっくん、パジャマひとりでぬげるの。みててぇ」
「わぁ、いっくんってば、すごい!」
「えへへ、だって、もうおにいちゃんだもん。めーくんみたいにかっこいいおにいちゃんになりたいなぁ。なれるかなぁ」
「いっくんならきっとなれるよ!」
「よーち、いっくん、がんばしましゅ!」
いっくん、今日は朝から元気だね。そして芽生くんは朝から優しさ一杯だ。
「随分気持ち良さそうに眠っていたぞ。瑞樹の寝顔が可愛くてたまらんかった」
「兄さんってば。あのね、とてもいい夢を見ていたんだ。でも起きても幸せで嬉しいよ」
そう伝えると、広樹兄さんは目を潤ませた。
「そうか、そうか、よしよし」
広樹兄さんから見たら、僕はまだまだ小さい子供に見えるのかな?
もういい年だから頭を撫でられるのは、くすぐったいけど、兄さんが嬉しそうなので、僕もやっぱり嬉しい。
「みーくん、おはよう!」
くまのお父さんの声も聞こえた。
「お父さんも起きていたの? じゃあ僕が最後? 早く起きないと」
急に恥ずかしくなり起きたつもりだったが、起き上がることが出来なかった。
「あれ? なんで?」
なんと隣で宗吾さんが大の字でグーグーと眠っていた。
「くくっ、もう一人いるよ。寝坊助が」
宗吾さんが伸ばした手足は、思いっきり僕の上に乗っていた。
「宗吾はくつろぎ過ぎじゃねーか」
「大の字って久しぶりに見たよ」
「俺たちの大事な瑞樹に乗っかるとは」
「これは……兄さんからお仕置き?」
「はははっ、そうだな~」
広樹兄さんと潤が好き勝手言って、頷き合っている。
「そ、宗吾さーん‼ 早く起きて下さいよ~」
「ふが? おー 瑞樹、今日も可愛いなぁ」
「ちょっ!」
「え? もうそんな時間かー あー よく眠った。瑞樹もよく眠れたか」
宗吾さんは相変わらず臆することなく堂々としている。
よく眠れたか。
そう聞かれて、僕は自信を持って答えることが出来た。
「はい、ぐっすり眠れました」
「そうか、俺もだ。腹減ったな-」
「くすっ、もう皆起きていますよ」
「おっと、俺が最後か」
「そのようです」
「俺もぐっすり眠っていたのさ。皆さん、おはようございます! みんな勢揃いで笑顔の朝か……こういう日を英語で、なんて言うんだったっけ?」
宗吾さんが寝癖だらけの髪を手櫛で解しながら、溌剌とした笑顔を見せてくれた。
「そうだ! 『Brand New Day 』だ!」
「希望に満ちた新しい始まりですね」
「そうだ。いっくんがお兄ちゃんになり、潤は二児の父になり、お父さんはおじいちゃんになり……芽生は弟が増え、俺と瑞樹には甥っ子が増えた。みんな一歩ずつ前に進んだ日さ!」
宗吾さんの笑顔に、皆が頷きあった。
ここに集う僕たちは、少しずつ大切な存在を失っている。
でも、今はとても満ちている。
それは補い合える関係だから。
助け合い、寄り添うってそういうことなのかも。
補強された人生の道は揺るぎない。
だから僕ももう恐れずに、一歩踏み出せる。
「僕も夢と希望を持って、前進していきたいな」
ふと漏らした言葉に、広樹兄さんが感涙の涙を浮かべた。
「ううっ、瑞樹からそんな言葉を聞けるなんて。俺、今日、ここにいられて良かったよ」
「兄さん……これからが皆がそれぞれの人生を輝かせていけたらいいね」
「あぁ、俺もそう思う」
Brand New Day!
この言葉が、僕らの合言葉になるだろう。
2日間、潤は菫さんの面会にせっせと通い、僕たちはお父さんといっくんと一緒に、のびのびと軽井沢の春を楽しんだ。
やがてお母さんが来てくれたので、バトンタッチ。
束の間の休日は、とても充実したものとなった。
この先も季節は巡っていく。
僕たちに新しい風を吹き込みながら。
『Brand New Day』 了
11
お気に入りに追加
832
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる